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映画・演劇のレビュー

『ムーンライズ・キングダム』

2013-02-13 22:02:31 | 映画
 ウエス・アンダーソンの新作だ。今回もまた、とても不思議な映画だ。ほのぼのしてるのに、何だか残酷で、内容は特にはない。(そんなはずはないかぁ。でも、明確なテーマは前面に提示されない)それと、細部に拘りまくる趣味の映画だが、そこがとても楽しい。なんとも言い難い小さな小さな世界を見せてくれる。そして、いつものように今回もまた家族のお話だ。

 冒頭の、家の中を見せていく部分から、一気にこのお話の特異な世界な中に引き込まれる。そこはまるで、おもちゃのような家で、最初はこれはミニチュアハウスかなんかか、と思った。カラフルでまるで現実味のない空間。そこで生活する、主人公の少女の家族の姿が描かれていく。カメラが部屋の中をどんどん移動していく。彼女の妹、弟、そして、両親たちが紹介される。

 もうひとりの主人公である少年は、今、ボーイスカウトのキャンプに来ている。同じようにサマーキャンプの様子をカメラが横移動していきながら、ここにいる人たちを紹介していく。やがて、カメラは彼のテントへと行きつく。だが、彼はすでにここにはいない。脱走していたのだ。そこから、一気にお話に突入する。  

 2人は、待ち合わせの野原で再会する。そして、なんと、手に手を取って駆け落ちするのだ。小さな恋人たちの自由を求めた大冒険が始まる。逃避行する2人、それを追いかける大人たち。さらにはボーイスカウトの少年たち。その両者の対比でドラマは進んでいく。豪華キャストが脇を支える。2人を追いかける2組の集団。エドワード・ノートン演じるボーイスカウトの隊長と、彼の隊の子どもたち。ブルース・ウイリス演じる警官と、少女の家族たち。ビッグスターがこんな脇役を嬉々として演じている。みんなこの映画の世界が大好きでこの世界の住人になりたくて、喜んで出演したのだろう。そんな中で、この12歳の少女と、少年が、いかにして出会って、駆け落ちするに至ったかが、回想で語られていく。小さな島を舞台にして、小さな恋人たちと、彼らを取り巻く人たちの大騒動のドラマが展開していく。

 一見、たわいない寓話に見える。1965年。アメリカ東部。なんだか、おとぎの国のような小さな島。だが、時代は大きく移り変わる。台風で3日後にはこの島は破壊されるのだが、そのことが様々なものを象徴する。これはいくらでも深読みも出来る映画なのだ。だが、たわいない少年少女の恋の物語として見ることも可能だ。それって『小さな恋のメロディー』みたいだ。でもこれは、もっと趣味の映画で、もっとひねくれている。「ウエス・アンダーソン」ワールドとしか言いようのない世界なのだ。

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