フラメンコ超緩色系

月刊パセオフラメンコの社長ブログ

しゃちょ日記バックナンバー/2019年2月

2019年02月21日 | しゃちょ日記

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2019年2月28日(木)その3486◆どうにも止まらぬ面白さ

中野駅を背に南へ三分、住めば都の中野五差路裏。

ラーメン屋にしては豪奢な造りで〝中華料理〟とある。
ワイン自慢のイタリア料理が一年ほど前に閉店し、
そのあとへ数日前にオープンした。
裏のコープで肴を見繕うつもりだったが、
少し体調を崩してる連れ合いが、具合がよくなったら行ってみたい
と云うのを思い出し、偵察を兼ねて晩めしを喰う。

ひと息に月末実務をやりきって、かなりおつかれ気味だったので、
酒を呑みそびれた。とりあえずビールと云わない自分が妙に新鮮。
高額メニューをすっ飛ばし、麻婆ナス定食と中華そばを頼む。

どちらも値段のわりに素材も調理も本格的でちょっとビックリ、
税込計1660円だった。かなり味(出汁と塩分)が濃いのが
爺さんにはちょっと辛い。
ただ、路地を出て大久保通り渡ってポン、
家から歩いて1分弱というのは魅力的で、
空間もゆったりしてるし、めし時の打ち合わせにも使えそう。

明晩は墨東の故郷で高校同級の死に損ないどもとドンチャン騒ぎだし、
今宵呑まなかった勢いで久々に酒を抜いてみよう。
このあとは浮世を忘れ、ぬるめの湯船にどっぷり浸かりながら、
どうにも止まらぬ面白さの『多田文治郎推理帖③』(鳴神響一新刊)
の続きを読み切る極楽。

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2019年2月28日(金)その3485◆がしんしょうたん

がしんしょうたん(臥薪嘗胆)にもいろんな意味があるようだが、
我心小肝(肝が小さいのに我がまま)よりも、
賀新正旦のほうがなんか明るい正月みたいで好きだ。

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2019年2月27日(木)その3484◆ダメ元

「ダメ元」。

ステキな響きだ。
てゆーか、労力頼りにずっとそうして来た。
そして実際99%ほどダメ元だった。
つまり、宝くじほど費用は掛からず、
宝くじよりよく当たる1%の幸運。

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2019年2月26日(火)その3483◆祟り

やる気がないのは、悪いことではない。
生き急ぐ人類自滅の時期を遅らせる側面もあるから。
ただ、やる気もないのに、やる気があるフリして
甘い汁だけ吸おうとするのは危ない。
一生続く信用失墜の祟りが怖すぎるから。

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2019年2月25日(月)その3482◆プライド

善いから売れる、
なんて時代は古今東西そもそもそんなにはなかった。
だからと云って、善いものをスルーするなんてのは馬鹿げてる。
五月の連休明けに発表予定のエンリケ坂井の最新CD。
そのプレス用テスト盤が上がってきたので、
今日は半日かけて、パセオ5月号と7月号用に、
12人の名だたる腕っこき(凄いラインナップ)にそのCD短評を依頼した。
寄稿オッケーの一番手はあの佐藤浩希、名人は名人を知るのである。
流派は異なれども「真善美」を求め相互にバックアップするのは、
よく生きよく死ぬための人類のプライド。

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2019年2月24日(日)その3481◆危険な安全策

「安全そうに見えるルートが一番危ない」

47年前に二つ先輩の天才賭博師・福沢に教わった真意不明の戦略が、
近ごろはことごとく腑に落ちる。
つまり、安全そうなルートには人々が集中し、
厳しい競争に巻き込まれる。
むしろ一見危険そうに見えるルートにこそ自分に適した様々な活路がある。
同じ苦労なら、自分好みの苦労をせよと。
          
「定跡よりも自分の棋風を大切に育てろ」

呑むたびに、定跡と先読み力に頼り過ぎる私に大局観
(私心私情を除く冷静な俯瞰)の重要性を説いた、
乱暴な福沢語録がいまごろになって効いて来る典型的な手遅れ。
奴にはすでにAI時代が視えていたのか。

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2019年2月23日(土)その3480◆エネルギー源

まるまる一日、自由気ままに非生産的に過ごし、
なんとゆーか気がすんだ。
江戸から続く向島百花園とその周辺を徘徊し、
荷風が墨東の風情人情を愛した理由が少しだけわかった。

あす日曜は中野ゼロ大のフラメンコ協会アニフェリア、
第一部セビ大会ではパセオ賞を選考・提供する。
念のため就寝前にパコのギターでエネルギー充電中。

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2019年2月22日(金)その3478◆ずる休み

パセオにも行かず携帯もオフ。
今から24時間、待望の自由時間。
何年ぶりだろう、
完全なる開放。
ただ、わかってる。
コンパスに飢える24時間は、
それほどまでには楽しくない。

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2019年2月22日(金)その3477◆媚びないみみずく

「三月号対談読みました! これだけ有名な方々が普通にフェアに、
 そして俯瞰で語れるなんてやっぱり凄い人達って存在するんですね。
 なぜ媚びないか?は、なぜ媚びなくなったか?だとも思うんです。
 傍若無人の性格とか強い人だからでは片付けて欲しくないだろうな、
 ぐらいは感じました」

mixi時代の不良仲間みみずくからのFBコメント。
当時このグラマーさんにはよく遊んでもらった。
世の中にはよく分かってらっしゃる美人さんがいるもんだと常々感心したものだ。
東京のエバ来日公演の大会場で一度だけお目にかかったが、
やたら色っぽい彼女を見るなり思わず抱きしめたくなった。
もしも抱きしめていたなら・・・
確実に十八番必殺サバ折り固めで肋骨の5・6本もへし折られたことだろう。
そのみみずくがFB参入、この二月最大の慶事である。

「なぜ媚びないか?は、なぜ媚びなくなったか?だとも思うんです」
 イカスねえ、このくだり。ひと晩呑めるお題だねえ。

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2019年2月21日(木)その3476◆四十九日

逆に多忙に救われた。
早いもんで、ジェーの四十九日とあって、
現在ヤツの大好物おでんを仕込み中。
里芋の皮をむいてると、
左脇にピタリくっつく(手伝ってるつもり)気配に和む。

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2019年2月20日(水)その3475◆

クロール25メーター、
無呼吸で泳ぎ切った(←ブレス方法がわからない)悪夢を想い出す。
ただいまパセオ4月号校了。
とりあえず風呂、それからビール~ぬる燗~『相棒』『俺たちの旅』。

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2019年2月19日(火)その3474◆後悔日記

あとで崩壊 先に立たず

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2019年2月18日(月)その3473◆何想う

午前6時には始める仕事を、午後5時には終える。
屋上で一服つければ、ひたひたと確実に迫る暗闇の気配。
人生の夕暮れにあって人は何を想うか・・・
とりあえず焼きうどん喰いてえ。

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2019年2月17日(日)その3472◆推薦盤

この五月リリース予定、エンリケ坂井ひさびさのCDアルバム。
依頼された日にメモったライナー草稿に、今日いっぱい喝を入れる。
人眼に晒すとたちまち文の欠陥が視えてくるので、
自分の原稿どころではない昨今はこのやり方で修正、
すでにずいぶん削って直した。
ただし、欠陥部分を全部削除してしまうと
「、」とか「。」しか残らないのが辛いところだ。


 収録曲はどれも昔ながらのライヴな一発録音。いまこの瞬間に生まれたかのように新鮮で衝撃的な音魂に、わかっちゃいるけど、何度聴いてもハッとさせられる。
 意志は硬質だが、迫真の響きは誠実な温もりとユーモアに充ちている。年齢を感じさせない超絶技巧を技巧と感じさせないのは、そのギターテクとコンパスのすべてが、彼のその瞬間の真情と濁りなく直結しているからだ。つまり、ひとつも嘘がない。
 一滴ずつ溜まるコップから自然と水があふれ出るように......これは我が師エンリケ坂井の常套句だ。無数の伝統の中から現在未来に貢献する良質なフラメンコを探り当てるセンス。本場スペインの強者たちにも愛される膨大にして深遠なる知識量。スパコン並みに周到に常備された純粋フラメンコの結晶たちは、ライヴやフィエスタの場において、この世に一度限りのインスピレーションを武器に、プーロフラメンコの華を全開させる。

 何年か前、すでに四十年近く敬愛する世界でも有数なクラシックギターの巨匠がエンリケ坂井のギターに深く驚嘆したのは、彼もまた純粋(プーロ)を愛し極めるギタリストであることの証明でもあった。
 プーロの巨匠全滅の危機の時代にあっても悲観を云わぬこのマエストロは、自らのギターでフラメンコと人類の未来に光を充てる。
「バイレもカンテもギターも、その時代時代で本質に根ざしたフラメンコをやる人は続いてゆくし、必要以上に未来を心配しても仕方ない。僕らアルティスタは、状況が良かろうが悪かろうが、ただ一所懸命に自分の信じるフラメンコを追い求めることだけ」
 パセオフラメンコ創刊35年、いまだ軸の定まりやらぬ私だが、エンリケ坂井のフラメンコギターに浸るたび、まあ出来る出来ないは置いといて、ともかく自分なりにやってみようじゃないかと、もらった勇気でややクタビレ気味の腰を上げるのだ。

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エンリケ坂井CD原稿/20字×20行×2段=800字
※CD発売決定時にファックス、レイアウト先方任せ
 タイトル「未来に向かうプーロ」
 (小山雄二/月刊パセオフラメンコ編集長)

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2019年2月16日(土)その3470◆どっきり対談

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大物同士の初協演翌日の対談。
司会進行がいなければ(おれだよオレ)、
もっと純度の高い対話になったと思うが、
両雄のやり取りにはさすがに得るところが大きい。
プロでもアマでもそれぞれのレベルに応じ、
ドキリとするフレーズをどこかに必ず発見することだろう。

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2019年2月15日(金)その3469◆夢の途中

「ひとに喜んでもらえることが嬉しいです」

ぼくの爺さんの影響ですかね、
思い出したようにショウちゃんはそう付け加えた。
永い目でみればそういう快楽は最良級のものだし、
私も場合も父母や親しい先輩たちの行動そのものからそれを教わった。

そこまではセンスを同じくしながらも、二人の相違点というのは、
彼が徹底した「下から目線」であるのに対し、
この私は根拠のない「上から目線」であるという点だ(汗)

17ほど年下の呑み仲間をゲストに迎えたパセオ六月号しゃちょ対談。
冒頭のやりとりから対話はほぐれ始め、
話題はフラメンコ界の諸問題発見とその改善策に向かう。
諸問題のキーワードは「鎖国」であり、その解決策は「エコシステム」。
それが目からウロコの彼の着眼だった。
フラメンコの活路はまさしくここに在るのかもしれない。
きのうのやり取りを回想しながらそう思う。
多様性をトコトン認めようとする凄絶なる彼の合理と覚悟と言動が生々しく蘇る。

まったく五十代以降に学ぶことは多い。
特に歳下世代に教えられることは実にしばしばだ。
六十代はさらに拍車がかかる。
学び実践することの楽しい充実は、
いつ死んでも悔いの残らぬ「夢の途中」を約束する。
スーツを脱ぎ捨て頭を丸め作業服が着たくなるお年ごろである。

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2019年2月14日(木)その3468◆ダブ南ドラドラ

早朝よりパセオ四月号追い込み、
強烈極まりない六月号〝しゃちょ対談〟取材、
超絶ライヴ(三枝雄輔、荻野リサ、梶山彩紗ほか)鑑賞、
ゆるゆる過ぎる寿司屋打ち上げを経由して先ほど帰宅。
麻雀で云うならダブ南ドラドラで楽勝満貫の一日。
若いと云えば若い。

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2019年2月14日(木)その3467◆統一見解

若いうちにやることやっとかねーと後の後悔は目に見えてる。
では、「若いうち」とはどこらへんまでを指すのか?
賢者たちの意見を統合するなら、
それは死の直前まで、らしい。

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2019年2月13日(水)その3466◆新連載

ついこないだ、おとなりカフェで初会見ランチを喰ったばかりの
井上泉さんの連載『フラメンコ野みち』が急きょ5月号からスタートする。
理由は三つ。

①打ち合わせ翌日には、試し原稿を二本送ってくれたこと。
 私もそのタイプなので妙にうれしかった。
②今枝友加さん絶賛大推薦のとーり、
 ハイクオリティ&めっちゃ面白い。
 ここは私と正反対なのがくやしうれしい。
③FBに寄せられた皆さんのお題にすべて応えてくれたこと。

ああ、初回レイアウト完成が待ち遠しい!
ふと遠い昔に聴いたフラメンコのレトラを想い出す。
「ぐずぐすしねーで さっさと行こーぜ」
そう、人生は案外短い。

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2019年2月12日(火)その3465◆富士急並み

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今月20日発売のパセオフラメンコ3月号。
表紙は来日迫るエバ・ジェルバブエナ。
何かと格別に思入れの強い号なのだが、
久々のギリギリ入稿は昔の富士急ハイランドの
ジェットコースター並み(古っ)のスリルがあった。

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2019年2月11日(月)その3464◆タブラオの女王

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ワタベの純ちゃんが帰国して十年、
早いな、彼女のパセオライヴももう五回目か。
歳月に刻まれた記憶は、誰にとっても唯一にして最良の宝だ。

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2019年2月10日(日)その3463◆初級社会人

気ままでお笑い好き。
常軌を逸脱しやすい性格。
学問・修行・薬やらでは治らない。
なので日常的にバッハに親しむ。
現在グールドのパルティータ第三番で経理中。
何があっても潔くケリをつける美しい構築性の響き。
そんな効用から、バッハ中はそこそこ社会人初級。

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2019年2月9日(土)その3462◆文学健在

『緋の河』本日最終回。
作:桜木紫乃、画:赤津ミワコ。
東京新聞の夕刊連続小説で、ほとんど欠かさず読み切った。
ラストの収束も自然で、透明で好ましい余韻を持続させる。

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ゲイという宿命を誇り高く生きる秀男(モデルはカルーセル麻紀さん)の、
幼年期から青春期までを描くリアルディープな純文学。
まともな選考委員が仕切れる文学賞ならブッチ切り受賞は確実。
職業柄身近なテーマだし、なるほど、そういうことだったかという細部の発見も多い。
この先無駄な偏見や忖度をそぎ落とすことも可能だろう。
マスメディアの啓蒙記事などでは決して踏み込めない領域に真っ向突っ込んだアルテ。
文学の実力を改めてうれしく心強く思ったことです。

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2019年2月9日(土)その3461◆ストラヴィン症候群

雪は降るのか降らんのか。

土曜午前、早くも壁にブチ当たり、我知らずハルサイCDに手が伸びる。
この特異な管弦楽の野趣と官能が直接の問題解決につながるわけではないが、
焼いた魚をバリバリ頭から喰うような逞しい気分に充ちてくる。

苦手なロックの原初の生態を聞くようで、
当初はたちまち耳が拒否反応を起こしたものだが、
冒頭近くの有名な攻めのリズムが何ともセクシーで、
くやしいことにミイラ取りがミイラになった。
十代から二十代にかけては、チャイコフスキーやプロコフィエフそっちのけで、
このストラヴィンスキー『春の祭典』のバレエ公演を片っ端から追っかけたものだ。

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機会さえあればまたあの頃のラディカルなエロエロ気分に浸りたいものだが、
昨秋スペイン国立バレエ団の極美の余韻が充満している間は、
かつての発作(ストラヴィン症候群)が再発することもなかろうし、
また、あのリズムで狂ったように踊り出すこともねえだろう・・ってゆーか、
つべこべ云わずはよ仕事しろっつーの。

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2019年2月7日(木)その3460◆萩原淳子ソロライヴ

底なし沼のような実務を切り上げ、
さあ、今宵はこれから飛び切り上等ライヴ!
プログラム(↓)も斬新じゃあ!

1. 最初の宴
2. ギターソロ
3. 20年目にして踊る。
4. カンテ・ソロ
5. 20年前から、そして20年後も。
6. 最後の宴

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演目が変更になることもございます、とあるが、
変更になっても、どこがどう変更になったのか
まるで分からないところが斬新であるっ!
ではご来場のみなさん、受付でお会いしましょう。
ぱっと見トムクルーズなのがわたすだす。
で、パセオ公演忘備録の執筆担当は
往年の大女優風・関範子でござる。

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2019年2月6日(水)その3459◆一眼国

「諸国を歩きまわっているお前さんだから、
 ヘソで唄を歌ったとか、足がなくても駆けだしたとか、
 そういう変わった人間もたくさん見てるだろ?」
それを見世物にして金儲けを企む興行師の親方が旅人にこう問う。
旅人は、旅先の森で五つくらいの女の子に声をかけられた話をする。
その子供には眼がひとつしかなかったので、
驚き腰を抜かしながら必死で逃げ出したという。

そりゃ儲かる見世物になると、親方は旅人に教わった森に出かける。
日も暮れ煙草をふかしていると「おじさん、おじさん」と呼ぶ小さな女の子の声。
しめた!と振り返れば、そこには一つ眼の女の子が。
親方は女の子を小脇に抱え一目散で駆け出すが、
子供の悲鳴を聞きつけた百姓たちが大勢追いかけてくる。
なんと、みんな一つ眼である。
「この人さらいめ」と寄ってたかってふん縛られ、突き出された先がお奉行所。

「こりゃ人さらい。面を上げい」
 捕まった親方ひょいと見上げると、お奉行も役人もみんな一つ眼。
 奉行の方も、二つ眼のある人間にびっくり。
「やや、こやつ眼が二つあるぞ。
 調べは後まわしじゃ、すぐに見世物に出せい!」

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初めて先代正蔵師匠の『一眼国』を聞いたのは小学生時分だが、
いなりに妙に気にかかる落語だった。
不可解な人間の業について、遠い未来までをも見通すSFの鬼作。
いわゆる差別・逆差別の問題を整理するとき、
この『一眼国』の視点は、ちょっと頭を冷やすのに最適な原点。

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2019年2月4日(月)その3458◆善は急げ

最新定跡では先手良しとあるが、
これこれこう指せば後手良しではないか?

昔も今も最も権威ある月刊将棋専門誌の質疑応答欄に
そう投稿したのはプロ棋士をめざした高一のころ。
戦型は当時の流行〝飛車先交換腰掛け銀。
その終盤入り口の最も過激な変化。
恐るべき結論を示してくれた回答者は、当時の若手最高峰、
のちの第十六世永世名人・中原誠である。
むろん軽はずみな私のアイデアは、秘手とも云うべき
受けの妙手によって木っ端微塵に吹き飛ばされた。
だが、問わなければ真相は闇のままだったその質疑応答が
アマチュア将棋界の話題となり、
当時高名だった民間のスポンサー付き研究会に私は迎え入れられた。
花の16歳、そのことが人生最後の栄光だったことに当時は気づくはずもない。

今枝友加さんの熱烈大推薦(パセオ3月号、エンリケ坂井師とのガチンコ対談)から、
パセオで大喜利的質疑応答の連載を担当してくれることになった
〝さすらいのカンタオーラ〟井上泉さんとやり取りするうちに、
ふと半世紀近く前のこんな懐かしいエピソードが蘇った。
締切三ヶ月前に送ってくれた、フラメンコな本音を隠さない泉さんの初稿は、
青春の薫りと旅芸人らしい美しい矜持でいっぱいで、
ページ不足もなんのその、こうなりゃもう前倒し掲載を検討するのみ。

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2019年2月4日(月)その3457◆楽しみ多き

人生を懸けた勝負と切磋琢磨の研究は、
すでに絶対的な正解に向け八割程度まで進んでいる。
時の権力(信長~秀吉~家康)や明治以降の巨大メディアの援護を仰ぎつつ、
さらに選りすぐりの最高頭脳をもってして、
囲碁や将棋の真理探究はここまで来るのに四百年以上かかった。
            
ところがAIの急進化により、実際には棋界の研究の成果は
全体の二割程度に過ぎないことが判明した。
それが現在の将棋界・囲碁界における最大の悩み&希望である。
絶対知性を誇ったジャンルはもとより、あらゆるジャンルにおいて、
それまでの〝絶対〟が崩壊する時代。
   
伝統は一定の評価を小さく得るものの、革新の可能性は倍以上に膨らむ。
つまりベテランは青ざめ、逆に若手は成り上がる希望を見い出す。
AIが核戦争をもたらさぬ限り、これからしばらくは若きチャレンジの時代となるだろう。
色褪せぬ伝統や古典を愛し続けた私にとっては受難の時代なのかもしれない。
              
だが、あらゆる伝統や古典が、当時の先鋭的革新だったことに想い至れば、
むしろこれからは楽しみの多い時代なのだと整理できる。

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2019年2月3日(日)その3456◆まずは足元から

原稿締切の約束を守ってくれる執筆者は二割で、
残り八割は確信犯のシカトだった。
そういう腐れきった状況にうんざりし、営業一本の生活に区切りをつけ、
自ら文を書く練習を始めたのが十余年前。
いざとなったら全部自分で書いちまえという方針で編集長になってから、
約束を踏みにじる執筆者は激減した。
締切破りの確信犯に関心を持つのをやめた〝鬼〟の誕生である。
仏の顔も二度までで、ニッコリ笑って人を斬るのが鬼である。

かつての三人分の仕事を一人でこなすのが零細出版界の現状だから、
そういう綱渡り連携の中、仲間同士(編集・執筆・デザイン・校正・印刷・配本等)
の締切破りは全体の命取りになる。
それはライヴ本番に出演者が到着しない状況と同じだから。
ネットの隆盛もあるが、出版界の衰退に拍車がかかる理由はここにもある。
出版が好きなので、内輪で出来ることから改善したい。

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2019年2月2日(土)その3455◆出ごろ

相棒の旅立ちからひと月。
十六年の余韻はしばらく続くのだろう。
やわらかに背中を包む夢が、いまも胸を和ませる。

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向こうで待ってる、
みたいなファンタジーも悪かないけど、
今しばらくオレはこっちで仕事がしたい。
おいジェー、待てねえようなら化けて出てきな。
明日の朝からおめえの好物(おでん)仕込むんで、
出てくるのは昼ころがベターだ。

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2019年2月1日(金)その3454◆全開するアート

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鍵田真由美の清冽な名人性、アルテイソレラの精緻と熱情、
佐藤浩希の構成演出の鬼才、そして小川未明『牛女』の普遍性に改めて降参。
そこに今回、中島千絵の音楽が最良リンクしていた。
天皇皇后両陛下を感嘆させる、これほどまでのアートの全開に
フラメンコ界はほぼ無関心。
まあ、だからこそフラメンコとも云えるわけだが、、、
ほんとうにそれでいいのか?