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映画・演劇のレビュー

『六月燈の三姉妹』

2014-06-09 21:24:07 | 映画
 この映画もまた、物足りない。とても期待したのだ。なんだかワクワクする映画だ、と思った。今ではあまりお目にかかれない家族劇で、そかも佐々部清監督の新作。なのだが、前作『東京難民』に引き続き、残念な作品になった。狙いはわからないでもないのだが、台本はつまらなさすぎた。鹿児島のさびれた商店街のなかにある「とらや」という和菓子屋を舞台にして、そこの美人三姉妹のお話だ。次女が東京から出戻ってきている。長女は結婚に失敗して帰ってきているから、まだ独身の三女も含めて、家族がみんなここにいる。両親は実は離婚しているのだが、店を切り盛りするため、一緒に暮らしている。なんだか複雑な過程なのだが、でも、一歩離れてみたら普通の家族だ。

 そこに、次女の夫が縁りを戻したくて、やってくる。話はそこから始まる。折しも六月燈の頃で、その準備に忙しい。そんなこんなで、なんだかそれは昔の映画のような設定とストーリー展開なのだ。これが平成の小津安二郎とでも呼べる映画になっていたのならかなり感動したのだろうが、残念ながらそうはいかない。

 居間から縁側、庭にかけて。映画の中心になる場所だ。そこでの彼ら家族の会話が中心に描かれる。雰囲気は悪くないし、そういうわざとらしい佇まいを前面に押し出してくるビジュアルも、心憎い。舞台となる六月橙の祭りの夜、という時間もいい。後は、そこにぴったりとくるドラマを用意するだけだ。だが、そこで失敗している。用意された台本がよくない。それに文句が言えないのは、これが「ご当地映画」だからだろうか。最近こういう地方初の映画が盛んに公開されている。そこにはいろんな制約があるのだろうが、それをちゃんとクリアして、1本の独立した映画として、納得の作品に仕上げて貰いたい。(それにしても、2週間限定で1日1回上映というのは惨い。これでは見るな、というようなものだ。しかも、モーニングショーだし)

 ストーリー自体には何ら問題はないのだが、要はその見せ方なのである。まるで心に沁みてこないのだ。上っ面だけで、お話にはまるで説得力がない。演出も乗らない。どうしてこんなことになったのだろうか。アナクロ全開の映画は確信犯である。それだけにこの嘘くさいくらいにレトロな雰囲気に酔わせてもらいたかった。今時、こんな懐かしい場所があり、そこで生きている人たちがいること。今では損なわれてしまった「日本」がまだ残っていること。家族がいて、町があり、そこで暮らす人たちがいる。そんな当たり前のことがなんだか胸に沁みてくる。それだけで、この映画は成功したはずなのだ。


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