習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

芦原すなお『ユングフラウ』

2008-03-13 20:31:58 | その他
 これはずるいと思った。初老のオヤジ(芦原すなお)が若い女のことを(主人公の翠だけでなく、その周囲の女たちも含めて)バカにして書いているように見えて、なんだか、ちょっとむかつく。だけれども、最後近くまで我慢して読んでいくうちに、こういうバカ女(自分ではいけてると思ってるはず)にもリアリティーがある気がしてきた。若いということは、こういうことなのかな、なんて思い始めた。作者は彼女をバカにしているのではなく、その愚かさを愛情を持って描いているのかもしれないなんて。

 いつも締切を守れない中年作家梨原は、芦原より10歳若い49歳に設定されているが、この人物は明らかに作者の分身である。そして、ヒロインが好きになるまだ40前の厚木(彼女が新しく担当することになった作家)は危険な中年男といういかにもな設定。26歳の自分ではもう大人の女だと思っている主人公は、彼女が嫌う同僚のバカ女と同類でしかない。そのことに本人だけが気付いてない。

 人間って本当に愚かなものだ。だいたい恋愛なんかにうつつを抜かして悩みを増やしているなんてバカだと思う。大人である芦原すなおから見れば、いい年した大人のはずの厚木も含めてみんなまだまだ子供だと言うのだろう。

 今まで封印していた恋愛小説に初めて挑戦した芦原は、若くてバカな男女を慈しむように描く。年を取ったからそれだけの余裕が出来てきたのだろうか。その余裕が彼をこの恋愛ものに向かわせたのであろう。

 ここまで、書いた後、まだ、読んでなかったラスト30ページを読んで、やられた、と思った。でも、あのあからさまな終わらせ方はどうだか、とも思う。この長編小説自体をバカにしている。自分の小説を茶化してどうするんだ、と思うが。

 この小説自体が劇中劇みたいなもので、これは主人公の雑誌編集者、澤井翠をモデルにした小説であったということをあそこまではっきり匂わせる必要があったのか?

 途中からこれってあんまりにもパターンでおかしいなぁ、とは思っていたが照れ隠しもあろうが、ここまであからさまにしなくてもよかった、と思う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『フローズン・タイム』 | トップ | 旧劇団スカイフィッシュ『適... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。