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映画・演劇のレビュー

『どくりつこどもの国』

2009-10-12 18:31:19 | 演劇
 昨年上演された岩崎正裕+アイホール共同制作『どくりつこどもの国』の再演である。平成21年度公共ホール演劇ネットワーク事業として、伊丹を皮切りにして4都市でこれから巡業公演がなされる。こどものための小劇場演劇作品というコンセプトって、今までありそうでなかったことだろう。子どものための演劇というのならば、いくらでもある。だが、敢えて小劇場演劇のスタンスと姿勢を前面に押し出した芝居と考えるから、これは新鮮なものとなるのである。

 もちろんそこに囚われる必要はない。岩崎さんが子どもたちのためにどんな芝居が作れるかを考え、子どもたちに向けて発信した芝居がこの作品だった、という事実だけで十分なのだ。だからといってこれは子供だましの芝居ではない。だいたいそんなものを岩崎さんが作るはずもない。反対に子どもに対して、というスタンスが、今まで以上に誠実で、迷いのない力強いメッセージを必要としたはずなのだ。子どもたちに媚びないだけでなく、彼らに向けてひとりの大人として何が言えるのか、これはとても困難な挑戦だった。

 昨年この作品を作り、岩崎さんは自分の発するメッセージが子どもたちに確かに届いたと確信した。だから、今年もう一度もっとたくさんの子供たちにこの願いを、この想いを届けようと決意したのだろう。再演は改稿しないで上演された。昨年のままでいい。自分の信じたものを、自信を持って子どもたちに届けたい。岩崎さんの覚悟を確認したくて、昨年に続いてもう一度劇場に足を運んだ。

 ぶれることはない。ここで描こうとしたことは間違いではないという事実を新たに出来た。問題の解決は単純なことではない。そんなこと、わかっている。戦争は子どもたちの世界でも起こっている。生きていくことは日々戦いだ。乗り越えなくてはならない課題は山積みになっている。だが、そこから逃げ出すことはできない。

 このお芝居のこどもたちは、「どくりつこどもの国」を目指して旅をする。だが、そこに行くためにはワルハラの城を通らなくてはならない。ワルハラには恐ろしい魔女がいる。彼女は今までも何度となく彼らの行く手を阻んできた。岩崎さんは簡単なユートピア伝説をここに提示するのではない。大切なものは、逃げることなく向き合う姿勢だと言う。

 どうしようもないことだらけの毎日である。誰かのせいにしたら解決するか? そんなわけない。自分たちの力で解決しなくては何も始まらないだろう。それは簡単なことではない。大人たちによって世界では無力な子どもたちの命がたくさん奪われている。その事実を踏まえたうえで、では、こどもたちに何が出来るというのか、ということがここには描かれる。単純な問題ではないことは、十二分にわかったうえで、だから必要なことが描かれていく。

 大人と子供が一緒になってこの芝居を楽しみ、明日を考える。そんな当たり前のことを願う。

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