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映画・演劇のレビュー

『ノーウェアボーイ』

2010-11-27 20:36:49 | 映画
 これがジョン・レノンという名前の少年でなかったなら、こんなにも胸が熱くはならなかっただろう。これは、どこにでもいる孤独な少年の物語なのだが、彼はやがて特別な存在になる。世界中の誰もが知る。

 1950年代、リバプール。その時、彼は、まだ何ものでもない。別に目立つところもない。普通の少年だ。母親も父親もいない。伯父さんと伯母さんに育てられ、ほんの少し不良で、でも、そんな少年は、世界中に掃いて棄てるほどいる。バスの屋根に乗り無賃乗車し、エロ本を見て、叱られる。いつも先生に呼び出され、叩かれている。

 大好きだった伯父さんが突然死んでしまうところから、始まる。葬式にやってきた女性は、自分の生みの親だと知る。10年以上その存在すら知らなかった母に再会する。甘える。今までの空白を取り戻すために。ロックンロールを教わる。母からパンジョを習う。やがて、ギターを弾くことになる。バンドを組む。そして、ポールという15歳の幼い少年と出会う。一緒にバンドをする。自分の居場所がない。どう生きたらいいのかわからない。必死になって自分の居場所を捜す。ロックンロールがすべてではない。いくつもの選択枝はあった。だが、音楽を選んだ。

 自分がまだ何ものでもなかった時代。ただ、不安で、一生懸命だった頃。この映画は、そんな愛おしい時間を丁寧に切り取ってくれる。特別なことは何ひとつない。だが、だからこそ、この小さな映画は意味を持つ。ジョン・レノンの青春時代を描く伝記映画にはしない。十代後半のティーンエイジの憂鬱をきちんと距離感を保って見せる。彼は、やがて自分の過去を知り、5歳のとき、自分がした選択(そんなこともう忘れていた)を知らされる。伯母と母の相克。和解。突然の母の事故死。(この映画は、2つの死にサンドイッチされている!)

 とても気持ちのいい映画である。だが、誰からも注目を集めない映画だろう。ジョン・レノンだから、という観客は確かに存在するはずだが、それもほんのわずかではないか。それにこれは大騒ぎするようなたいした映画ではない。だからこれは、ひっそりと公開され、すぐに消えていく。そんな映画だ。でも、それでいい。充分だ。それってとてもこの映画の佇まいにぴったりだ、と思う。

 

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