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映画・演劇のレビュー

焚火の事務所『幼児たちの後の祭り』

2013-11-28 20:35:23 | 演劇
 1968年の作品で、時代の気分を多分に代弁した作品なのだろう。だから、当時の人たちにはとてもよくわかる作品であり、納得の行くものであることは想像できる。だが、それを今再演すると、ほとんどの人たちがここに描かれていることがわからない、ということにもなりかねない。そういう危惧は十分に予想できたはずだが、三枝さんは気にしない。

 60年安保以降の気分、70年安保以前、という時間を前面には出さない。それよりももっと普遍的な問題として、集団の分裂というどこにでもある出来事として捉える。でも、そうすると、この芝居は重くなりすぎる。そこで、コロスをたくさん使って、ミュージカルのような体裁を作って見せる。これは台本の指示ではなく、演出の判断なのだろうか。そのへんが、よくわからない。この作品が、こういう音楽劇である必然性はない。ということは、やはり演出の問題だろう。本来なら地味な話をこれだけ壮大なスペクタクルへと変貌させたのはなぜだろうか。

 音楽劇として再構成することで、獲得した普遍性が作品の力となりうるのか。見ながらとても微妙なものに思えた。集団の瓦解というテーマが、薄められてしまい、ある種の祝祭的空間としての世界ばかりが前面に立ちあがる。その齟齬がこの作品をよくわからないものにする。

 視覚的にはとても面白いし、エネルギッシュで、ちょっとしたスペクタクルですらある。だが、彼らの抱える不安や、絶望のようなものが、結果的に希釈され、損なわれていく気がする。普遍ではなく特殊なままで、この気分を描くべきだったのではないか。




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