代々木公園のフィクサー
四季の変貌を、そのあたたかなタッチと美しい色彩感覚で描きわける、渋谷区代々木神園町在住のルノアール派巨匠。
その高名なマエストロの名を、代々木公園という。
戦前は陸軍の練兵場、一転して戦後はアメリカ進駐軍の将校住宅、東京オリンピック(昭和39年)の選手村を経て、公園として一般開放されたのは昭和42年のことで、現在ではその一帯がわが家の愛犬ジェーのナワ張りとなっていることはあまり広く知られていない。
休日の朝か夕暮れどきに、ジェーのナワ張りを共に散歩がてら見巡ることは、彼との約束事になっている。
私の通勤路でもあるここ代々木公園とは、もはやわが家の庭と云っても差しさえないくらいに親密な間柄なのである。
地べたの土や、草や葉っぱの感触を楽しむかのごとく、ロンデーニャみたいなコンパスでゆったり歩むジェーの後ろ姿は、普段よりも頼もしく感じられる。
道々、同じくらいの大きさの美形を見つけちゃあ、うれしげに相手とジャレ合ったりもする。
たぶん、ペディグリーチャムの新作や人間関係などについて、意見を交換し合うようなフリをしてナンパしてるのだろう。
[勤務中のフィクサー。無料開放中の自宅の庭にて]
たそがれ時分だというのに、噴水近くのマジョールに人々はごった返し、至るところで思い思いの楽器を楽しそうに演奏する光景が目から耳へと抜ける。
下手クソな素人ミュージシャンどもめ。てめーら、ぜんぜん俺よりうめーじゃねえか。
嫉妬全開の毒づきも、もはやルーティンと化している。
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「そろそろ帰るか」という問いかけに、名ごり惜しそうな眼差しを私に向けながらも、ナワ張り内の平和を確認したその安堵からか、その場で、普段より大きめなうんこを惜しみもなくたれる名犬ジェーであった。