ある家庭の話である。二間しかない狭い家で暮らす3人家族。夫はほとんど家に寄りつかない。高校三年生の息子は、父親が大嫌いだ。働かなくてフラフラしている。漫談家だったが、40になり落語家に転向した。だが、芽が出ないまま、脱落して、知人の伝手で細々と管理人の仕事をしている。落語家なのに、ネタを覚えられない。彼にできる演目は「初天神」だけ。でも、今ではそれもおぼつかない。
自分はもう現役をリタイアしたと . . . 本文を読む
読みながら、ここまで暗い気持ちになるのはめったにないことだ、と思った。さすがにこんな不幸の連鎖はなかろう。なのに、読みながらとても幸せな気分になる。もちろん不幸が幸せではない。この不幸の先に見える一条の光に共鳴するのだ。ささやかな輝きが未来を照らす。
5つの物語はありえないような不幸の歴史で、そのそれぞれの境遇は似ている。同じじゃないのに、同じように不幸なのだ。この一軒の家を巡るお話は他人から見 . . . 本文を読む