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映画・演劇のレビュー

砥上裕將『7・5グラムの奇跡』

2021-11-19 15:46:44 | その他
『線は、僕を描く』で鮮烈なデビューをした砥上裕將の第2作。今回も前回同様自然体のタッチで、ひとりの青年の成長を見守る。前回は水墨画の世界に誘われる青年のお話だったが、今回は視能訓練士を取り上げた。でも医療現場を扱う小説というわけではない。結果的にはそういうことになるけど、あくまでも前回同様ひとりの弱い男の子が自分にできることをみつけて(自分の為すべきこと、と言うほうがいいか)その道をゆっくりと進ん . . . 本文を読む
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遠宮にけ『あなたを愛しているつもりで、私は――』

2021-11-17 17:27:28 | その他
発達障害の4歳児とその母親のお話。読みながらどうしてこんなにつらい話ばかり最近は読んだり見たりしているのかと、自分にあきれた。たまたまそうなっただけなのだけど、それにしてもしんどい。と、言いながら読む手が止まらない。途中さすがに2度休憩を入れたけど、一気に1日で読み終えてしまった。最後は少し甘いけど、でも、そこに至る過程は強烈で、どうなるのかと、ハラハラドキドキさせられた。 仕事を辞めるまでの部 . . . 本文を読む
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『娘は戦場で生まれた』

2021-11-17 13:39:52 | 映画
この映画を見て、シリアのことなんて何も知らないでいたのだな、と改めて思う。新聞の報道や、テレビのニュースで垣間見たことだけ。内戦化の現実をこういう形でリアルに目撃する衝撃。これは今の時代だから可能なのだと思う。リアルタイムでスマホやビデオで撮られた映像が、生々しいまま提示されていく。2016年までの時間が2019年の作品として編集され、日本でも2020年に劇場公開される。シリアの内戦は今も現在進行 . . . 本文を読む
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『恋する寄生虫』

2021-11-16 12:22:10 | 映画
都会の片隅でふたりの男女が出会い恋に陥る。そんなラブストーリーなら、今までたくさん作られてきた。これもそんな凡百な設定に一篇かもしれない。だけど、そこに寄生虫の話は大きく関与してくることで、一風変わった作品に仕上がった。最初は何が始まるのかと、ドキドキしたけど、最後まで見たら、ありきたりのラブストーリーに落ち着きがっかりだ。だけど、このがっかりは嫌いではない。なるほど、とホッとさせられた。なんだろ . . . 本文を読む
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『エターナルズ』

2021-11-16 11:39:05 | 映画
あまり評判はよくないようなので、期待はしなかったけど、想像以上につまらなくて驚いたし、なんだか悲しかった。監督はクロエ・ジャオ。せっかく『ノマドランド』でアカデミー監督賞まで受賞したのに、その直後の作品でこういう失敗をしてしまうと、今後の彼女のキャリアにどういう影響を与えることになるのか、他人事ながら心配だ。それでなくても、アジア人初の監督賞という金看板は反対にへんなパッシング材料にも成り兼ねない . . . 本文を読む
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iaku『フタマツヅキ』

2021-11-15 09:37:55 | 演劇
ある家庭の話である。二間しかない狭い家で暮らす3人家族。夫はほとんど家に寄りつかない。高校三年生の息子は、父親が大嫌いだ。働かなくてフラフラしている。漫談家だったが、40になり落語家に転向した。だが、芽が出ないまま、脱落して、知人の伝手で細々と管理人の仕事をしている。落語家なのに、ネタを覚えられない。彼にできる演目は「初天神」だけ。でも、今ではそれもおぼつかない。 自分はもう現役をリタイアしたと . . . 本文を読む
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町田そのこ『うつくしが丘の不幸の家』

2021-11-15 09:05:18 | その他
読みながら、ここまで暗い気持ちになるのはめったにないことだ、と思った。さすがにこんな不幸の連鎖はなかろう。なのに、読みながらとても幸せな気分になる。もちろん不幸が幸せではない。この不幸の先に見える一条の光に共鳴するのだ。ささやかな輝きが未来を照らす。 5つの物語はありえないような不幸の歴史で、そのそれぞれの境遇は似ている。同じじゃないのに、同じように不幸なのだ。この一軒の家を巡るお話は他人から見 . . . 本文を読む
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『愛のまなざしを』

2021-11-13 10:36:11 | 映画
万田邦敏監督の久々の新作だ。寡作なので待望の、というべきなのかもしれない。前作『接吻』が強烈だった。今回も仲村トオルが主人公を演じる。前作の小池栄子にも勝るとも劣らない怖い女を杉野希妃が演じる。 精神科医が邪悪な患者に振り回されるホラーではない。表面的にはそんな感じの設定だし、結果的にはそういうことになるのだけど、万田監督なので、一筋縄ではいかない。一対一の対話がほぼ全編を彩る。それはほとんどが . . . 本文を読む
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吉田修一『オリンピックにふれる』

2021-11-11 12:46:43 | その他
4話からなる短編集だ。最初、東京オリンピックにまつわる4つのお話の連作だと思い読み始めた。だから、読んでいて「えっ?」という違和感があった。最初は思い込みもあるし、はっきりと時代が銘記されてないこともある。だが、徐々に違うな、とわかる。やがて、これは北京オリンピック直前のお話だと明確になると、なるほど、と納得した。最初の『香港林檎』を読み終えたとき、最後のところに(群像2007年4月号)と明記があ . . . 本文を読む
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『ボクたちはみんな大人になれなかった』

2021-11-10 11:17:10 | 映画
ネットフリックスの新作である、なんと今回は劇場公開と同時配信という驚きの展開を用意した。大胆にも次から次へといろんなことをするものだ。あきれる。夜中にベッドの中で、スマホで鑑賞した。映画は映画館で見るものだけど、この映画にはこんな鑑賞の仕方も悪くはないかも、と思えた。たわいない話である。そして小さな映画だ。だけど、なんだかこれは素敵な映画だった。2020年の今、40代後半にさしかった主人公は25年 . . . 本文を読む
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青山美智子『月曜日の抹茶カフェ』

2021-11-10 11:03:41 | その他
とても読みやすくて、なんだか元気にさせられる小説だ。だけど、そこには押しつけがましさは微塵もない。実にあっさりとしている。そんな匙加減が素敵だ。彼女の他の著作はまだ読んでないけど、この1冊で青山美智子の作家としての基本姿勢が確かなものとして伝わってくる。 本作は12の短編連作で1月から始まって12月まで、12人のそれぞれも物語が綴られていく。このタイトルから推察するに、これは彼女のデビュー作であ . . . 本文を読む
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原宏一『ヤスの本懐』

2021-11-10 10:47:21 | その他
ヤッさんシリーズの完結編になる。サブタイトルに「ヤッさんファイナル」とちゃんと銘打たれている。中編小説3作連作だが、全体で1本の長編作品になっている。 ヤッさんの弟子であるふたりが主人公になる2作品(『マリエの覚醒』『タカオの矜持』)のあと、タイトルでもある『ヤスの本懐』で満を持してヤッさんが登場するという体裁だ。 そうなのだ、今回はヤッさんが行方不明になったところから、お話は始まる。主役が不 . . . 本文を読む
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君嶋彼方『君の顔では泣けない』

2021-11-10 10:28:18 | その他
高校1年の夏、プールに落ちた坡平隆と同級生の水村まなみはその日の翌朝(その瞬間ではなく)目覚めるとお互いの体が入れ替わていた。そこから始まる荒唐無稽で奇想天外なお話がリアルの感触のもと、描かれる。 このパターンはさんざんドラマや映画でやり尽くされている。だから、最初は「なんだかなぁ」と思いながら読み始めたのだが、すぐにこれは従来のパターンとは違うぞ、と襟を正した。本気でこの設定と向き合っている。 . . . 本文を読む
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『ひらいて』

2021-11-08 19:24:47 | 映画
高校を辞めてから、なぜか高校生を主人公にした映画や小説をあまり見なくなったし読まなくなった気がする。なんとなく、だ。避けているわけではない。しかも、興味がなくなったわけでもない。なんとなくだ。なのに、ここ数日連続して高校生を主人公にした映画、小説、芝居と続いた。しかも、いずれも一時期はやった「キラキラもの」ではない。まぁ、なんとなく、である。 弱冠26歳の首藤凜監督の本格的商業映画であり劇場用長 . . . 本文を読む
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Sword Works プロデュース『夏色の翼』

2021-11-08 19:16:20 | 演劇
なんとひと月ぶりの演劇鑑賞である。こんなに芝居を見なくなったのは、この40年ほどでたぶん初めてのことだ。まぁ、コロナのせいで、この2年はずいぶん鑑賞本数は減っていたけど、この数か月は特に忙しくしていて、気が付いたらこんなことになっている。でも、本や映画はたくさん読んでいるし、見ているから、減ってしまったのは芝居だけである。この作品だって連絡を貰えなかったら見ていない。 でも、見に行ってよかった。 . . . 本文を読む
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