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映画・演劇のレビュー

『ライク・サムワン・イン・ラブ』

2013-05-19 08:39:27 | 映画
 こんなへんてこな映画ってないだろ。デリヘル嬢(高梨臨)が老人(奥野匡)のもとに行く。親切で紳士的な元大学教授で、翌朝、試験を受けるため大学に行くという彼女を送り届ける。すると嫉妬深い彼女の恋人(加瀬亮)が待っていて、2人は口論になる。しかたなく彼は仲裁に入る。この3人が主人公で、彼らの数日間が描かれる。

 アッバス・キアロスタミ監督による日本映画だ。イラン人監督が日本を舞台にして、日本人キャストで日本映画を撮るなんていう企画が流行っているのか。アミール・ナデリの『CUT』に続いて今度はキアロスタミである。なんだか凄い。不思議の国日本ではないのだが、外国人が見た日本としう視点はどうしてもそこに出て来る。というか、それがなくてはつまらないかも、とも思うのだが、でも、ほんの少しそこに色眼鏡が入る。その結果とても不思議な映画になる。描かれることをそのまま受け止めることが出来ないのだ。でも、それって僕の偏見なのか? よく、わからない。でも、リアルじゃない。もともとリアルを望んではいない映画なのかもしれないけど。

 ラストシーンは衝撃的だ。あの暴力は意味を超える。理屈ではなく、即物的な暴力の怖さを感じる。加瀬亮の姿を見せないのもいい。もともとキアロスタミは説明しない映画を作って来たのだから、今回が特別、というわけでもない。だが、特殊な設定と、淡々とした描写。思いもしない展開、と3拍子揃うと、その衝撃は大きい。派手なシーンなんか皆無なのに、緊張感を強いられるし、スクリーンから目が離せない。

 老人の孤独を描く、なんていうと、分かりやすくなるけど、そんな生易しいものでもない。随所にちりばめられたさりげないエピソードがそれぞれの背景や想いを伝えるけど、それが彼らの本質ではない。心の中を簡単には吐露しない。そんなの、当たり前か。彼らの本当は曖昧なままだ。親切な老人は本当に親切なだけか。キレやすい恋人は本当に彼女を愛しているのか。そして一番の主人公である彼女自身がすべてなぞなままだ。どうしてこんなバイトをしているのか、なぜ、わざわざやってきてくれたばあちゃんに会わないのか。大体何を考えているのか。でも、そんなことをまるで描こうとしないから、この映画は面白い。でも、へんてこ。

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