
若い監督の長編デビュー作なのに、こんな題材を選び、(すでに短編として作られた作品のセルフリメイク)こんなふうに仕上げるなんて渋すぎる。早川千絵監督作品。なんとカンヌ映画祭「ある視点」部門で、(初長編作品に与えられる)カメラドールのスペシャルメンション(次点)に選ばれた。
それにしてもこれはあまりに暗くて重い映画だ。でも、スクリーンから目が離せない。説明的な展開はない。それどころか説明不足なくらいだ。そのくせ、何が描かれたのは分かりにくいシーンで、いつまでもカメラは留まり続けたりもする。もちろん、そうすることへの説明はない。不親切だ。
僕の隣の隣に座っていた老人はほとんど寝ていた。もしかしたら、途中で死んでしまったのではないか、と心配になるほどに、ほとんど寝ていたはずだ。気になって途中何度も彼女のほうを見てしまった。5回見て4回は寝ていた。終わった後、同伴者の方が、起こしていたから死んではいない。90近い(もう90代かもしれない)車椅子の女性だった。何を期待して見に来たのだろうか。こんなつらいだけのお話なのに。もちろん、見る前にはそんなことわからないからこの内容に興味を抱いたのだろうけど。でも、同じように老人の生き方を描く映画ならこんな映画(すみません!)ではなく『メタモルフォーゼの縁側』を見たらいいのに、と思った。(まぁ、余計なお世話だけど)ラストだって、分かりにくいし、そのくせ、詰めが甘い。
夫と死別し、ひとり静かに暮らす78歳の角谷ミチ。彼女の日々のスケッチが淡々と描かれていく。ミチを演じた倍賞千恵子が素晴らしい。彼女の無言の演技が圧巻で、この映画を彼女がひとりで静かに引っ張っていく。近未来のお話だけど、あり得なくはない話だ。それが怖いのではなく、悲しい。彼女だけではなく、市役所の「プラン75」申請窓口で働く青年(磯村勇斗)や、死を選んだお年寄りのサポートするコールセンタースタッフの女性(河合優実)、介護施設からプラン75の施設へ転職するフィリピンからの出稼ぎ女性のエピソードを介して描かれる。彼らをミチとの関りで描くのではなく並行して描く。だから4人が主人公だと言ってもいい。でも、明らかに比重は彼女だけで60%くらいを占めているけど。
彼女だけをみつめる映画にはしないでおこうとしたのだろう。そのことは悪くはない。ただ、ラストの施設を抜け出すところは、なんだかリアルではないし、ファンタジーでもないので、戸惑う。あれは救いとは言えまい。