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映画・演劇のレビュー

近畿大学舞台芸術専攻2回生実習『少女都市からの呼び声』

2006-12-26 22:34:51 | 演劇
 期待を遥かに上回るすばらしい舞台だった。いや、期待した通りと言ってもいい。どんなものを見せられるのか想像もつかないから、見たいと思った。唐十郎の指導のもとで、近大の学生がこの戯曲をどんな作品として作り上げるのか、ワクワクしながら見にいった。

 この夢のような企画を、若い彼らはどう受け止めて授業に臨んだのか。唐十郎なんて知らないよ、という学生もいたのではないか。そんな学生が何の知識もなくチビおやじである唐十郎教授と初めて接し、どう思ったのか。それが気になる。(舞台芸術を志す大学生で唐を知らないなんてありえないとは思うが、そういう夢想はなんだか楽しい)

 松本修さんがパンフに、「学生に嫉妬する」と書いてたけどその気持ちが痛いほど分かる。僕らにとって唐十郎は神様みたいな存在だから、その彼が授業として、芝居を作り、懇切丁寧に指導し、1本の芝居を演出するのである。この夢のような話にはやはり興奮する。

 唐さんはもちろん手を抜くこともなく、しっかりした芝居を作り上げる。これがもし、若手劇団による作品だと言われたら、かなり感動するはずだ。それぐらいに良くできている。唐十郎の演出作品としてこれを見たとしても、とても初々しい佳作だと思える。4月に見た唐組『紙芝居の絵の街へ』と較べても全く遜色ないと言えばちょっと怒られそうだが、作品自体の完成度とかは度外視して、この芝居のさらりとした感触は悪くない。

 役者たちは感情を込めずに淡々として、この熱い芝居を演じている。それは彼らに表現者としての演技の幅がないからなのだが、見ていてその無理のなさが自然で面白いのだ。台本と芝居のあまりの温度差が不思議な魅力を醸し出す。いつもの唐さんの世界が、台本のシンプルさもあろうが、役者たちの未熟さと相乗効果を奏でて結果的に、とても分かりやすくて、感動的な芝居を作り上げる。

 ひとつの肉体を共有する、田口と雪子という兄妹の有沢への切ない思いがストレートに描かれていく。派手ではないが、しっかり作られた舞台美術もいい。授業の一環として、1本の芝居をどう作るのかを教えながら、それだけに終わらせないのが凄い。これは独立した1本の芝居である。いい芝居を見せてもらえた。かなりラッキーな気分だ。

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