ムーレイ・ブッセラムの最後の夜は満月だった。韓国テレビを見ていたら旧正月の後の初めての満月に願いがかなうとの事で、韓国では大きなお祭りがある。ここのキャンピングサイトは大きくて、フランス、イタリア、スペイン、ドイツなどのキャンパーがたくさん駐車しているが、日暮れとともに辺りは静寂が訪れ、遠くの波音がきこえるだけ。
満月をめでる人も見えず、月の輝きがあまりに明るすぎて周りの星など全然目に入らない。夜中まで湖畔のキャンプサイトは青い光が満ちていた。
朝もやの中、キャンプサイトを後にする。ララシェ(Larache)までの数十キロを高速にのり、ここからティトゥアンまでは山を分け入って東海岸へ向かう。広い耕作地や牧場が広がり、山もなだらかな起伏があるだけで、2時間くらいでティトゥアンの純白の町が見えてきた。
岡の上から隙間無しに純白の大小の箱を置き並べたような町は、メディナが世界遺産に登録されている。しかしそこまで行くほどの気力がなくなってしまった。本当はこの近くのマーティルのキャンプサイト(モロッコで初日に泊まった)で2泊してこのメディナも見てこようと思ったけれど、モロッコの町もメディナも大小の差はあれどこもあまり変わらない。
ティトゥアンの町外れの大きなスーパーマーケットでディーゼルを満タンにし、手持ちのお金は今夜のサイトの料金だけを残して全部使うことにした。食料をたくさん買い込み残ったお金がコインで9DH(約70ペンス)明日国境で誰かに上げよう。
マーティルのキャンプサイトでもオーナーは私たちを覚えていた。日本人でキャンパーでやってくる人は今まで居なかったと見える。午後3時、6時、8時と近くのモスクからお祈りの声が響いてきて、良く見れば塔の上の拡声器が此方を向いている。あぁぁぁウルサイ。
あのお祈りの声がどれだけ響いても地元のアラブ人がそのたびに頭を地面にこすりつけて祈っているとは思えない。モロッコは比較的穏健なイスラム教徒だとのこと。
それでも高速道路の休憩所には、お店やレストラン、それに男女別のお祈り用の部屋まであったが誰もいなかった。