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映画・演劇のレビュー

原田マハ『総理の夫』

2014-02-28 22:46:27 | その他
 若い女性が日本の総理大臣になる、という荒唐無稽な設定をどこまでリアルに立ち上げ、ファンタジーとして仕立てることができるのかがこの小説のねらいだ。もちろん、心地よいファンタジーでありつつも、もし、こういう理想が実現できたならいいのに、と思わせることも大事だ。絵空事のうそであってはならないし、もしそうならこのお話には乗れない。このとんでもない設定をどこまで現実に近付けるのかが作者の腕の見せ所。

 まるでマンガのような展開なのに、あきれるのではなく、どんどんページを繰る手がとまらなくなる。あきないのだ。語り部である主人公(総理の夫)の人柄に説得力がなくては成り立たない。ただの「いい人」であるだけではなく、頼りないけど、彼女をちゃんと支えて国民の総意を代弁してくれる。大切なのは、痛みを分かち合い、一緒に未来に向けて生きていこうとする気持ちであり、そこに嘘があってはこの小説は成り立たない。

 これはきっとTVドラマ化されるはずだが、上手く作ると、かなり面白いドラマになることだろう。たぶん天海祐希あたりがキャスティングされそうだが、ポイントは旦那役だ。今ならこれも堺雅人あたりになるだろうけど、さて実際はどうか。

 みんなが今の政治はダメだと、わかっている。しかし、本当の意味でこの国を変えようとしている信じられる政治家はいない。そんな時代にあって、ともに生きる実感を抱かせる彼女の存在は大きい。民意を問う、なんて言葉を軽々しく口にはしないはずだ。それだけの重みを持って、自らの痛みとして国民に問い、ともに歩ける政治家を造形しようとした。このファンタジーを信じ、実現したいと思わせる。そういう意味でこれは、甘い小説だけれど、とてもよく出来ている。


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