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映画・演劇のレビュー

『はやぶさ 遥かなる帰還』

2012-02-21 23:08:12 | 映画
 昨年10月公開された堤幸彦監督の20世紀FOXによる『はやぶさ HAYABUSA』に続いて、今度は東映が総力を結集して送る。前作は主人公を女性に設定し、彼女の目の高さからハヤブサプロジェクトを描いたが、今度は男たちの視点から描く東映映画ならではの正攻法による決定版とでも呼ぶべき大作である。

 このあと、今度は子供目線での3D映画『おかえり、はやぶさ』も公開される。3作品競作となった「はやぶさ」映画だが、いずれも興行的には苦戦している。いくらなんでも3本も同じ題材で、ほぼ同じ時期に公開されるなんて、前代未聞であり、無謀な試みだったのではないか。映画の出来不出来は問題ではない。これでは企画の貧困さすら感じさせる。それぞれが独自の視点を持つ別々の映画であることは今、2本を見た時点でも理解できるのだが、普通の観客は同じような映画を何本も見たりはしない。反対に同じようなものがあれば、どれも同じと思い、結局どれも見ないなんてことになりかねない。現実にここまでの2本が思うような興行にはなっていない。次の3月公開『おかえり、はやぶさ』もかなりやばいのではないか。

 これは「はやぶさ」を描く映画である以上に、日本の技術力を描く「プロジェクトX」的な映画なのだ。先に作られたVHS開発を描く『陽はまた昇る』に通じる作品であることは作り手も多分に意識したことであろう。脚本も同じ西岡琢也である。出来るならば、「はやぶさ」ではなく、別の題材でここに描かれるような人間ドラマが見たかったほどだ。「はやぶさ」はひとつの題材でしかなく、何かのために懸命になる会社組織の男たちの熱いドラマが、この企画の肝である。それが、「はやぶさ」であることで、薄まることになった気がする。もちろん、この映画はあくまでもはやぶさを描くための企画である。そんなことは重々承知した上で、見終えてそんなことを思ってしまった。それは、すでに堤版『はやぶさ』をほんの4ヶ月前に見ているという事実が影響しているのだ。それが惜しい。『はやぶさ』映画がこの1本だけだったなら、きっと感動したはずなのだ。映画の出来には問題はない。とはいえ、堤版には泣けたけど、今回は泣かなかった。その差はどこにあるのか、というと、このお話ならもう十分に知っている、という1点に尽きるのである。

 JAXA(宇宙研)の面々のこのプロジェクトにかける熱い思いがしっかり伝わる映画だ。主人公の渡辺謙が入魂の演技で作品を支える。周囲のキャストたちも彼に引っ張られてすばらしいアンサンブルを見せる。さらには初めてこれだけの大作を任された瀧本智行監督の叩き上げの映画屋としての矜持が、これを細部までこだわったものにする。もちろんこれは東映スタッフの底力を見せつける大作映画なのである。東映60周年記念作品とある。なのに、数あるはやぶさ映画の1本という認知のされ方をすることとなった。なんだか、納得がいかない。だが、こんなふうに思うということが、実はこの作品の弱さなのかもしれない。ここには、そんなふうに思わせるように、作品の持つイメージを突き抜けるものがないのだ。


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