習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『フローズン・タイム』

2008-03-13 20:02:23 | 映画
 恋人に別れを告げられ、その日から眠れなくなってしまった男の話。仕方ないから深夜のスーパーマーケットでバイトを始める。そこで彼は不思議な体験をする。世界がフリーズしてしまい、自分だけがそこで動き回ることが出来るようになるのだ。これは夢の出来事なのか、と思う。だが、事実だ。彼は静止した世界をさまよい、そこできれいな女の人を裸にして写生したりする。彼は美大生だったりもする。なんだか、ちょっとエッチな映画にでもなりそうな題材だが、それをとても綺麗な(監督のショーン・エリスは写真家出身らしい)映像で綴る。全てが静止したスーパーマーケットの風景はとても神秘的で、そのガランとした空間は面白い。

 だけど、残念ながらそれだけ。映画としてはまるで面白くならない。話がつまらないのだ。せっかくのアイデアを生かすことが出来ない。思いつきのレベルで終わっている。自作の短編映画の長編再映画化らしい。さもありなん、である。長編映画に必要な要素がここにはない。話をどう展開させていくのか、という部分がおざなりなのである。

 恋愛映画になるのはよしとしよう。だが、その恋愛を通して彼が世界とどう関わっていくのかが描かれないのはダメでしょう。自分の世界に閉じ籠り自分だけの時間に充足してしまった男がみんなと同じ時間に戻ってくるまでのお話であるはずなのだが、そうはならない。別にどんな展開をしようと面白ければいい。だが、これはあまりに思いつきでしかない陳腐なお話を、きれいな映像で誤魔化しただけだ。

 彼女の誤解を解いて、自分しか知らない時の止まった世界に彼女を誘う、なんていうラストはただ、映画をそこで終わらせるための方便でしかない。彼が向き合うべき現実はいらん、とでもいうのか?偶然友人の悪戯から、画廊のオーナーのもとに自作のデッサンを持って行き、ラッキーにも認められ成功するなんていう展開はあかんだろ、と思う。

 ここには小手先の技術しかない。映画という表現方法でしか描けないドラマを見せるべきなのだ。中身のないPV並みの映像のマジックなんていらない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ブリッジ』 | トップ | 芦原すなお『ユングフラウ』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。