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映画・演劇のレビュー

きづがわ『東の風が吹くとき』

2015-06-27 07:46:01 | 演劇
昨年の12月に上演された作品を半年のインターバルで再演する。まだ記憶に鮮明な作品なので、再演というよりも、もう一度見た、という気分なのだが、前回以上に感動した。それは演じ手が慣れてきたからうまくなっている、なんていう単純な理由ではない。(もちろん、それもあるだろうけど)見ている方も2度目なので、ストーリーを追うのではなく、細部までも目で追えたのかもしれない。

演出も含めて前回の反省に則り、ブラッシュアップされた作品を提示していることは事実で、安心して見られる。しかし、そんなことではなく、今回、作品は主人公である夫婦のドラマとしてよりシンプルなものになっていた、気がする。(もちろん、印象でしかないけど)事実の重みではなく、そんな事実を受け止めて、それでもここで生きる、という彼らの想いがより前面に強く押し出されてきている。福島第一原発から40キロ地点。その微妙な距離。2011年の3・16から秋にかけてのお話である。避難区域に指定されみんなはここを出ていく。しかし、老夫婦はここに残る。果たして、その選択は正しいか、否か。

でも、これはそんな問題ではない。ここは自分たちの居場所である。ここで生きてきた。これからもここで生きる。しかし、そんな夢は叶わない。そんなこと本当はただの事実であるはずなのに、そうはいかない。酪農と農業で生計を立ててきた。親子3代、ここで根を張って生きてきた。放射能という目には見えないものに、侵されて、生きる術を失う。そんなふたりの痛みに焦点を絞った作品に見えた。もちろん、それは2度目だからで、今回が初めての人には、それだけではない、さまざまな問題に目を奪われることだろう。

だが、僕は今回、山本惣一郎さんと和田雅子さん演じる老夫婦しか見てない。そこしか、見えない。それだけを見守ることで、この作品の本質が見える。そんな気がした。 泣いた。



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