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映画・演劇のレビュー

『わたしたち』

2017-10-18 21:06:06 | 映画

 

主人公の少女から目が離せない。というか、カメラがそこから離れないし。彼女のどんな表情も見逃すまいと構えている。監督のユン・ガウンは彼女のドキュメンタリーを撮る覚悟だ。冒頭のグランドでドッジボールをするシーン。他の子供なんかどうでもいい。彼女の顔のアップがずっと捉えられたまま。だんだん表情が曇ってくる。すべてが見える。彼女が何も言わなくても、その顔を見つめるだけで、すべてがわかる。彼女の喜び、悲しみ、不安、孤独。小学四年生の女の子が抱える全てを、映画は写し撮ろうとする。

 

夏休み直前の教室。終業式の後のホームルーム。本当ならとても幸せで開放感に満ちあふれているような時間。みんなが帰った後の教室。ひとりで掃除をしていた。そこに、転校生がやってくる。彼女と親しくなる。ふたりのとても充実した夏休みが始まる。だが、不安がある。それはやがて現実になる。

 

2学期の教室。彼女はまた、ひとりになる。クラスメートからの執拗なイジメ。教室には居場所がない。でも、何も言わずに耐えている。ドラマチックな展開もあるが、そこをほとんど言葉にはしない。その瞬間を見せていくだけ。そこに対するリアクションも言葉にはしない。でも、彼女の表情を見れば、ちゃんとわかる。どんなにつらいことがあってもユン・ガウン監督は彼女から目をそらさない。

 

ずっと彼女たちを見ている。主人公のソン。そして転校生のジア。さらにはソンを虐めているボラ。誰がどうとか、そういうことは言わない。ソンからスタートした「わたしたち」のお話はラストで再びドッジボールのシーンに至る。わかりやすい解決なんて提示されるわけはない。だが、そこには答えではない大切なものがちゃんと描かれてある。

 

幼い弟がなぜ、いつも彼を虐める男の子と遊ぶのか。「だって、仕返しなんかしたら、一緒に遊ぶ時間がなくなるじゃないか、」という言葉が胸に突き刺さる。もちろん、答えはそこにあるわけではない。

 


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