※ ドイツ ‐ ハンブルク/ハンブルガー・クンストハレ編 (12) ‐ 中欧美術館絵画名作選 (103)
19世紀末のヨーロッパの美術界は、戸外にキャンバスを持ち出し、外光の下で身近な風景を描き出した印象派の画家たちとは対照的に、文学、神話、聖書などを題材に、想像の世界を画面に表わそうとする象徴主義の画家たちも活動していた。
その象徴主義の画家アルノルド・ベックリン(1827-1901)の 「聖なる林」(上/1886年/100×150cm)、原題は 「Heiliger hain」、「聖なる森」と訳されることもあるようだ。
スイスのバーゼルで生まれ、生涯の大部分をドイツおよびイタリアで過ごしたとされるベックリン、1860年から2年間ドイツの<ヴァイマルの美術学校>で教鞭をとっていたというからパウロ・クレー(1879-1940)の先輩にあたるようだ。
ところで本作、彼自身の問題作 「<死の島>」(1880年/バーゼル美術館他蔵)に通底するものがある。
それは、白装束に身を包んだ僧侶らしき人物が描かれていることの他に、画面から感じられる “ 静謐さ ” といったものが、このふたつの作品に凝縮されているからだと思っている。
青い煙をたなびかせ火が燃える祭壇の前で跪き祈る姿、また、太い幹の合間、円柱らしき建物が見え、多分そこから来たであろう白い装束の人物も祭壇に向かっている。
六年前に描いた 「死の島」が、残照を受けてしじまの海へと入る静けさ、ならば 「聖なる林」は、暗い森から明るい叢へと出でる静けさ。
いうなれば閉じられた場面へと向かう動きの 「死の島」と、開けられた場面へと向かう動きの 「聖なる林」。
ふたつの作品は、対照的な要素を示しつつ厳かな静けさを軸として対を成しているのである。
ちなみに、緑に覆われ春から初夏であることを窺わせる本作、その4年前に場所も同じ黄色い落ち葉が樹の根元を覆い白い煙がたなびく 「聖なる林」(下/1882年/105×150.5 cm/バーゼル美術館蔵)を描いている。
これで、自由ハンザ都市ハンブルクと別れ、グリム兄弟が育ったメルヘン街道の町カッセルへと向かう。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.1405
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます