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習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『RETURN』

2014-11-02 19:57:11 | 映画
原田眞人監督の傑作『KAMIKAZE TAXI』の続編(というか、姉妹編)である。原田監督がなぜ、今頃あの映画を思い出したのかは、わからないけど、あの頃の彼のテイストで今、新しい映画を作るならどんなものが生まれてくるのか、とても楽しみでドキドキしながら、見た。90年代に作られたあの作品はオリジナルビデオとして2部作でレンタルされた。2作品合わせると3時間超えの大作だ。しかも、あまりに作品のレベルが高すぎて、もったいないから劇場公開もされることになったといういわくつきの作品なのだ。たしか、劇場版は2時間半ほどに圧縮されたのではないか。それでも劇場で見た『KAMIKAZE TAXI』が快感だった。

今回の作品も、もともとはケータイ向けのドラマらしい。それを再編集して劇場公開した。出自はVシネマから、という前作に似ている。こういうパターンでしか、ここまで自由度の高い映画を作ることは不可能なのだ。低予算でも問題ない。低予算であることなんかまるで感じさせないほど、映画は充実した内容だ。どこに話がいくのか、まるで着地点の見えない話。しかも、随所にわけのわからない遊びを放り込む。106分という短い作品なのに、やりたい放題している。

主人公の3人と、彼らが戦うことになる巨悪、という図式も『KAMIKAZE TAXI』そっくりだ。原田眞人監督は楽しみながら、撮っている。いろんなところに前作を意識した遊びが用意されてあるけど、そんなことまるで知らなくてもいい。

ただ、映画としての完成度はまるで及ばない。特に主人公の差が大きい。前作の役所広司は圧巻だった。それに比べると椎名桔平は分が悪い。だが、彼も決して悪いわけではない。表情のない男で、いくつもの修羅場を潜り抜けてきたにも関わらず、それが表には出ない。怖さを内に隠すのではなく、とても自然体で生きているように見えるのがいい。

映画のありえないようなラストは、怒る人もいるだろうが、僕には心地よかった。そんなバカな、というオチだが、この映画のバカバカしさの前では、それだってありだろ、と思わせる。2012年という時間だからリアリティがある出来事を、まるで冗談のようにエピソードとして挿入した。東日本大震災後、というか、原発事故後という設定だ。放射能汚染地区も舞台になる。日本が立ち直れないような打撃を受け、まだそこでオロオロしている。(というか、それって今だって変わらないけど)そんな時代が背景にある。2002年との対比が最初にある。たった10年ではない。原発事故後という事実がすべてを変えたのだ。

だが、お話は社会派の意匠をまといつつも、典型的なアクション映画であり、でも、まるで普通じゃないような展開を見せる。椎名をつけ狙う狂犬3姉妹なんて、そこまでやるか、というすさまじさだ。特に土屋アンナのキレ方は尋常ではない。キムラ緑子の突然の「組ごとブラジルに移住するぞ!」にも驚かされるが。

それだけでも大概なのに、彼ら5人が家族になりアルゼンチンに移住するというラストには唖然とする。むちゃくちゃもここに極まる。


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