昨年のイヨネスコの『椅子』にも驚かされたが、今回もまた、見事に騙されてしまった。フェルナンド・アラバールの不条理劇『迷路』に挑戦した本作で杉原邦生さんはオリジナルにはない画期的な仕掛けを施した。
芝居が始まって30分くらいのところで、電気系統のトラブルが発生して芝居が中断する。照明機材の一部が作動しなくなったらしい。
僕は素直な正直者なので、完全に信じてしまった。だいたい芝居は生ものなので、ハプニングは付き物だ。照明機材のトラブルで完全な形での上演が不可能になり、しかたなく照明効果のないままの上演になるなんて、仕方ないとはいえ、残念だなぁ、と思った。邦生さんの迫真の演技には騙された。冷静に考えたならフェイクであると勘付いてもよさそうなものだが、そのときはまるで疑いもしなかった。
途中で芝居は中断され、その後再開するが明かりは一部しか機能しない。10分分くらいがもう一度繰り返される。ここから芝居は幾分単調になる。仕方ないことかなぁ、と思う。照明って確かに芝居を助けてるよなぁ、なんて思いながら見る。役者たちは動じることもなく、黙々と演技を続けていく。偉いなぁ、なんて思い見る。
ラストで気取って登場する邦生さん。「おまえはなにさま?」といいたくなるようなキザさ。そして、カーテンコールで振り向いた邦生さんの背中に「すべてウソです」と書かれた張り紙が。その瞬間やられた、と思った。あきれた。こんな無邪気な仕掛けを施すなんて子供か!とも思った。だが、原作には当然ないこういう仕掛けを作り観客を驚かすことはこの作品において邪道ではない。劇場を使って遊ぼうとする彼の姿勢にはいつもながら感心する。
照明をぎりぎりまでおろして天井を2Mくらいにした空間には一面に白いシーツが吊り下げられてある。アイホールの高さを封じて、ここまで狭く使うなんていままでなかったことだ。迷路となった庭から出ることが出来なくなった男。足には鎖がつけられてある。便所にもうひとりの男と共に繋がれていた。電動ノコで断ち切り庭に出る。だが、迷路となった庭からは出れない。
なぜここに連れて来られたのか。どうすればここから逃げ出せるのか。まるでわからない。逃げても逃げても同じ場所に戻ってきてしまう。途方に暮れる。そこにこの家の娘という女が現れる。彼女に助けを求めるが、残酷な父親を止めることはできないと言われる。だが、その後現れた父親は温厚そうに見える。何が本当で誰が嘘を付いているのか、わからない。わからないまま彼は裁判にかけられる。
話自体も面白いが、テンポよく語られる演出が実にスマートだ。早口の会話もいい。照明効果を封じたことで不完全なものとなったことへの物足りなさまで演出とはいえ、これでは本来の台本に仕掛けられた効果を十全に描けたとは思えない。邦生さんの施した仕掛けには感心したが、アラバールが仕掛けたドラマはなんだか中途半端なまま終わったような印象が残る。その辺はどうなんだろうか。
芝居が始まって30分くらいのところで、電気系統のトラブルが発生して芝居が中断する。照明機材の一部が作動しなくなったらしい。
僕は素直な正直者なので、完全に信じてしまった。だいたい芝居は生ものなので、ハプニングは付き物だ。照明機材のトラブルで完全な形での上演が不可能になり、しかたなく照明効果のないままの上演になるなんて、仕方ないとはいえ、残念だなぁ、と思った。邦生さんの迫真の演技には騙された。冷静に考えたならフェイクであると勘付いてもよさそうなものだが、そのときはまるで疑いもしなかった。
途中で芝居は中断され、その後再開するが明かりは一部しか機能しない。10分分くらいがもう一度繰り返される。ここから芝居は幾分単調になる。仕方ないことかなぁ、と思う。照明って確かに芝居を助けてるよなぁ、なんて思いながら見る。役者たちは動じることもなく、黙々と演技を続けていく。偉いなぁ、なんて思い見る。
ラストで気取って登場する邦生さん。「おまえはなにさま?」といいたくなるようなキザさ。そして、カーテンコールで振り向いた邦生さんの背中に「すべてウソです」と書かれた張り紙が。その瞬間やられた、と思った。あきれた。こんな無邪気な仕掛けを施すなんて子供か!とも思った。だが、原作には当然ないこういう仕掛けを作り観客を驚かすことはこの作品において邪道ではない。劇場を使って遊ぼうとする彼の姿勢にはいつもながら感心する。
照明をぎりぎりまでおろして天井を2Mくらいにした空間には一面に白いシーツが吊り下げられてある。アイホールの高さを封じて、ここまで狭く使うなんていままでなかったことだ。迷路となった庭から出ることが出来なくなった男。足には鎖がつけられてある。便所にもうひとりの男と共に繋がれていた。電動ノコで断ち切り庭に出る。だが、迷路となった庭からは出れない。
なぜここに連れて来られたのか。どうすればここから逃げ出せるのか。まるでわからない。逃げても逃げても同じ場所に戻ってきてしまう。途方に暮れる。そこにこの家の娘という女が現れる。彼女に助けを求めるが、残酷な父親を止めることはできないと言われる。だが、その後現れた父親は温厚そうに見える。何が本当で誰が嘘を付いているのか、わからない。わからないまま彼は裁判にかけられる。
話自体も面白いが、テンポよく語られる演出が実にスマートだ。早口の会話もいい。照明効果を封じたことで不完全なものとなったことへの物足りなさまで演出とはいえ、これでは本来の台本に仕掛けられた効果を十全に描けたとは思えない。邦生さんの施した仕掛けには感心したが、アラバールが仕掛けたドラマはなんだか中途半端なまま終わったような印象が残る。その辺はどうなんだろうか。