『ひと』『まち』『いえ』に続くシリーズの第4作。どうせなら、『うた』にすればいいのに、と思ったが、敢えて『うたう』。意思が入っている。能動的に。27歳になった絹枝はうたう。亡くなった母に合唱団に誘われたときは、ためらった。あれは14歳だった。
お話はそこから始まり、大学で彼女が一緒になった3人の話になる。彼らとバンドを組んだ。ギターの伊勢。ベースの堀岡。ドラムの永田。そしてボーカルは絹枝だ。最初の「うたわない」から始まって、「うたう」4人のエピソードが続く。全5話からなる長編小説である。相変わらず小野寺さんは読ませるし、上手い。読み出したら止まらない。彼らの人生の一端に触れる。生きるって大変だけど、素敵だと思う。音楽を通してつながった彼らが、バンドを解散して、別れた後のドラマがここには描かれる。寂しいけど、人生は続く。
最後に再び絹枝の話に戻ってくるが、ここで強引に全体をまとめていくのが残念だ。バンドのメンバー4人のその後はそれぞれ別々の人生がありそれはもう交錯しなくても構わない。というか、あんなに毎日一緒だったのに、もうまるで違う世界にいるくらいの方がリアルだし、お話としても面白い。なのに、合唱団結成の話になる。うたうことに帰ってくるのがダメだというわけではないけど、少し安易な展開になっている。それと絹枝の話の中身が薄いのが気になった。ほかの3人は独立した話なのに彼女のエピソードだけ3人に支えられている。ひとりになった彼女がどう生きて今ここにいるのかをもう少し書き込んで欲しかった。