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映画・演劇のレビュー

突劇金魚『巨大シアワセ獣のホネ』

2011-02-05 00:23:42 | 演劇
 こんなにも静かな突劇金魚の芝居は初めてだ。『シマウマの毛』も少しこんな感じだったような気もするが、でも、ここまでではない。それと、今回初めて、外の世界の話だったのにも驚く。サリngはいつも閉ざされた内の世界で話を展開してきた。そんなひきこもり気味の芝居ばかりだったのに、今回は家の中から外の世界に出る。

 とはいえ、もともと彼らには家はない。これは河原で生活する人々のお話だ。主人公の少女は満足に話せない。父と母と3人でひっそりと暮らす。そんな彼女が夜の闇の中に出ていくところから話は動き出す。ほぼ全編が夜のシーンだけで構成されている。夜の闇の中で彼らは出逢い一緒に生活していくことなる。兄と弟。事故で出会った加害者の男と被害者の女。ここで骨を拾う男。彼らは夜の世界の中で現実とも空想とも定かにはならない時間と場所を彷徨する。今、目の前の見えるものが現実だ、とは言えない。居なくなった兄が見えたり、加害者の男が女を捜しに来たり、父や母と、再会したり、そのことのひとつひとつは本当のようでもあるし、彼らが見た幻のようでもある。まぁ、そんなことはどうでもいいことなのだ。彼らが捜す「幸せタワー」なんてものも、どこにあるのやら、定かではないし。

 この巨大な闇の世界もまた、引きこもった部屋の中と同義なのだろう。そう考えると、この芝居はいつものサリngとなんら変わることはない。だが、このなんともいえない心細さは、やはりいつもとは違う。彼女たちは少なくとも外の世界に触れたのだ。夜の闇の深さを身を以て体験したのである。その孤独と不安な気持ちは本物だろう。昼間の世界にはまだまだ入れなくても、ひっそりと静まりかえる闇の中で、自由になれた。そのことを大切にしよう。

 ブロックで作られた空間がビルに見えてくる。そこを巨大な人間が彷徨う。彼女らはビルを見下ろすという視点から、この世界を見る。本当なら、このビルの狭間で生きるのに、である。昼間の日射しの中、たくさんの人々が生活するこの巨大な街が、闇の世界の静寂の中では、まるで違った物となる。そこで彼女たちは迷子のようにフラフラと歩く。赤い目(夜の高層ビルの上のランプだが)が彼女らを見守る。あれは巨大な獣だ。姿の見えない獣たちが常に彼女たちを見ている。そんな世界でひっそりと息をすませて生きる。

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