
三浦大輔監督が自身の舞台を映画化した最新作。芝居だな、と思う展開のさせ方が(いささか)鼻にはつくが映画は実に面白い。止まる、逃げるの繰り返し。どこまで逃げられるのか。どこに行きつくのか。彼はラストまで基本引き返さない。このあざとい話の流れに乗せられる。前半の東京の街をフラフラするシーンも、後半の北海道、苫小牧に舞台を移してそこでも雪の中フラフラしていくのもロケーションをうまく取り込んでいてこの基本室内劇をちゃんとロードムービーにしている。そして僕たちはこのとんでもなく愚かな男がどこまでいくのか、見守りながら笑うしかない。
冒頭の恋人のところからの逃亡から始まり、どこまでも逃げていくだけの芸のなさ。くだらないバカ男の顛末。恋人、親友、先輩、と来て4人目の後輩から肩透かしを食らうというある種の定番の流れがこれがいかにも「芝居」らしい。
ほんとうに主人公はクズ男でそれが無意識だから余計に腹立たしい。バカにもほどがある。そんなどうしようもない男を藤ヶ谷太輔が演じる。端正なマスクの彼が演じるその情けなさは半端じゃない。後半戦、まず姉のもとへ行くエピソードを挟んでから舞台を北海道に移し、母親との再会がまず最初のクライマックスか。原田美枝子が『百花』に続いて見事な母親ぶりを発揮する。新興宗教に入信する(しているし、息子にも勧める)なんていく展開をさらりと見せる部分には驚くやら、あきれるやらで、思わず藤ヶ谷でなくてもドン引きしてしまうだろう。だが、すぐにその先がある。実家を飛び出した彼は行き場をなくした雪降る中、誰もいないバス停のベンチでうなだれる。そこに一人の男が登場。豊川悦司だ。とどめはこの父親とのまさかの再会なのだ。母親の場合は自ら会いに行ったのだが父親とは偶然過ぎる再会。
母親と離婚して他の女と再婚したはずの父はもうその女にも愛想つかされて、周囲から借金まみれで逃げ惑う人生。この藤ヶ谷以上に最悪の男。豊川悦司うますぎる。それにしても原田、豊川コンビが両親だなんて、この映画は半端じゃないキャスティングだ。この息子にしてこの父親(反対か。この父親だからこの息子だな)史上最低クソ野郎。藤ヶ谷はこれはあかんわぁ、と思わせる男(父だけど)のところにまで落ちていく。
この「演劇的」というしかないような展開を三浦大輔は照れることなくいけしゃぁしゃぁと見せていく。「映画的」である必要はないのだ。でも象徴的な映画にするわけでもない。この嘘くささ満載の展開を笑わせるのではなく堂々とシリアスに見せる。リアリズムで攻めていくのだ。
家族4人で過ごすお正月のシーンで「THE END」とスクリーンに出た時、やられた、と思った。ここまでやりきるのか、とも。ここで終わると一瞬信じたがそこからが実は腕の見せどころ。実はこのエンドマークは元旦の映画館でキャプラの『素晴らしき哉、 人生』を見終えた父と息子が見たもの。あの名作を豊悦は一刀両断で切捨てるのも痛快。そしてあのエンドマーク後もこの映画はまだまだ続くのだ。
正直言うとここで終わっても僕は十分満足だったが、その先はその先で悪くない展開だ。(まぁ、なくてもいいけど)恋人と親友がくっついていたといういかにもの顛末はどうということはない。最低男がどこに行きつくのか、そちらのほうが気になるのだが、新宿の街をTOHOシネマズに向かって逃げていく姿を撮影スタッフが追いかけるという幕切れはちょっとあざとい。どこまでも逃げろって、なんだかしょぼくて安っぽい。でも、この映画自体が凄いものを目指したのではなく、このくだらない男をとことんくだらなく見せているのが身上だから、あんなラストで十分なのかもしれない。「THE END」の後の蛇足は確信犯だ。