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映画・演劇のレビュー

山崎ナオコーラ『あきらめる』

2024-05-01 06:33:00 | その他

なんとSFなのか、と驚くが、あまり関係なくてほっとする。(ほっとする必要はないけど)朝の散歩の話題で、火星に移住とかいう話をするところから始まって、えっ、と思うがこれはナオコーラである。SFなんかじゃない。

 彼女がそんな大胆なことはしないし、いや、する。要するにどちらでも同じことなのだ。たとえSF世界の話であろうと、いつもと同じくらいにいつものナオコーラなのである。
 
今回はゲイのカップルの話。しかもふたりは幼なじみのもうすぐ後期高齢者。(この時代、成熟者と呼ぶ)妻にカミングアウトしたら逃げられてしまった。まさかの事態に戸惑っている雄大(主人公の名前)であった。長年連れ添った妻を愛している。だけど死の病にある恋人を看取りたい。
 
だが、話は一転する。朝の散歩で出会った親子が2話の主人公になる。雄大はただの脇役に回る。輝さんと息子である龍の話に。(ふたりには雄大が朝の散歩で出会っている)龍は発達障害の気があり、5歳児。春から小学校に行く。公園で出会ったネグレクト気味の同い年、トラノジョウは火星が大好き。輝はふたりを連れて火星移住を計画する、ということで、最初の火星はただの前振りではなく、お話の根幹に関わってくる。さらには恋人を亡くした雄大も火星移住の申し込みをしている。

そして第3話。大人になっても引きこもり続ける博士の話に。彼も最初の朝の散歩で出会っている。(引きこもりだから、遠隔操作のロボットを通して、だが)実は彼は雄大の息子で、自宅を出てひとり暮らし。密かに火星のアニメを作って配信している。

後半の4話からは彼らが火星移住してからの話になる。この緩いSFは未来の日常を描く。ゲイ、離婚、高齢者、育児、ネグレクト、引きこもり。描かれる問題は今の時代と同じ。どこにでもある風景。それが火星移住というこれも彼らの時代においては普通の出来事を背景にして描かれる。

あきらめる。というのはマイナスの感情ではなく、前向きな想い。あきらむ、は明らかにすること。この旗印を冠して始まった物語はある種の普遍に行き着く。さすがナオコーラ。

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