
3年8か月ぶりの新作上演となるらしい。確かにそれくらいになるだろう。久々に見るあうん堂の芝居は胸に泌みた。ストレートでなんの気負いもない。自然体。さらりとした感触。そこには老人がこれから先、ひとりで生きていくことの寂しさがある。だけど、彼はそれに気づかないふりをしてそこにいる。静かな午後の日差しのようなお芝居だった。
杉山寿弥のたたずまいが素敵だ。老人を演じつつもそこには無理がない。演出の杉山晴佳とのコンビネーションは素晴らしく、ふたりの阿吽の呼吸が作品世界を形作る。妻は小畑香奈恵が演じているがまるで晴佳さんが演じているように思える。お話で見せるのではなく、主人公であるこの夫婦のなんでもない会話で見せる。そこにある心情を描く。それはまるで小津の『東京物語』における熱海のシーンのようだ。そんなほのぼのとした描写が延々と続き、もうそれだけで1時間半の芝居が終わるのではないかという勢いだ。もちろん僕はそれならそれで十分満足なのだが、さすがにそれはない。
息子夫婦のエピソード、病院の看護師、医者とのエピソードも交えて、今では不在となった(でも、確かにここにいる)妻への想いが描かれていく。(実は妻はもう死んでいることがなんとなくわかるように描かれてある)たったひとりぼっちになった80代になる老人の孤独。同じように繰り返される毎日。新しい出会いや喜びはもうない。でも、生きている。ここに彼女がいてくれたなら、ふたりなら幸せに生きていけるのに。でももう彼女はいない。現実と幻想のあわいで、ふたりで生きた日々、そしてふたりで生きるこれからの日々を想う。
過ぎていく穏やかな時間。ふたりで交し合うことばのやり取り。老いと向き合い、人生を想う。時間はゆっくりと過ぎていく。岡山弁による会話がとても優しい。