スノーマン見聞録

ジャンルも内容も気の向くまま~“素浪人”スノーマンの見聞録

読書三昧 (15)藤澤周平著 『海鳴り』

2013年11月03日 | 雑感
北海道は 初冬 山眠る季節が近づいてきました。

肌寒くなってくるとなぜか気持ちも沈んでくる。 そんな時、なぜか藤澤周平の小説を手に取りたくなる。


1992年庄内平野の中心地・鶴岡市生れ。 中学教師をしていたが結核を患い2年で辞め、業界紙記者等の経歴をもつ。

郷里の海坂藩を舞台に下級武士、江戸市井に生きる庶民のいきざまを描く巧みさは見事である。

長編・シリーズもの・短編、、いずれも読後なにか暖かく癒される。

そのなかでも『海鳴り』は最高作品と私は思う。

再読してみることにした。 幾度読んでも実にいい。

紙問屋の主人・新兵衛、、その寄り合いでふとしたことから知りあった同業丸駒屋の妻おこう。

互いに伴侶がありながら道ならぬ恋におちる。 不義密通は御法度の時代である。

46歳初老の主人公と30歳半ばの美しい人妻、、現代の不倫小説ではあるのだが、藤澤時代小説で読めば安らぎをおぼえるのはなぜだろうか。 

主人公を通し、心の隅にある誰しもに潜む "ぼんやりとした不安と打算そして冷徹さ" をも見事に描く。 
また激しい恋ゆえ切ない。 とにかく哀切極まりないのである。


藤澤氏はこの『海鳴り』を書き始めた当初、物語の主人公である新兵衛とおこうを、結末では心中させるつもりでいたという。
だが、書き進むうち二人に情が移り、殺すのが忍びなくなって江戸から二人、おこうの乳母の里・水戸へ駆け落ちするところで幕を閉じたと。 作者としては読者ともども、二人が首尾よく水戸城下まで逃れ、そこでひっそりと暮らしていると思いたい、、、と述懐している。

これが藤澤周平の世界というか、、、【救いの小説】と言われるゆえん、、、そんな気がした。


藤澤周平は「女」で読ませるともよくいわれます。

この『海鳴り』でのおこう。『蝉しぐれ』でのおふく。『用心棒日月抄』での佐知。映画<武士の一分>で有名になった『隠し剣秋風抄』(盲目剣谺返し)での加世もしかり。

なんとも素敵な女性を描いている。 、、、この世にはなかなかいない(失礼!)。


いや必ずいる。  そんな思いであなたもこの『海鳴り』の世界を彷徨ってみてください。

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