(ウォール・ストリート・ジャーナル)ブラジルの景気に新たな下ぶれ懸念が示されたことで世界経済をめぐる
警戒感は拡大している。ここ数年にわたり成長をけん引してきた新興国市場は減速している。
ユーロ圏の債務危機が長引き、米景気回復の足踏みがそろわない状況においてこれは大きな懸念材料となってい
る。ブラジル、中国、ロシア、インド、南アフリカは世界が2008年の金融危機から回復することを支えたダイナ
ミックな経済に含まれる。
しかし現時点で各国が同じようなけん引効果をもたらす公算は小さく、通貨高、インフレ、赤字、不動産バブル
などの問題を抱えるケースもある。
今週に入り、ブラジルは2011年の経済成長は2.7%前後だったと明らかにしたが、これは1年前の政府予想のほぼ
半分にとどまった。またブラジルは7日、1月の鉱工業生産は2.1%減と08年の危機以来最大の落ち込みを示したと
明らかにした。その後、ブラジルの中央銀行は指標金利を0.75%引き下げ、予想以上の下げ幅をもって成長を促
した。
「世界経済を背中に抱える重みは新興市場経済を圧迫し始めている」と米コーネル大学の経済学者エスワー・プ
ラサド氏は述べた。プラサド氏は経済政策にかんしてインドや他の新興国に助言している。「新興市場経済では
、世界的回復に貢献する能力が試されている」。
新興国の間で成長予測の引き下げが相次いでいる。月曜には中国の温家宝首相が今年の同国の年間成長目標を7
.5%に引き下げた。中国は05年からこの目標を8%に据え置いていた。先週には、インドが11年10-12月期の成長
は6.1%と過去2年で最低水準になったと明らかにした。エコノミストらは南アフリカの今年の成長は2.5%に鈍化
すると予想しているが、これは約1年前に中央銀行のギル・マーカス総裁が高失業率を抑えるべく掲げた7%成長
という目標からは程遠いものとなった。
世界の多くの新興国経済では日本や米国、欧州を上回る成長が続いている。これらの地域での外国投資は回復し
ており、商品価格の上昇も鉱物資源の豊富な南アフリカや鉄鉱石、大豆、牛肉の主要輸出国であるブラジルなど
資源国の成長を支えている。
「新興市場は依然として汽車の前列に位置しているもの、その汽車の速度は減速している」と債券1兆3000億ド
ル相当を運用するパシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のモハメド・エラリアン最高経営責
任者(CEO)は述べた。
09年には新興国市場が先進国を上回る成長をあげることが通常となる世界経済を説明するのに「ニュー・ノーマ
ル」という文言を掲げることに寄与したエラリアンCEOは、この理論は今も通用するもので、欧州の政策担当は地
域の債務危機を解決することでその影響が他の地域へと拡大することを回避する責任があると述べた。
しかし、世界の成長構成において重要なシフトはすでに起きている。10年にはエコノミストらが「two speed r
ecovery」という言い回しで新興国の高成長、先進国の低迷ぶりを説明した。しかし現在はいずれも減速している
。1月には国際通貨基金(IMF)が2012年の新興市場の予想を3カ月前のそれから0.7%引き下げ5.4%とした。11年
は6.2%成長だった。
減速を説明する要因はいくつかある。中国はより持続的な成長率への減速を目指している。欧州や米国への輸出
フローは鈍化しており、これに伴い中国への商品の流れも緩やかになっている。一部の貧困国で必至となってい
る経済改革についても、経常的な高成長はすでに達成されたとの見方からその勢いは失速した。
中国の減速は、ブラジルや南アフリカなど商品輸出国にとって最大の貿易相手であるだけに、その影響は世界中
へと広がる。中国はブラジルから鉄鉱石、大豆、南アフリカから鉄鉱石、マグネシウム、銅やその他の金属、イ
ンドから灰、銅を購入している。先進国から自動車や高級品を買っていることは言うまでもない。
中国経済は過去30年にわたり平均10%のペースで成長したが、これを成し遂げた国は他にない。しかし、その成
長モデルは輸出、資本集約型産業への投資、不動産価格上昇という現在は圧迫されている3つの基軸に大きく依存
した。
野村証券は、日本や米国、欧州の市場がよろめく中、中国の2月の輸出は前年同月比15.2%減少したと予想して
いる。
中国の大都市のマンション価格は大半の国民の手に届かない水準にまで高騰したため、ブームの土台は崩れ、指
導部にとって政策上の難題になった。
現在、中国の指導部が長年にわたる2桁成長の時代は終わることを示している。国内の消費需要に一層依存した
成長へのシフトという構想だ。これは中国にとってはるか将来まで見据えた成長に向けた一段と堅固な基盤をも
たらす可能性もある。しかし、新規雇用を創出しつつこの移行を進めるには難しいかじ取りが求められる。
(続く)
ブラジルの政府高官らは、米国や欧州の利下げについて、(同国などへの)投機資金の殺到を通じて通貨高を招
き、競争力を脅かしたと非難している。
しかし、この国が抱える多くの問題は自家栽培のものだ。高税率、貧弱な道路、官僚主義の横行、固有の汚職に
よってブラジルは世界でも生産に最も高額を要する国の1つとなっている。
この結果、ブラジルの工業セクターは次第に競争力を失うという緩やかな死への道のりを歩んでおり、商品輸出
企業やレストラン、映画館など活況を呈する向きとは対照的な様相を示している。これはブラジルのような貧困
にあえぎ、教育の行き届いていない人口を抱える国では、製造こそが良質な雇用を生み出すだけに憂うべき傾向
となっている。
同国最大の製造業界団体、ブラジル全国工業連盟は今週、ブラジルの経済見通しに警鐘を鳴らす声明を発表、そ
の工業基盤は縮小しており、1月の耐久財生産は前年同月比7.6%減となったと明らかにした。
この減速はルセフ大統領率いる現政権にとって政治的に重大な影響を伴う。同大統領は高成長を通じた雇用創出
を唱えて立候補した経緯がある。マンテガ財務相は先月22日のインタビューでインフラ支出向け融資拡大や利下
げを含む成長を促す複数の措置を約束した。
マンテガ財務相が将来の年間成長として掲げる5.5%はもはや現実味を帯びなくなっている、と多くのエコノミ
ストが述べている。今年の市場予想は3.3%。「われわれは引き続き4%から5%を目標にしている」とマンテガ財
務相は述べた。
インドもまた予想を下回る成長にあえいでいる。国は高額を要する社会福祉支出を約束してきたほか、その燃料
補助制度は負担が重くなっている。一方で、成長鈍化に備えてこなかったと指摘するアナリストもいる。1年前に
、インドは11年度(11年4月-12年3月)の予想成長率を9%としたが、最近になってこれを7%に引き下げた。
政府は財政赤字をさらに拡大することなく補助金を支払うよう圧力を受けている。しかし、政府は人気を維持す
るために赤字拡大を余儀なくされる可能性もある。
「はるかに多くを成し遂げる潜在性を持つ国だが、政府の近視と怠慢とに苦しんでいる」とCLSAアジアパシフィ
ックマーケッツのシニアエコノミスト、ラジーフ・マリク氏は述べた。
南アフリカも昨年明らかにした4%成長という政府の楽観的な予測から下ぶれしており、中国の商品購入への重
大な依存が響いている。鉱業生産は11年に13%減となり、成長は3%にとどまった。失業率24%の同国では、市民
に雇用をもたらす取り組みが難しくなっている。
「目先の課題はさらなる悪化を食い止めること」と南アフリカのゴーダン財務相は8日の国内紙の論説で述べた
。
-0-
Copyright (c) 2012 Dow Jones & Co. Inc. All Rights Reserved.
Copyright (c) 2012 Dow Jones & Co. Inc. All Rights Reserved.