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映画・演劇のレビュー

ブルーシャトル・プロデュース『零式鑑上戦闘機』

2018-07-24 21:09:47 | 演劇

 

今年の夏のブルーシャトルは久々に「零」(ゼロ)に挑戦する。これで四作目になる。あの手この手で様々なアプローチを見せてくれるのだが、今回は若手を中心にしたキャストで、3話からなるオムニバススタイルに挑戦した。前作『新撰組』では2部構成全4話からなる大作に挑んだのだが、そのノウハウを生かしての3話構成である。

 

上演時間を105分にしたのも大胆なチャレンジだろう。そうするとワンエピソードは30分程度に抑えなくてはならないことになる。オープニングとエピローグもあるし、当然ダンスシーンを中心にした構成になるのはこの集団の在り方として、大前提だ。そうするとお話自体は実にシンプルなものにならざるをえない。

 

1話目は零戦誕生の話で、宮崎駿監督作品『風立ちぬ』で一躍有名になった堀越二郎を取り上げる。期待通りのシンプルさ。機体からいろんなものを取り除き、軽量化を図る。そぎ落としてそぎ落として、その結果、速さと引き替えにして失ったもの。堀越の望んだものは飛行士の死ではなかったはずなのに、結果的にはそこに行き着く。

 

2話目はミッドウエー海戦時の送り出す側に力点が置かれる。だからそうなると3話目では送り出される10代の若者たちの側が主人公になる。この3つのエピソードが描くものは実に単純だ。零式戦闘機による死に至る戦いである。

 

各エピソードにもう少しひねりが欲しかった。短編の魅力は一瞬で世界が反転する恐さではないかと思うのだが、お話はあまりにシンプルでストレートすぎた。大塚さんらしい話の作りで彼はストーリーテラーではないから、こういう作り方になるのだろうが、100分に収めるという至上命令(それは制作側からのものなのか、本人が作家として自分に課したのか、そこはわからないけど、このチャレンジの重要なポイントではないかと思う)を受けてスピード感のある芝居を目指す。

 

20人近いキャストが一丸となって、敵艦に突撃していく悲壮なドラマを通して、ただ戦争の悲劇に留まらず、彼らの一途な想いがどこに向かうのかを描けたなら、これは感動的な今の若い世代に向けたメッセージになり得たと思う。ねらいは悪くないのだけど、惜しい。

 


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