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映画・演劇のレビュー

コトリ会議『彗星がみたかたまりの夢』

2009-01-11 19:24:51 | 演劇
 これはおもしろい。意外性のあるストーリー展開は全く先を読ませない。と、いうか、めちゃくちゃな展開で、これでは何が飛び出してきてもおかしくない。ストーリーという骨太なものがあるわけではない。思いつきでしかないんではないか、というくらいに、話はとんでもない方向に向かっていく。夢の論理のようなものに貫かれていて、もう、作者のイマジネーションに付き合うしかない。短いシーンで、話はいきなり途切れて、別のシーンに行ったかと思うと、またすぐに帰ってきたりもする。これを見て映画のカットバックの手法を導入しただなんて思わない。並行して見せるのではなく、ただぶつ切りにしただけなのだ。

 夜の公園で別れる直前の最後の時間を2人で過ごす恋人たち、タネミチくんとシダくん(男同士)。と、そこにやってくるモギノさん(彼女はこの公園で恋人から貰った指輪をなくしたようだ。その指輪を探すためにここに来た。)。まずは、この3人の話。恋人の浮気が発覚し、怒りに駆られて飛び乗った飛行機が墜落して、南の島に漂着したあじこちゃんと、その島で、恋人の帰りを何十年も待ち続ける小さな体なのに巨人さんと呼ばれる巨人さん。そんな2人のお話を勝手に創作する語り部さん。この3人1組の2つのお話が、時には微妙に重なりながら交錯していくのだが、この不思議な言語感覚による会話劇は、お話よりも言葉のキャッチボールにまず、心惹かれる。彼らの会話は瞬発力が命のこの芝居に独自のリズムを形作る。

 ストーリーのいい加減さは、それだけでも面白いのに、この6人それぞれのキャラクターのおかしさで、ストーリーすら引っ張ってしまう。そこに作、演出の山本正典さんの才気を感じる。この6人を見ているだけで、そしてそのほら話を聞いているだけで楽しい。彼らに対して、きちんとした距離感をとってあるのもいい。芝居全体も、少し離れた位置から彼らを見ており、そこがいい。端正でコンパクトな印象を与える。

 恋人の裏切り、心変わりに振り回されてしまって、相手の気持ちも見えないことで不安になり、自分さえも見失ってしまう。待ち続けたり、探したり、諦めたり、諦め切れなくてあがいていたり、どこにでもいる人間の姿が、このシュールなストーリー中で、ショートコント集を見ているようなテンポとセンスのよさで綴られる。スタイリッシュですっきりしてて、センスのいい美術もよい。

 ラストで、「一人で生きていくことの寂しさ」とかいうようなところに落ち着いてしまうのは、このなんだかこの奇妙なお話に強引なオチをつけたみたいでつまらないが、まぁ、しかたない。終わりにはそれなりの描写も必要だろうから。

 これはとてもささやかで小さなお芝居なのだが、彼らの中で妄想が妄想を生んでいき、何がなんだかわからなくなっていく様は心地よく、全体のドライな仕上がりも実にいい。新年早々いい芝居に出逢えてうれしい。

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