青龍神界鏡

次はまた首相してみんかお前。
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二百五面目   花柄の筆箱を包む物は その五 お

2017年07月31日 23時00分00秒 | 投稿

案内された先では段差のある碁盤目の木造天井から漏れる電灯の光が広大な祭壇を照らしています。
電動式の空調音が聞こえる同じ段差は、冷却された外気を室内に流しています。
京側が清側を無視してただ黙々と耽るのは、祭祀の準備です。
巨大な三方(さんぼう)に供(く)べるのは十七センチ大の巨大なサクランボなどで、これは金星人が遺伝子操作で創生し、京との精神的正対を恐怖で嫌がり京への嘲笑の暇(いとま)として与えたものです。
京は万物輪郭理解、“辺”を弄(ろう)し、背後の意思を見抜いた上、これに特殊な祭祀への供物(くもつ)役を与えていました。
祭壇の前では鉄棒製の折り畳み椅子が広げられていきます。
清側の一人が腕を組んで考え事に耽っていると、二十九の装束が近づいて来て、怒りの表情で自身の右肘を尖らせて二度そこを叩く仕草を見せます。
意味を分からず当惑していると、やつれた表情は漢語でこう明かします。
「遠方からわざわざご苦労ぐらいは言ってやりたいがな、こちらとしてはな、“掛け軸の虎”(阿片中毒の虎の隠喩)に言葉をかける空しさは・・・」
疲労困憊(こんぱい)の顔は言葉の結を無視し、意味を理解されぬと知る立ち去りを句読(くとう)点に置きます。
次にやって来たのは六十代の女です。
「どうして今、そうして無様に佇んでいるのか分かりますか、明の街路の台車引きよ。」
今度は日本語に理解がある者が相手です。
「ただ、当惑しております。」
「黙りなさい。
神聖な間でそのような声色を放つものではありません。
放つとは手から子を放す事なのですよ。
その前に揺り動かしの暖かさが要る事なのですよ。
その声色以外で、丁寧に意味を伝えなさい、明の街路の石畳の材料よ。」
困窮を極めた言葉が揺り動かすのは困窮周辺の反射的な怒りです。
「では、一体どうしろと言うんですか。
私達は五時間も待たされた上、小用も始終我慢していたんですよ。」
“小用”、“始終”、“我慢”いずれかによるひっかかりに対する反応から攻略していく即興算段です。
すると女は怒気の籠った言葉に恐怖でおののき、無言で立ち去って行きました。
次は眉間に皺を寄せた四十代半ばの男がやって来て顔を十センチの至近距離まで詰めて来ます。
「お若いですねぇ。
小獅子よ。
この一団に身を置き、ここで詳(つまび)らか容易ならぬ咎事(とがごと)、大禍津日(オオマガツヒノカミ)かくありき、高天原を汚せし素戔男(スサノオ)の物々しい人知るべからずの行状を祝詞に・・・」
一団の角に偶然立っており、接近に会った冠は試しただけでした。
無言のまま目に、かつて成功せし行為各種の中央色を宿してみたのです。
すると唇を小刻みに震わせ、言葉尻貧しい悪態と共に立ち去って行きます。
認識はすぐさま共有されました。
“この連中は本心のままにあるが、人生からして何かによる被律動が長い、空人形”。
京側は全員が詰めの失敗の連続を遠巻きに知り、敗北感に落ち込みながら準備作業を続けています。
作業が終わると、従事していた四十三名の内半分は扉を出て別室に向かいます。
すると京側の中から表情の暗い二十代の男、三十代の女がやって来て、左右に散り今度は片手を椅子に差し向けて、着席を提案して来ます。
「座っていいのでしょうか。」
無言でやや頷き、かしこまる表情を返してきます。
ここで清側にとって不幸な偶然による重大な局面を迎えます。
椅子が一つ足りず、二十脚しかないのです。
地位構成としては三十四の冠を首位に、直面していく視界内の仕事を無視した、面子(めんつ)上ではなく組織運営上、動かし難い序列が存在しており、最下位とは通訳が立っていました。
他にも日本語に理解を有する者は立っていましたが、日本語細微までへの理解は十九の通訳にしか期待出来ず、また当然肝心な京の代表者の意思の把握に際し、心許(もと)ない時を過ごす事は出来ません。
清側は早口の小声で議論を交わし、大いに悩みます。
もし、一人が椅子を通訳に譲るとなると北京に戻った後に、その一人が擁している大勢の部下が必ず、通訳領域の仕事に関わる職員を自動的、非意図的に異星人象限で甚大な危機に晒す事になり、これへの推移を知りつつ起点を認めたとなると後に待つのは重篤な組織的脳出血でした。
正式通訳の人数は出国前に議論に資しており、通訳を増やすとなると今回の伺い事属性の訪日の意思が拡散すると見た故の人数配分でした。
清側による、本心の困窮の露出を察知した京側は横暴なほくそ笑みを隠さぬ、腕を組みつつの着席の勧めです。
「早く座ってはいかがですか。
長旅お疲れでしょう。
女子向け麻袋(かつて誤って京へ長らく輸出していた化粧水入れの小さい麻袋は嫉妬を避ける外装をしていた)さん達よ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
“まずい、政治家役がこの機に及んで精神の硬直を強張った苦笑いと共に露出するとなると、こちらは組織としては生理上の恥回避が主要目標に据えられるべく、何らかによっていざなわれていく。
冠の俺はこの無言は許されん。
機が発生すれば、椅子の大きさとの不一致やらに触れて適当に言葉を濁そう。”
この時、緊張の面持ちに職務上の好奇が乗る、職務にとって禁物である個人情報への身の乗り出し、思春期への分泌律動器官にして医師以外の言及者を必ず異常者にすると当時捉えられていた“扁桃腺(へんとうせん)”の顔が入口方面を向いているのを周囲に察知してしまいます。
“次には何だ。
ここでのどんな要望が降るんだ。”
いつぞやに入口に立つのは、白い装束との異なりから威容に満ちる三名の姿でした。
一名は二本の脇差しを右腰に帯刀させた侍で、一名は異星文明刺繍明瞭なる衣服に身を包んだ金星人で、残る一名は京側の一団の後列に紛れていた漆黒の装束の男です。
漆黒の装束は二名を連れ立って、ゆっくりと拝殿の広間で足を進めます。
装束の男は壇上に立つ祭壇前へ続く右端の階段を昇るかに見え、神饌(みけ)を抱える三方(さんぼう)群の前で祭壇の前に立ち、遠巻きにこちらを観察し出します。
残る二名は男から離れ、広間の斜め前方で小声の談笑を始めます。
清側は、会釈(えしゃく)は出来ぬ距離に立つ恐らくは京側の今回の全権代表を前にしながら、足りぬ椅子についての悩みを続けざるを得ないという苦境です。
漆黒の装束の男は清側を凝視しつつ、僅かに顎を振ると清側の近くに立っていた一人が自らこそ適役と認識させ、身を屈め、小さい歩幅の小走りで男に駆け寄り、方膝を立て、膝まづき、報告事を行い出すと正座となり、次は額突(ぬかず)いて拝礼し、正座のまま両腕の側面部分で体を押して後方に進み、先と同様の屈従的表現を存分に飲みつつ立ち上がりそそくさと部屋の外に去って行きます。

二百五面目   花柄の筆箱を包む物は その五 か

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