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映画・演劇のレビュー

南船北馬『ワタシのジダイ 昭和生まれ編』

2013-02-13 21:02:09 | 演劇
 昭和生まれの7人の男女が主人公となり、昭和という名の人生のテーマパークを旅する。これはゲームのようなものらしい。スーパーで温泉旅行が当たる抽選をしたら、この巨大迷路ツアーの招待状が当たったらしい。たまたま一緒になった見知らぬ7人。

 この場に集められた彼らは、二者択一で、7人が一緒になり、同じ方向にむかうように指示されているのだが、最初は全員一致だったけど、少しずつ、7人の意見は割れていくようになる。そのたび、彼らは話合い、解決しながら先に進む。いくつもの選択を通じて、彼らにとっての昭和とは何だったのか、という検証がなされていく。

オーディションで選ばれたキャストは、舞台経験の全くない人たちもたくさん含まれている。しかも、80代から、50代と、年齢層は幅広い。彼らが、自分自身(のような役)を演じる。役者である2人は、ラストで、岸田國土の『紙風船』を演じる。それは、彼らが役者だから、演じることが、本来の自分自身だ、とでもいうかのようだ。あくまでも、フィクションの枠のなかで、リアルな自分たちを見せることが、目的だ。劇中読まれる「12年後の私」という手紙も含めてである。

うまい芝居なんか、ここでは必要はない。大切なものは、その人本人のたたずまいである。そこから昭和という時代が照射されていく。もちろん、それは簡単にひとつのイメージに収斂されるようなものではない。だが、7人それぞれの生きた時代、歴史が、彼らの背後にある昭和という時代を形作っていくことも事実だ。これがすべてではないが、ここにはすべてがある。その信念に基づいて、棚瀬さんはこの作品を作りあげる。実験的な作品だが、奇を衒うことなく、正攻法で、彼らとともに、ワタシのジダイを作り上げていく。

対面式の舞台は、彼ら7人だけではなく、観客である昭和生まれ(平成生まれの人も含む)の男女のドラマすら包み込んでいく。棚瀬さんは前回に引き続き、とても刺激的な仕掛けで観客を挑発する。「終活」なんていう入り口と、ゲーム感覚を切り口にして、時代を切り取る。これは答えではない。問題提起だ。これが、わたしたちはどこにいるのか、考えるためのテキストとなる。




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