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映画・演劇のレビュー

『デンジャラス・ラン』

2012-08-31 22:41:41 | 映画
 最近の映画の特徴は、不必要なまでにスピード感を大事にすること。そのおかげで、何が映っていたのやらよくわからない、なんてことも、ままある。カットの切り変わりが早すぎるのだ。昔のジャッキー・チェンなんか、いつもスーパーアクションは、2.3度繰り返し見せるくらいのサービスをしてくれていた。まぁ、それってTVじゃないんだから、あんまりだが、でもそういうサービス精神はそれはそれで貴重だ。だが、今時の映画はそんな野暮はしない。スピード命で、目まぐるしい。先日の『トータルリコール』もそうだった。

 この映画もそうである。南アフリカ、ケープタウンが舞台だ。なぜか映画は最初から手持ちカメラの不安定なキャメラワークによる主人公(ライアン・レイノルズ)の生活描写から始まる。恋人との日常生活を短いカットで積み上げる。なんだ、なんだ、と思わせる。

 そこから一気に本筋に入る。閑職のはずだったCIA職員が主人公。彼が隠れ家に連行されてきた元CIAの凶悪犯を連れて逃げることになる。退屈な生活にうんざりしていた彼が思いもしない状況に巻き込まれて、何が何だか分からないまま何者なのかも分からない敵から逃げる。どうして、隠れ家がばれたのか、わからない。状況把握もままならないままデンゼル・ワシントン演じる凶悪犯の命を守りながら(でも、こいつも逃げ出す気満々なのだが)彼を確保して、敵の来襲を防ぎ、味方のもとへと身柄を預けるために逃亡劇を繰り広げる。

 オーソドックスな逃亡劇なのだ。なのにそれをものすごいスピードでノンストップ、待ったなしで見せられると、演じる方より、見ている方が息切れしてしまう。最近のアクション映画は、どこまで早いか競うことに全力を注ぐようで、目まぐるしいカットで、見ている方はたまらない。スタジアムのシーンなんか、確かに凄いけど、ついていけない。せっかくのスーパーアクションなのだから、もっとじっくり見せて欲しい。

 でも、そんなことをしたら、観客に飽きられるのを恐れるのか、これでもか、これでもかと勢いで見せることで、作品自体のアラを覆い隠そうとでもするかのようだ。ストーリーも目まぐるしく、ぼんやり見ていたら話についていけなくなる。といっても、ストーリー自体はとても単純なのだ。こんなストーリーにすらついて行けなくさせるくらいにテンポが速い。主人公2人はとても魅力的なのだから、バディームービーとして、しっかり見せたなら、ここまでしなくても面白いものになるはずなのだ。なのに、そうはしない。

 中身のなさを隠すためにこんなスタイルを選んだのではないかと思わせるくらいに、不必要に早い。ストーリー自体に見るべきものも語るべきものもないから、こんなごまかしをしたのだ、と勘繰ることになる。冷静に考えると実にどうでもいいような話だ。見ていた時はそれなりに面白いし、緊張感もある。だが、実はアホな話だし、中身はない。ということは、やはり、それでこんな風にしたのかもしれない。結局は「なんだかなぁ、」の一編である。

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