フラメンコ超緩色系

月刊パセオフラメンコの社長ブログ

しゃちょ日記バックナンバー/2013年11月②

2013年11月01日 | しゃちょ日記

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2013年11月16日(土)/その1429◇喋らせる人、喋る人
 
 喋るのが仕事の〝しの〟は、古くからのマイミクさん。
 バイラオーラとしても活躍する別嬪さんだ。
 そんな彼女がローカルラジオに、
 レギュラーのフラメンコ番組を創ったという。

 78.9かつしかFM『フラメンコ日記』
 お相手:しのき智里、河合和順
 毎月第1金曜14時25分頃から15分間
 『IgaraShinoki』内のインターネットサイマル放送(同時放送)
 過去放送分はホームページ「flamenco-nikki.jp」で公開

 まあ、そんなこんなで、昨晩しのと河合さんが編集部へ番組取材に来た。
 ラジオ生放送の電話取材は近ごろ二度ばかり受けたが、
 インタビュアーが目の前に居てくれる取材は、格別に楽しいことを知った。

 しのは好ましいツッコミが出来る人なので、
 呑み屋でとなりの姉ちゃんとダベるような感じで、
 アレコレくだらねえことばかり喋った。
 放送は12月で、その後はネットで聴けるという。

 来月も生ラジオで来日するカニサレスについて喋ることになってる。
 毎月30人のアーティスト・関係者を電話取材する新連載(Hola!)を
 この秋始めたばかりの私には、すべてが発見につながることばかりだ。


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2013年11月17日(日)/その1430◇夢日記

 フシギな夢を起きるなり日記にメモるのは、
 そうしないとすぐに忘れてしまうからだ。
 また、そうした記憶の断片が、後の人生をほんの少しだけ左右するところは興味深い。
 今朝がたの夢も、なかなかに謎めいていて忘れぬうちにメモをとる。

 時刻は明け方、もしくは夕刻。
 私は電車道を歩いている。
 遠くに見える停留所の様子から、それが都電の線路であることが分かる。
 あたりは故郷の小松川のようでもあり、荒川線の雑司が谷のようでもある。
 
 電車が来れば、どっち方向であっても乗るつもりだが、
 あいにくその気配はない。
 しばらく往くと、右手に商店街の入口が見える。
 サテンで一服するか。
 
 意外と賑わう商店街は、ほとんど浅草寺参道の仲見世だった。
 そうだ、例の揚げ饅頭でも食おうかと足を早めると、
 戸口を全開にした一杯呑み屋から、私を呼ぶ声が聞こえる。
 見れば顔見知りの連中がドンチャカ呑っている。

 ほら小山、とりあえずビールだと注ぐのは死んだ池沢だ。
 最近会えねえと思ってたら、野郎、こんなとこで呑んでやがったか。
 秀仲間のヒデノリ、サトル、アキラも奥の方で騒いでいるし、
 おとつい呑んだばかりのハネさん、オオサワ、タカツ、トモコも向かいにいる。

 そこでひとまずシーンは飛び、ひとり私は夜道を歩いている。
 カルメラ焼きや金魚すくいやお面売りの露店がポツポツ出ている。
 見覚えのある道のようだから、家に向かっているのかもしれない。
 帰ったら今日こそインタビュー記事を仕上げなくっちゃな。

 と、そこでジェーに起こされる。
 バッと数分でこれを書きとめ、
 これからお約束の代々木公園ドッグランへと向かう。
 そして今日こそ記事をまとめる。(汗)


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2013年11月22日(金)/その1431◇空白のポテンシャル

 なんと日記を三日も休んでしまった。
 
 チョー忙しい三日間だったわけで、
 とりあえず今月の山場は乗り超えた感はある。

 ここしばらくは有りったけの種をまいてたもんだから、
 私自身はスッカラカン状態になってる。
 まあ、あとは水や肥やしをやったりするだけなので作業的には楽ちんだ。

 きのうは来年のスケジュール帳に半年分の予定を書き込んだ。
 二月上旬に空白が多いことに気づく。
 だが経験値的には、実はそういう時が一番危ない。
 ありゃ大失敗だったなと回顧する、その原因はそうした時期に創られる(汗)。


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2013年11月23日(土)/その1432◇スペイン・フィエスタ

 今晩は高円寺エスペランサの開店42周年パーティ。
 オーナー淳ちゃんがバイレ伴奏を弾くという。
 観てるこっちが緊張するわ。
 差し入れの希望を聴くと、花束・・・だってさ。

 日中はパセオで対談記事(マルワ財団理事長)のまとめ。
 最後の推敲にはもの凄い集中力を要するが、
 出来た!って時の明るい快感は、ちょっと群を抜いてる。
 その快感は、翌日の最終チェックでがっかりするまで続く。

 早く終われば、代々木公園のスペイン・フィエスタに行きたいが、
 まあ土日開催なので、これは明日でもいいか。
 スペイン料理の店がたくさん並び、もちろんフラメンコのライヴも
 あるというから、時間のある方はぜひどーぞ!

 さ、じゃあ、これからジェーとお約束の代々木公園!
 フィエスタ会場は、まだ準備中だろけどさ。


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2013年11月24日(日)/その1433◇フィエスタ日和

 今日もいい天気!
 フィエスタ日和である。

 この土日、代々木公園で開催するフェイスタ・デ・エスパーニャ。
 きのう出掛けたというみゅしゃの日記で、
 なかなかに充実したイベントだということがわかる。

 仕事を片づけNHK将棋を観戦して、私は午後から出掛ける。
 急な仕事が入って14時パセオ必着なのが悔しいが、
 関西からやってくる★由美★と会場で会えるかもしれない。
 
 彼女は私をキアヌそっくりと認識しているだろうし、
 私は私で彼女をサンドラ・ブロックと想像してるから、
 感動の初対面が実現する可能性は極めて低い。


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2013年11月25日(月)/その1434◇一日一生

 昨日までの大きなセッションが一区切りつき、
 とりあえずホッと一息の月曜朝。
 明朗な気分で週明けを迎える感じは悪くない。

 フラメンコギターの鈴木尚さんの新譜CDが先週半ばに届き、
 ヒマを作っちゃ、それを聴いている。
 同世代の尚(たかし)さんの高い志とその持続力。
 小原正裕さんとのギターデュオ(ルンバ)のスリリングな美的迫力には、
 食いつきたくなるような魅力があって、さっそくに取材を申し込んだ。
 
 きのう日曜夕方からは、テレビ(八重の桜)や小説(藤沢周平)で
 ジェーと共にじっくりと英気を養い、7時間ノンストップで爆睡した。

 さあ、今日からしばらく密度の高い日々が続く。
 ほとんどスリリングな初体験ものだが、
 その手の冒険というのは、怖い分だけ収穫は多いものだ。
 12月のカニサレスの来日公演終了までは、
 一筆描きの要領で停滞なく流れてみよう。


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2013年11月26日(火)/その1435◇今井翼と鍵田真由美のツーショット

 何かとたいへんだったパセオフラメンコ新年号だが、
 あと数時間で入稿の見込み。

 表紙は、今井翼と鍵田真由美のゴールデン2ショット!
 東敬子「フラメンコ早分かりキーワード30年」カラー24頁はA級保存版!
 しゃちょ対談は注目のファミリア徳永、
 「石塚隆充の革命」も凄いし、
 竜之介の「フラメンコ劇場」待望の復活!

 つーことで、今晩の高校同期の定例呑み会もパス。
 愛しのエリーも出席してるっつーのに、実に残念無念じゃあ!
 

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 2013年11月28日(木)/その1436◇好きな理由

 来る日も来る日も藤沢周平を読む。
 すでにここ数ヶ月は、藤沢周平ブームが続いている。
 50冊以上も文庫があるので、ひと回り読破するのに半年近くかかるのだ。
 三十代から始まった同様のマイブームは、これまでに十数回を数える。

 歯磨き、風呂、通勤、食事、取材の移動などの時間を使ってこまめに読むが、
 まあ、一冊読むのに三、四日はかかる。
 宗教を持たない私には、それがお祈り代わりであるような気もしている。

 もちろんストーリーも面白いのだが、それだけならばこうはならないだろう。
 私が惹かれる理由はおそらくはこうだ。
 ひとつには透明なリアリズム。
 それは往々にして残酷でさえある。
 そしてもうひとつには、地に足のついた信念。
 それは往々にして楽天主義的でさえある。
 藤沢周平の世界というのは、それら二つの攻めぎ合いとも云えるだろう。

 ハッピーエンドとなるものも多いが、そうでないもののほうが多い。
 てゆーか作者の最大の関心はそこにはない。
 ある課題に対して、登場人物がどう考えどう動くか?
 藤沢周平はそのプロセスを最重視する。
 結果に救いを求めるのではなく、プロセスそのものにこそ救いがあるのだという思想。
 そこに共鳴したのはつい近年のことだが、
 それまでの永い期間はただ好きで読んでいたことになる。
 何かを好きになった理由を発見するってことは、
 なかなかに骨の折れることだと知った。

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しゃちょ日記バックナンバー/2013年11月①

2013年11月01日 | しゃちょ日記

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2013年11月1日(金)/その1417◇カリスマが翔ぶ日

 明日の晩は渋谷で、
 カリスマ・バイラオーラ大沼由紀さんのライヴ。
 世界に通用する踊り手である。

 死ぬ前にやっておきたい。
 フラメンコから離れた、自分だけの踊りを。
 出来ればその場に立ち会ってほしい。

 そんなメールに、必ず行くからと返信した。
 あっという間にその日がやって来る。
 どんなことになるのか、まるで想像がつかない。

 心を空っぽにして、そこに臨もう。
 全身全霊でそれを感じよう。
 そこで芽生えた想いを、正直に彼女に伝えよう。


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2013年11月2日(土)/その1418◇シンプルな原点

 ん、ロッキーのテーマじゃないか?

 ジェーに連れられ家を出ると、
 遠くからロッキーのテーマが聞こえてくる。
 代々木公園に向かうにつれて、その音像がはっきりしてくる。

 小田急をまたぐ歩道橋の上からその正体が見えた。
 演奏しながら行進する楽隊だ。
 どーやら地元小学校の鼓笛隊らしい。

 代々木八幡の駅前商店街の両脇を埋め尽くす観衆の人垣。
 足を止めて、ジェーとともに音楽隊を眺める。
 聴いたことのある懐かしい曲が、次から次へとメドレーされる。

 日ごろの練習の成果を、たくさんの観衆の前で、
 小さくはない緊張とともに精一杯披露する凛々しい行進姿。
 どうしたことか、ふいにボロボロ涙が吹きだした。

 ああ、オレも歳だなあと自嘲しつつ、涙のほうは一向に止まらない。
 ジャンバーの袖でそれをぬぐいつつ、再びジェーと目的地に向かいながら、
 オレはなぜ泣いたのかを想う。

 無邪気のように見えて、小学校高学年というのは、
 未来に対する漠然とした希望と不安の混沌にとまどう時期だ。
 そういう若い彼らが、自ら習得した技術を懸命に駆使しながら、
 同じ年代のお仲間たちと合力し、世間の大人たちの心を楽しませる。
 頑張れよお、その調子でやってけば、案外と世間は楽しいぞお!
 そんなエールを送った瞬間、唐突にこみ上げた涙だった。

 だが、そのことだけが理由だろうか?
 いや、おそらくそれは違う。
 自ら習得した技術を懸命に駆使すること。
 それによって世間さまのお役に立つこと。
 年齢に関わらず、人はそういう姿に「美しさ」を感じる生き物なのだ。
 そして、自分だってそう在りたいと、人は誰しもそう願う。

 まあ、そんなところで幼稚な思索を打ち切った。
 前を歩くジェーは黙々と、しかし楽しげに私を引っ張る。
 午後から始める重たい仕事が、なぜか楽しげなものに思えてくる。


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 2013年11月4日(月)/その1419◇喝

 久々に土日連続でジェーと代々木公園。
 彼のご機嫌とりにも成功したようで、ずいぶんと愛想がよくなった。
 
 大沼由紀さんのあの衝撃ライヴ以外は、家に籠もって仕事に励んだが、
 きのうの晩はテレビ三昧で、思いきりヤワに過ごす。
 笑点、巨人・楽天、もやサマーズ、八重の桜、安堂ロイド、
 ストラディヴァリ、茂木さんなどを、ぴこぴこリモコン駆使しながら観た。

 今日はこれからパセオに行って、
 二日分のメール対応、原稿料の締め作業、12月号の進呈リスト、
 新年号 「Hola!」の追い込み、原稿書きなどのデスクワーク。
 明晩は今井翼さんの舞台観劇なので、そのぶんも先食いしておかねーとな。

 先月の今井翼対談取材(鍵田真由美さん)の折、『さらば八月の大地』の話題となり、
 舞台本番が間近に迫り台本と稽古開始を待つ心境を、静かに彼は語った。
 もしも私ならば絶対パニックだが、彼はまったく動じていなかった。
 「その状況状況で全力を尽くせばいい」
 想えばNHK『支倉常長』の折も、あの悪状況を彼は淡々と乗り超えた。
 こうした舞台人の持続性の高い信念を、
 自分とは別の遠い世界のことだと割り切ってしまうのは明らかに違うぞと、
 ヤワな自分の日常に喝を入れてみる。


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2013年11月5日(火)/その1420◇身を捨ててこそ浮かぶ瀬

大沼由紀舞踊公演「杢」(moku) 11月2日(土)昼夜2回公演/東京(渋谷)アップリンク・ファクトリー
【踊り】大沼由紀【フルート/楽曲提供】小林豊美
【アルトサックス】東金城友洋【ピアノ】津嘉山梢
【パーカッション】朱雀はるな【歌】西容子
【ギター・ホルン・アナログシンセ】山内裕之【ギター】俵英三


 ステージに魔が降りる。
 つまりドゥエンデの発生率が極めて高いという意味で、
 大沼由紀は私にとってのダントツ最右翼。
 多くの同業者やコアファンがそのステージに駆けつけるのも、
 おそらくは同じ理由だろう。

 その由紀さんが、フラメンコではないステージをやると云う。
 出来ればその場に立ち会ってほしいというメールに、
 行かないわけがないと返信した。
 その昼夜二回のライヴは早くにチケットが完売となった。

 フラメンコではやらない舞台。
 みんな由紀さんのフラメンコにガツンと一発やられたいのに、それはなぜ?
 あれだけの高みに達した人でも、自家中毒の危険は付きものなのか。
 いや、高みに達した名人ほどその危険は増し、
 自分の内に次々と新たな課題を打ち立てる必要に迫られるのかもしれない。

 何をやっても大沼由紀なら何とかするだろうという信頼感。
 その一方で、いつもとは違う不安と好奇に充ちた緊張感。
 冒頭のボーダーレスな楽園風音楽によって、かえってそこに拍車がかかる。
 そこに続くのは暗黒舞踏や不条理劇を想わせる幾多のシーン。

 普段着で登場する大沼由紀は長いチェーンを引きずっている。
 その先端には赤のサパトス(フラメンコシューズ)が結ばれている。
 フラメンコは掛け替えのない彼女の守護神であると同時に、
 彼女を束縛し時に自家中毒さえ引き起こす魔物。

 音楽ほかを担当する「私(大沼)の漠然としたイメージを受け止めてくれた仲間たち」は
 それぞれに孤独であり、丸腰の大沼はそこに積極的に絡むわけではない。
 フラメンコの飛び道具もほとんど封印し、あの圧倒的な存在感はナリを潜めている。
 フラメンコな要素は散見できるが、皆互いに無関心に我が道を往く。
 その光景は、互いに協働しながら我が道を往くフラメンコとは真逆にも映る。
 ほとんど対話もなく、だがそれで誰かが困るわけでもなく、
 明るくはないが気楽にマイペースにステージ上に存在している。

 ラスト近く、プーロ(純粋)フラメンコの伝道者・俵英三が登場し
 淡々とギターソロを弾く。
 アンダルシアの風と土とがぷんぷん匂う純正フラメンコ。
 その至福の瞬間は懐かしい歓びに満ち充ちている。
 美しく輝きながらも、しかし全体としてはそこだけ宙に浮いている。
 フラメンコの結晶とも云うべき俵のギターに、それでも大沼はまったく絡まない。

 ラストは最初のナンバー『15』に戻り、やや明るさを取り戻す。
 あの大沼由紀にして、ああ、何という不完全燃焼。
 私たちはただ、大きなリスクを承知で彼女が芸術の真髄に斬り込んだ
 今しがたの出来事に呆然としている。

 アンコールのすっきり突き抜けたような大沼由紀の表情、
 そして投げかけられた重たいテーマが観客席に憑依する。
 それぞれの家路に芽生えたものは、大沼由紀のフラメンコへの渇望、
 そして忘れることの出来ない今宵の体験の反芻。
 「こんなもの、もう観たくない。いや、だからこそまた観たい」
 相反する願望がおよそ半々で交錯する。

 翌朝、そのマチネを観た本誌ライター井口由美子のウェブ日記に目を見張る。
 そのあまりのドンピシャ感に、以下任意抜粋して盗用。


「45分間のライヴ。集中した感覚は無く、
 トリップした心地で無為に過ごした不安が残り、それが孤独を深める。
 終演後の大沼さんの清々しい笑顔。
 孤独な不安を持つことだって生きてるってことでしょう?と、
 サラリかわされてしまいそうだ。
 心の奥にあった混沌とした迷いを、
 おそらく彼女はこのライヴで抉り出すことに成功した。
 むろん分かったところで解決はしない。
 けれどそれを明確に可視化できる。
 混沌は可能性の宝庫なのかもしれない。
 それによって少しだけ先が視えてくる。
 そんなことを感じさせるスッキリとした表情だった。

 家に帰って、ベートーヴェンやブラームスを無性に聴きたくなった。
 いや、聴かずにはいられなかった。
 不安と孤独に怯えた私は、自分の拠り所たるアートの頼もしさを
 確かめずにはいられなかったのだ。
 そこでふと気付いた。
 大沼さんは、フラメンコから離れた混沌の極みに往ってしまうことで、
 自身の拠り所であるフラメンコの大きさを
 確かめようとしていたのではないだろうか。
 その不動性・普遍性を再確認したくて、
 敢えて離れてみたくなったのではないだろうか。

 以前大沼さんが踊った大地のようなソレアを忘れることが出来ない。
 だが、当然の如く彼女はそれに満足していない。
 かつて声楽とジャズと舞踏の世界にその類まれなる資質を育まれてきた大沼さんは、
 フラメンコという産道に確かな光を見極めながらも、
 混沌たる世界に敢えて再び飛び込んだ。
 この先の深化は未知数でありながらも、
 大沼由紀さんは豊かな通過点を闊歩している。」

                 
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2013年11月6日(水)/その1421◇『さらば八月の大地』メモ

 中村勘九郎、今井翼出演の『さらば八月の大地』。
 観劇の手配をいただき、昨日16時開演の舞台を観る。
 
 演出はあの寅さんシリーズの山田洋次。
 舞台は1945年の終戦前後の満州。
 満州映画の撮影所における日本人と中国人の人間模様。
 暗く重たい現実と、それでも絶えない未来への希望。

 劇中の満州映画理事長は、実在した甘粕正彦がモデル。
 日本の軍史では悪名高き人物だが、さまざまな人々の証言からは、
 清濁併せ呑む不気味に魅力的なキャラクターが浮かび上がる。
 映画『ラストエンペラー』では坂本龍一が演じていた。
 
 中村勘九郎は中国人のチーフ助監督。
 今井翼は関西出身の撮影助手。
 映画をこよなく愛すこの二人の熱い友情をタテ軸としながら、
 終戦前後二年にわたる激動物語は展開する。

 父勘三郎の長所をストレートに継承する中村勘九郎。
 清冽な役柄にものの見事にハマっていた。
 メジャーシーンでこの先グイグイと頭角を現す役者だろう。

 そして初めて観る今井翼の芝居。
 「やってくれるよねえ」
 終演後、となり席の編集部・小倉青年と交わした第一声。
 ざっくばらんに自然で男前のキャラクターが際立っていた。
 論理よりも直観を貫き通す役創りは、〝再現〟よりも〝実在〟を志向していた。
 こねくり回さずスパッと斬り込むアプローチにフラメンコな流儀が視えた。

 この一年のバーン、プレゾン、NHK支倉常長、パセオ連載対談の現場、
 そして今回の芝居に共通する、鋭い斬り込みと腰の座った存在感。
 あらゆる展開の通奏低音に、深く静かにフラメンコが響く。

        
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2013年11月8日(金)/その1422◇キャラ探し

 昨晩は高円寺エスペランサで恒例の木曜会。

 すでに二十数年つづく木曜会は、
 業界の仲良し連が集まる肩の凝らない親睦会であり、
 先月永眠された座長・本間三郎師匠の置き土産でもある。

 新たなゲストを迎え、エキサイティングな数々の話題に
 時を忘れて語り合い、帰宅すると26時だった。
 底知れない包容力で私たちを守った本間師匠が、
 すぐそこに居るような気がした。

 死してなお生きるというのはこういうことかとも想う。
 この会での私の役回りは〝悪ガキ〟そのものだったが、
 そろそろ芸風の替え時なのだろう。
 とは云うものの、悪ガキ以外のキャラがどーにも浮かばん。

 
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2013年11月9日(土)/その1423◇高田馬場にマンサニージャ新店舗

 きのうは丸一日、溜めこんだ事務仕事の交通整理。
 21時ころ地元に戻ると、道端でばったりアキラと出喰わし、
 これわこれわと、家のハス向かいの行きつけになだれ込む。

 この春閉店した秀の呑み友たちが、
 ぼちぼちながら私の新しい隠れ家に顔を出すようになってきた。
 そうは云っても皆が皆、日時を決めて呑むことが苦手な連中ばかりなので、
 敢えて集合は掛けないものだから、タイミングよく会えることは少ない。

 さて、相変わらずモテモテのアキラだが、やっぱりひとり暮らしがいいと云う。
 まあ、その気持ちを分からないでもない。
 連れ合いがスペインに出掛けたりすると何故かウキウキした気分になるし、
 独りでお気楽に過ごす時というのは、案外と貴重な贅沢なのかもしれない。

 さあ、陽が差してきたみたいだし、これからジェーと散歩だ。
 代々木公園の大噴水がオレらを呼んでるぞお、ジェー!
 ジェジェジェじゃあ!

 16時からは、高田馬場に新店舗をオープンする
 フラメンコ衣裳〝マンサニージャ〟の開店パーティ。
 カンテのライヴもあるというから、
 昨日の続きをとっとと片づけ、ちょいと早めに駆けつけよーかい。

 
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2013年11月10日(日)/その1424◇トムジェリのフラメンコ

 バケットに生ハムを乗っけて、オリーブオイルをかけて食う。
 これが妙に旨くて、シャンパンとマンサニージャをがんがん呑んだ。
 しかも鍛地陽子、土井まさり、藤井かおるという美貌のバイラオーラたちと
 歓談できるという特典付きである。

 きのうの高田馬場マンサニージャ(フラメンコ衣装)の開店パーティ。
 そして、至近距離でのまさかのサプライズ!
 とどめはアントニオ・カナーレスのブレリアだった。
 
 年内の事務仕事が片付いたので、本日日曜は半休を目論んでいたが、
 この天気じゃあ大江戸散歩の気分でもない。
 しゃあねーので家でおとなしく原稿を書くことに。

 ちょうど新たなテーマが発見できたところでもあるし、
 その記事というのが新テーマにジャストミートする内容なのだ。
 いや、その取材によって新たなテーマが発見されたというべきか。
 
 さて、今朝がた東敬子さんのツイートでチョーおもろいのを発見!
 あのトム&ジェリーのフラメンコ・ヴァージョンである。

 http://www.youtube.com/watch?v=sGOt_hShgiA&feature=youtu.be
         
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2013年11月11日(月)/その1425◇おさんどん

 ジェーの散歩と買い物のほかは、家で過ごした日曜日。
 原稿書きとストレッチと読書の合い間にメシ作り。
 
 朝めしはラーメン。
 市販の生ラーメンに昨日の鍋の残り物、キャベツ・もやし・
 にんじん・にらなどをブチ込んだ野菜タンメン風。

 昼飯は炊き込みご飯としじみとワカメのスープ。
 具材は鶏皮、タケノコ、ごぼう、にんじん、エリンギ。
 全体はうす味なんだが、アクセントに鶏皮だけは別に甘辛く煮込む。

 夜はつまみ用に関東炊き風おでん。
 豚バラ、大根、ちくわぶ、はんぺん、うす揚げ、里いも、じゃがいも、茹で卵。
 コンソメ・にんにくも入れるけど、出汁は京風うす味なんだな。

 洗濯や掃除も嫌いじゃないし、けっこうオレは主夫向きなのかも。
 ことこと煮物の仕上がりを待つハラペコの二時間は、
 もっとも執筆の集中力が増すことも判明!
 そのわりに内容は大しことがないことも判明!


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2013年11月12日(火)/その1426◇犬も歩けば棒にあたる

 コツコツ仕込んだプロジェクト。
 アタリもあればハズレもある。
 まあ、云うまでもなく私の場合は圧倒的にハズレが多いから、
 宝クジの感覚で進めることが多い。

 やらなきゃよかった。
 そんなのも山ほどあるが、
 それをやらなきゃ次なる挑戦は発見できなかったわけで、
 やはり、やってよかったのだという結論に落ち着く。
 まあ、自ら心を折らないための精一杯の負け惜しみである。

 そんな七転八倒が、生涯戦績3勝997敗という結果を生んだ。
 現在4勝目をめざして奮闘中だが、
 この数週間ほどで五つばかり、小さいながらもツボミが開いた。
 水と肥やしを絶やさなければ、そこそこ育つかもしれない。

 あのタイミングで即踏み込まなきゃ、何にも起こらなかった。
 開いたツボミのすべてが、そういう性質のものだった。
 怠惰な性格上、何でもかんでもポジティブというわけにはゆかないが、
 手間ヒマ惜しまず地道にコツコツ積み重ねる〝静かなるポジティブ〟というのも
 悪くはないなと想い始めている。
 闘う相手は世の中ではなく、ほれ、このオレだという事実になぜか安堵する。

 
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2013年11月14日(木)/その1427◇初体験

 帰りの小田急。
 歩き過ぎたせいか、腰痛が出る。

 ハス向かいのシルバーシートがおいでおいでをしている。
 魔が差したのだろう。
 案外と私はあっさり座った。
 生まれて以来の初体験である。

 だが、私は若く見えるタイプだ。
 とても58歳には見えないくらいに若い。
 どーみても57歳そこそこにしか見えない。

 そんなんで、やっぱり居心地は悪い。
 ふと、お向かいを見ると、20代とおぼしきあんちゃんが、
 ゲームらしきに夢中で、しかし堂々とシルバーシートに座っている。
 迷わず私は立ち上がり、ドア前のいつもの立ち位置に向かう。

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 2013年11月15日(金)/その1428◇妙夢

 「あんた、パセオの人だろ?」

 腰痛を引きずりながら、打ち合わせの場所に徒歩で向かう私に、
 車の運転席から顔を出し、見知らぬあんちゃんが声を掛けてくる。

 「よかったら送るけど」

 悪意の人にも思えなかったので、それじゃあ頼むよと、
 後部座席に乗り込む。
 あんちゃんは乗用車をバックで発進させ、
 気がつけば高速道路を200キロ近くの猛スピードで爆走している。
 しかもバックのまま、路肩ギリギリを走るのだ。

 「おい、方向がちがうみたいだぜ」
 「あんたに観せたい景色があるんだ」

 無駄な抵抗はやめ、とりあえず相手の手に乗ることにする。
 あんちゃんはおそらく三十半ば。
 妙に眼の澄んでいる男で、悪い予感はない。
 やがて私たちは、ハイウェイの山頂に到着する。
 
 「どうだい、いい景色だろ」

 確かに絶景だが、私は高所恐怖症だからそれほど嬉しくはない。
 おまけにスリリングなドライブの後遺症も残っていて、
 不機嫌な顔をあんちゃんに向ける。
 欧米人のような仕草で彼は両の手の平を外側に向け、やれやれとつぶやく。

 帰りは普通に前に進む穏やかな運転で、東京らしき街に到着する。
 車は大きな寺に乗りつけ、私は広い和室に案内される。
 和机にはパセオのバックナンバーが積んであり、パソコンも起動している。
 不思議と違和感はない。
 障子を開くと庭越しに都電が走っている。

 私は線路沿いを歩き、停車場から早稲田行きに乗り込む。
 学習院下で下車し、途中のセブンで人数分のコロッケを買い、
 見慣れたパセオ編集部に戻る。
 お帰りなさいと、岩井と小倉が普通に迎える。
 何事もなかったように、私も普通に新連載の準備を始める。


 前半はスリリング、後半はどこか懐かしい今朝の夢。
 その不思議なコントラストが気に入ったので、忘れぬうちにメモ。


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