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映画・演劇のレビュー

Micro To Macro『ハネモノ/ブルー・ヘブン ー真冬の青のキセキの日ー』

2012-02-21 23:38:26 | 演劇
 これは昨年夏上演された作品なのだが、創造館のプッシュによっての再演である。石井テル子さんはこのチャンスをきちんと生かして作品の完成度を上げる。初演との違いはお話ではない。見せ方だ。広い空間を縦横に使い、思いきった舞台を作る。

 創造館を横に使い、客席をとことん狭く設定した贅沢なつくりだ。もちろんそれは舞台を広く取るためだが、この客席と舞台の近さは観客にとっても贅沢なこととなる。それは芝居がここまでワールドワイドに展開するからだ。

 この思いっきり広い舞台で、バンド演奏を背景にして、役者たちが踊り、はねる。エネルギッシュな躍動感あふれる舞台を作る。ほんとうに客席と舞台との隙間がない。あまりに役者が近すぎて怖いくらいだ。しかも、こんなにも飛んで跳ねてするのだから、その圧倒的迫力に腰が引けるほど。舞台の広さと客席の接近。わざとここまでやる。しかも一見シンプルだが細部にこだわった舞台美術(西本卓也)が、すばらしい。

 昨年夏上演された作品をリニューアルした完成版である。お話は基本的には同じなのだが、先にも書いたように見せ方が違う。ショーアップして、とことん派手で、熱い芝居にした。テンポのいい展開は前回のまま、だが、役者には前回以上にオーバーアクトさせる。キャスト変更もその意図を汲んだものだ。たかせかずひこさんと上田ダイゴさんの加入は大きい。彼らがポイントを抑える。全体的に高いテンションで演じることを求めるから、このお話自体の弱さが結果的に薄まることとなった。初演のときは、もっと人間関係を明確にして際立たせることで、相互の関係性がドラマに奥行きを与えるのではないか、と思ったのだが、今回はこの話はこのままで十分だ、と思えた。

 心臓移植による副作用として、先の持ち主の記憶が残るなんて荒唐無稽な話に説得力はいらない。この芝居における事実だけで押し通せたらいいのだ。父親の自殺の原因が明確になるところから、一気に謎が解明され、そこから、主人公である翔の心が開放されていく。その結末部分はもっとシンプルでもよかった気がする。母親をかばう気持ちから心を閉ざしてしまい、その誤解が治ったはずの心臓の痛みになる。このへんが少しくどい。だが、ラストで、すべてから開放され、飛翔していく部分は心地よい。これは単純にそんな魂の救済のドラマでいいのだ。

 白い羽が、天上から降り、舞台が真っ白になるラストシーンが美しい。一面に積もる白の羽で舞台を覆い尽くす。思い切りショーアップすることで、作品はよりストレートな感動を指し示すことを可能にした。


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