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映画・演劇のレビュー

林真理子『下流の宴』

2014-10-31 22:23:56 | その他
図書館で借りてきていながら、なんだか食指がそそられない。1か月以上机に積んでいた。さすがに、もうあかんやろ、と思い、返却しようとしたのだが、せめて30ページくらいは読んでから返そうと思い読み始めたら、大丈夫だった。というか、かなり面白いし、どんどん読めて3日で430ページ読み切れた。林真理子なので、つまらないわけはないのだが、それだけに、それ以上、のない本をわざわざ読むのも億劫で、先に他の本を10冊以上読んでしまったのだ。どんどん後回しにした。

新聞連載小説なので、テンポがいい。ふたりの男女を通して、彼らの生きてきた二つの家族を描く。東京の、鼻もちならない中流家庭(自分たちは一流だと思っている)と、田舎の(沖縄の離島)、家庭崩壊した(と、先の中流の母親がいう)家庭。この二組の家族の人々が描かれる。彼らのそれぞれのドラマが、主人公の男女の結婚をめぐるお話を介して描かれていくことになる。「格差社会」をテーマに据えるようだが、それぞれの価値観のぶつかり合いが面白い。特に主人公の青年のつかみどころのなさがいい。無気力というわけではない。だが、上昇志向はない。

コメディにはしない。でも、シリアスにもしない。これがTVドラマになったのは正解だろう。(NHKはなんでもやる)この小説のスタンスは距離を置いて彼らをみつめることにある。お話としてもおもしろいから、そこを追うだけでも楽しめる。だが、日本人の家族に対する意識がとてもよく出ているのがいい。若い2人の価値観を理解できない母親は、なんとかして彼らを別れさそうとする。最下層のブス女なんかと付き合う息子は騙されているだけ、と思う。彼女のカチコチの価値観は、今の時代に対応できない。だが、わからないでもない。彼女を育てた立派な母親の影響を受け継いだ。無意識に彼女は母の影響を受ける。息子はそこから反発する。図式的な展開なのだが、そこが気にならないのは、パターンなのに、そこを突き詰めた小説はあまりなかったから、新鮮だったのだろう。だれもわざわざしないようなことを、この小説はちゃんとする。ちゃんと描くから、ありきたりにはならない。

ラストの「さもありなん、」の展開も、悪くない。女の2年間の努力が医大合格に繋がるという結果だけを見たら、ありきたりに見えるけど、4年のブランクを乗り越えての合格はありえない快挙だ。そこは小説だから、とは言わさないリアリティがこの小説の魅力なのである。

みんながそれぞれの信念を持って生きている。それがぶつかり合い、戦いが始まる。どこにたどりつくのかわからない。とてもリアルだ。ホームドラマの意匠を纏いながら、そこを超える地平へと連れていってくれる。とてもよくできた小説だった。




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