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映画・演劇のレビュー

『すべては君に逢えたから』

2014-10-31 22:34:29 | 映画
昨年クリスマスを当て込んで公開したラブストーリーなんだが、空前の不入りでシーズンを待たずして劇場から撤退を余儀なくされた作品。クリスマスを描く映画が当日までもたないなんて、普通ありえないことだ。

2014年に開業100周年を迎える東京駅を舞台にした映画だ。リニューアルした東京駅の新駅舎が映画の中心に位置する5組のカップル(あるいは、シングルの人も含む)の6つのお話(どう考えても僕は5つの話だとしか思えないけど)を同時進行した作品なのだが、こういうアメリカ映画が得意な群像劇をどうして、日本映画は上手く真似できないのだろうか。なんだか不器用すぎて、もどかしい。

だいたいそれぞれのお話がまるで絡んでこないのは致命的だ。台本が悪すぎる。ただの別々のお話なら、こういうスタイルにする必要はない。集中させるために、オムニバスにしたほうがいい。だが、オムニバスにすると、それぞれのお話がつまらないという、アラが見えるから、というのであるのなら、何をか言わんかや、である。短編の魅力は少ないエピソードで背後のすべてを感じさせるだけの切れのよさにこそ、その意義がある。その点でも、この映画はまるでダメだ。今年、『超高速!参勤交代』で、切れのよさを見せた本木克英監督だが、この往年のトレンディドラマのような素材ではまるで生彩を欠く。

中途半端を作品の力にしなくては、勝算がないのに、真面目にちゃんと描こうとして、反対に墓穴を掘る。そんなやりかたでは、不可能なのだ。彼のよさがここでは弱点となった。特典映像のインタビューでは、「監督の丁寧な演出がよかった」なんて言う人もいたけど、映画としてはそこが仇になったとしか言いようがない。

玉木宏の若くして成功した社長の憂鬱と、都会で役者として、成功しようとしたが夢破れて田舎に帰る高梨臨のお話がセンターを成すはずなのに、まずこの話に説得力がない。オチはそんな都合のいいことがあるか、と思うけど、そこには目を瞑る。でも、そこまでのお話には説得力がなくてはすべてがダラダラになる。

ほかの話も似たり寄ったりだ。説得力がない。せめて、細部にはリアルが欲しいのだが、それすらお座なりなので、しらける。こういう映画はピンポイントで、リアルを実感させないことには成り立たない。なのに、ありきたりなエピソードをなぞるのでは、退屈しか残らない。たった106分なのに、どこかで見たようなエピソードが満載だなんて、あり得ない話だ。

東京駅の人ごみの中にドラマがある。そうおもわせてくれないことにはこの映画が作られる意味なんかない。そういう意味でもせめて一度くらい(出来たら冒頭で)彼ら全員を東京駅の構内に集合させて欲しかった。さぁ、お話が始まるよ、という掛け声すらないのだから、どうしようもない。まぁ、これだけのキャストを1日ですら集めることは至難の業なのかもしれないけど、そこすら避けるようでは意味がない。

でも、まさか『マグノリア』なんて望まないけど、せめて『ラブアクチュアリー』クラスの映画を作れないことには、作る意味はないだろう、と思う。これでは、11月22日に公開して12月24日までたどり着けなかったのは、当然のことだ。


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