
『美しい星』の吉田大八監督最新作。前作に負けないくらいに変な映画だ。でも、この変さが面白い。普通にしているけど、ユーモアが漂う。過疎化の進む地方の役場で働くとある男(錦戸亮)が主人公。今回彼に与えられた仕事はこの小さな町に移住してくる6人の男女のお世話。彼らは殺人犯で、刑期を終えたばかり。町はそんな彼らを受け入れて人口減にテコ入れしようとする。だが、彼らはそれぞれ一癖も二癖もある奴ばかりで、やばい。映画を見ながら、いつ彼らが事件を起こすのか、ハラハラしながら見守ることになる。だが、起きそうで起きない。何かが、起きそうで起きないまま、話は進行していく。主人公同様僕たち観客も不安にさせられるけど、仕方ない。
6人の元受刑者の話が面白い。個性的な面々がなぜ殺人犯になったのかを回想していく、というパターンにはしない。今の彼らが描かれる。この退屈な町にやってきて、ひっそりと暮らす日々が描かれる。ドラマチックから遠く離れて、淡々とした地方の町での退屈が、なぜかこんなにも僕たちをドキドキさせる。いつ、何が起こるか、という不安だ。きっとよくないことが起こるはず、と思う。そうじゃなくては映画ではないと。だが、いつまでたっても何も起きない。なんだか気味の悪いお祭り(おろろ祭り)があり、それが町の名物で、ドキュメンタリータッチでそんな祭りのシーンが描かれる。ますます不安になる。このまま、映画が終わるはずはないではないか、と。
そして、事件は起きる。だが、この映画は事件ものではない。事件も含めて、穏やかな日々の背後で何が起きるのかを描く。犯罪者の特殊な事情だけではなく、なんでもないところから、とんでもないことが生じる瞬間があっけなく描かれる。
6人のエピソードをあれもこれも描くことは出来ないから、消化不良を感じるかもしれない。映画は、あまり深追いせず、でも短いエピソードで彼らの抱える闇を照らし出す。だが、やがて彼らの行動で、自分にも害が及ぶとき、主人公であるはずの役所の職員錦戸亮が初めてこの映画の主人公として行動をする。介護が必要な老人であるはずの父親が優香演じる中年女と恋仲になるところまでは、まだ何とか耐えられる。だが、幼なじみの木村文乃が松田龍平演じる元受刑者のひとりに取られてしまい、そこからは自制が困難になる。
錦戸はそこまでは、6人のための狂言回しでしかないくらいに印象が弱い。もちろん、そこも吉田監督の最初からのねらいなのだろう。好きだった幼なじみを松田龍平に横取りされ、しかも、彼の行動が怪しいと思い始める。彼女のことがどれだけ影響してゆがんだ目で彼を見始めたわけではないはずなのだが、自分でもそこはわからない。そこにサスペンスが生まれる。お話はそこから怒濤の展開に至る。それまであった歯止めが効かなくなる。
お話が破綻している。でも、最初からそこが着地点なのだから仕方ない。それでも映画として成立することが凄い。やっぱり受刑者だから、という色眼鏡でこの映画を理解するのはおかしいのだが、そういうふうに見る人だって多数出るはず。それくらいに因果関係は明白なのだ。でも、だからこそ、そうじゃないだろう、とふつうは思う、はず。だから、居心地の悪さが残る。なんとも後味の悪い映画なのだ。もちろんそこが凄いのだが。『ツインピークス』とか『悪魔のいけにえ』を想起させると言えば、なんだかホラー映画か、と言われそうだが、そうじゃないから、面白い。