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映画・演劇のレビュー

片山恭一『なにもないことが多すぎる』、瀧羽麻子『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』

2016-07-09 09:05:43 | その他

パンデミックを描くのだが、SF的なアプローチではなく、しかもピンポイントで描くから、なんだか新鮮でリアル。高校生が死の病になる。10代限定で感染する。隔離され死んでいくのを待つ。どうして自分たちはこんな運命に至るのか。悩み苦しむけど、理由はない。たまたまそうなっただけ。だから、今はなっていない人も戦々恐々。いつ、どうなるかなんてわからないからだ。現実にこんなことが起きたならパニックになるより何より、それだけで世界は崩壊していくことだろう。でも、この小説同様、起きてしまったことはしかたないし、そんななかでやれることをするしかない。

 

この小説はそんな世界で生きるひとりの青年のスケッチだ。彼を通して世界の在り方を描くのではない。ただ、彼の置かれた状況だけで描く。だからピンポイントなのだ。最後まで彼の内面のドラマに終始するのもいい。ちゃんと純文学している。というか、これはエンタメの小説には出来ないアプローチなのだ。そこが物足りないほとも確かにいるだろうけど、ジャンルの違いだから諦めるしかあるまい。

 

同じようにピンポイントで状況を描く作品で瀧羽麻子『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』という小説も読んだ。こちらはジャンル的にはYA小説に分類されそうな作品だ。今までの彼女の小説とは一線を画する。10代限定の読者層を想定し、彼らの興味、目線から書かれた。(たぶん)だから、これもスケールの大きな社会現象にすらなりかねまい策人なのに、その世界は広がらない。ネット犯罪のお話で、サーバー攻撃をするハッカーを描く。エンタメにもなりえる。だけど、青春小説として小さくまとめる。

主人公の男の子と女の子のお話で、恋愛小説として分類できる。でも、彼らの恋愛を描くわけではない。瀧羽麻子は今まで大人を主人公にした恋愛小説を書いてきたから、今回の高校生は新ジャンルとなる。でも、そんなことよりコンピューターおたくの女子なんていう設定のほうが、なんだか新鮮。しかも今回男性目線にして描いたし。

2冊ともとても読みやすい作品で大きな話にもなる題材なのに、あえて小さくまとめた。だからこそ、作品がこんなにも印象的なものになった。要するに今回は「アプローチは大事」というお話だ。


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