15世紀、この街の絶対的な権力者であったメディチ家。
そのメディチ家の権勢がもっとも華やかなりし頃のこと、当主の豪華王ロレンツオは、彼の遊び仲間でありパトロンでもあった。
メディチ家の手厚い庇護を受け、初期ルネッサンスで最も華やかな業績を残したその彼とは、サンドロ・ボッティチェリ。
ギャラリーをひと際集めているのが、この美術館の華と呼ぶに相応しい彼のふたつの絵。
まずは、ロレンツォの結婚を祝福して描いた “ 花と神々が奏でる祝婚歌 ” 「春 = ラ・プリマベーラ」(写真中)、あの、<ヴァザーリ>が名付け親とされている。
オレンジがたわわに実った森で、「ミルテ」の茂みを背にキューピッドを従えた愛の女神ヴィーナス。
ちなみに、ミルテとは 「銀梅花」のこと、結婚式などの飾りに使われことが多く、祝いの木とも言うらしい。
右に、西風ゼフュロスが妖精クロリスを捕らえようとし、花の女神プリマベーラ(フローラ)は、ヴィーナスの花のバラを撒く。
左手前で輪舞するのは、ヴィーナスに付き従う三美神、左から愛のエウプロシュネ、貞節のタレイア、美のアグライア。
左は、伝令杖で空の雲に触れている神々の使者メルクリウスだそうだ。
もうひとつが、その数年後に 「春」の対画として描かれたという 「ヴィーナスの誕生」(写真下)。
海の泡から生まれた裸身のヴィーナスが帆立貝に乗り、ゼフュロスの吹く西風によって漣寄せる汀に打ち寄せられ、岸には時の妖精ホーラが赤いマントを広げて待ち構えている。
ゼフュロスと抱き合う花の女神フローラ、ヴィーナスの愛のシンボル、バラの花を撒いている。
テーマは、“ 甦ったギリシャ神話の女神 ”、イタリア初期ルネッサンスを象徴するモニュメンタルな作品とされている。
前作 「春」と大きく違うところは、ヴィーナスとフローラが裸体で描かれていること。
このことは、<理想の女性?>でも投稿したが、裸身は “ 天上の愛 (聖愛) ” を示し、着衣は “ 世俗の愛 ” を表しているのだとか。
それに加えて、神話世界を等身大で描いたのは、古代以来初めてともされているらしい。
とまれ、繊細で流れるような線と鮮やかな色彩、このふたつの絵にも余すところなく、彼特有の柔らかな線でたおやかな女性群像が描かれ、春の息吹が匂いたつようだ。
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