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映画・演劇のレビュー

江國香織『左岸』

2009-01-25 19:37:06 | その他
 ひとりの女性の少女時代からスタートして、50年に及ぶ人生の物語を事細かに描いていく大長編。大河ドラマは数あれど、こんなにも何もないありきたりで普通の人の生涯を微に入り細に入り描くような小説はめったにない。もちろん波乱に富んだ人生の記録ではある。しかし、どんな人の人生だってこれくらいのドラマはある。ことさら小説にするほどのお話ではあるまい。もちろんだからこそ江國香織さんはこれを大長編として書こうと思ったのだろう。

 兄の死からスタートして、17歳の家出(駆け落ち)、東京での恋人との生活。帰郷。結婚。出産。夫の死。パリ行き。母の出奔。再び東京。娘のパリ行き。エトセトラ、エトセトラ。次々にドラマがある。

 そんな中で、常にもっと遠くへ、もっと遠くへと旅していこうとする彼女の姿が描かれていく。読みながら同じように母と娘の旅を描く『神さまのボート』を思い出した。『冷静と情熱のあいだ』に続く辻仁成とのコラボレーションである。幼なじみの茉莉と九を主人公にしてそれぞれの側面から50年間のドラマを描いていく。2人は一緒に暮すのではなく、すれ違っていく。

 この江國香織版はもちろん茉莉を主人公にしたお話。つまらないことはないが、あまりに自然体を狙いすぎてとても作為的なドラマに見えた。前回の『冷静と情熱のあいだ』の時は、あまりに作為的なドラマが自然に見えたのとは正反対だ。だからといってこの小説がよくないとは言わない。だが、今まで江國香織に違和感を感じたことはなかったのだが、今回はしっくりこなかったのも事実だ。

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