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映画・演劇のレビュー

劇団925『福喜多さんちの三兄弟2 紫陽花の頃』

2010-06-16 20:57:15 | 演劇
 中西邦子さんはとてもさりげない家族の風景を、笑いに包みこんで見せようとした。その試みはとりあえず成功している。あまりにこぢんまりとまとまりすぎているから芝居としては物足りない。だが、ここに描かれる優しさはとても居心地がいい。主人公であるよう子(中西さんが自ら演じる)とともに福喜多さんちの家に入って生活していく感じ、そこがこの芝居の魅力だ。

 それにしても、ここまで内容のないお話をよくも作れたものだ。普通なら怖くってもう少し意味にあるような話を作ってしまうところなのだが、彼女はそれをしない。たわいもないある日の福喜多家のスケッチ、それだけでよいと考えたのだろう。そしてその大胆な試みは成果を上げたのだ。見ていて観客であるこちらのほうが不安になるくらいの何もないお話である。これだけで90分ほどの1本の芝居に仕立ててしまうのである。考えればこれはなんだか凄いことなのかもしれない。


 よう子さんが、弟のみきお(赤星マサノリ)から届いたビデオレターを、薫くん(田渕法明)と2人で見る。するとその中でみきおが福喜多家の3兄弟の話をするのだが、それがちょっと悪口のようなことを喋っている。それを聞いた薫くんが気を悪くしたのではないかとよう子さんは心配する。なんともたわいもない話ではないか。芝居はただそれだけの内容である。唖然とするような単純さ。それで最後まで引っ張るのだ。

 中西さんが描きたかったのは、ドラマではない。この家族の姿そのものなのだ。男3人兄弟のもとにあまり年も離れてない彼女が3人の母親として入り込んで生活する。彼女の夫である3兄弟の父親は豪華客船のバンドマンをしているから、長期で家を空けている。これはそんな中での、お互いに気を遣いながら暮らす彼らの優しい日々を描いたスケッチである。

 次男である天(関敬)を語り部にして、登場人物はたった3人のささやかなドラマが綴られていく。本当にどうでもいいようなたわいもないことを、最大限の愛おしさで描く。またこの続きが見たい。癖になりそうな芝居だ。

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