フラメンコ超緩色系

月刊パセオフラメンコの社長ブログ

しゃちょ日記バックナンバー/2018年9月

2018年09月21日 | しゃちょ日記

 

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2018年9月28日(金)その3351◆カニサレス東京公演

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追っかけ歴もおよそ三十年。
やはり遠足の前の晩状態になって来た。
そう、明日はカニサレス東京公演。
おやつはすでに購入済みだ(上限480円税込)。
          
今回はカンテも入るクインテット構成。
パセオ新年号で立体評(三人がせーの!で忘備録)を書くのだが、私もそのひとり。
     
カニサレスのステージというのは、
アートとエンタの境界線上にその真価(知性的本能)が発揮される。
それがソロであれアンサンブルであれ、
決してスベらない上質な快感が世界中からリピートを要請される理由であり、
マエストロには〝国際フラメンコ大使〟という異名がふさわしい。
              
パコ・デ・ルシアの後継者としてカニサレスは闘い続ける。
彼と話していると痛いほどわかる。
それは常にマエストロ自身との闘いだ。

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2018年9月28日(金)その3350◆濃密な陰影

「闇があるから光がある」
             
『蟹工船』小林多喜二の言葉だという。
時おり散策に出かける平和の森公園は、その多喜二が思想犯として
収監された中野刑務所の跡地だと、つい最近知った。

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都の西郊・中野は昔から厄介ごとを背負わされた土地柄で、
古くは五代将軍・徳川綱吉の〝お犬小屋〟を担当した。
現在のJR中野駅の南北がそのあたりで、パセオもフラメンコ協会も
我が家もその広大なお犬小屋の跡地らしい。

同じく現在の中野サンプラザは悪名高き憲兵隊大学校の跡地だし、
そのおとなり中野区役所は日本初の国営忍者養成所・陸軍中野学校の跡地である。

闇があるから光がある。
現在はのどかで肩のこらない暮らしやすい街だが、
散策中に時おり感じる濃密な陰影が、
好んで住み着いた理由であったりもする。

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2018年9月27日(木)その3349◆プログラム原稿

この秋の大沼由紀さんのリサイタル。
https://www.yuki-onuma.com/informacion.htm#V
         
プログラムへの寄稿を頼まれ、歓んでその日のうちに書いた。
江戸っ子は早いのだけが取り柄であり、
どの道もったいつけるほどの代物ではないので、
その半分くらいを例によってフライング公開。

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『追いかける理由』
        小山 雄二(月刊パセオフラメンコ編集長)


「ほら、これだけで充分じゃない?」
なんて便利!などと油断している間に、
魂を抜き去ろうとする現代文明の悪魔性。
そうした便利さの向こう岸に、ブレない存在感で
人本来の素朴で逞しい生命力を呼び醒ます預言者。
ステージで踊る大沼由紀は、生きる源点をフラメンコ経由でしなやかに差し出す。

ひと昔前、凄い凄いと玄人筋がこぞって太鼓判を押す
謎のカリスマバイラオーラの舞台に初めて触れた衝撃はいまも忘れ難い。
多くのプロ舞踊手たちが詰め掛けギラリ静まりかえる開演待ちの客席上空には、
何かを予感させる黒いテンションが充満していた。
そして大沼由紀登場と同時に魔はやって来た。
鋭い痛みをともなうカタルシスを客席に残し、やがて魔は去った。

以来私は大沼由紀の追っかけとなった。
だから例えばスペインの超一流どころの公演と
彼女の舞台が重なる場合なども、迷わず由紀さんの舞台に駆けつける。
なぜ私は彼女を追いかけ続けるのだろう?
そのこととフラメンコの専門誌を毎月出し続ける理由が、
多く重複することに気づくのはずっと後のことだ。

好き嫌いを超え、真理を予感させる
魅力的なエネルギーには強烈無比な引力がある。
誰しもそんな存在を心に抱くものだが、
私の心にもグレン・グールドのピアノバッハや、
将棋の羽生善治永世七冠のアルテと同様な位置づけで
大沼由紀のフラメンコは棲んでいる。

すでに国際舞台で活躍できるクオリティの舞踊家だが、
だからと云って彼女のすべての舞台に歓んで共鳴するわけではない。
彼女がフラメンコから大きく離れて独創表現に走る時、
頼むからフラメンコに戻ってくれよと叫びたくなることもある
・・・(当日配布のプログラムにつづく)

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2018年9月26日(水)その3348◆当たり前の奇跡

吹く風は秋、待ち望んだこの爽快感。
         
その感謝の気持ちは、慣れとともに薄れてゆく。
一方、春と秋が好きなのは、夏と冬があるからだと分かる。
春夏秋冬というのは、実に素晴らしくバランスされている。
自然界のこういう当たり前は、親子の愛のように、
むしろ奇跡のようにも想えてくる。

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2018年9月25日(火)その3347◆便利なものは

自宅のネットが復旧。
家でも仕事ができるし、
やはり便利は便利だ。
ふと、あの名言を想い出す。

「便利はものはみーんな悪魔」

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2018年9月23日(日)その3346◆ルネッサンス

ネットで偶然発見。

高円寺に、なんともうひとつの名曲喫茶〝ルネッサンス〟。
先週行った〝ネルケン〟はエスペランサの北東1分にあるが、
ここルネッサンスもエスペランサから南東に2分という近さ。
わずか200メーターの距離に〝フラメンコの虎の穴〟を
はさんで絶滅種とも云うべきクラシックの名曲喫茶が二店。
都会の鉄道沿線にひとつあるかどうかの時代、
高円寺という街の懐の深さを改めて知る。

暗い照明、凝りに凝ったインテリア、まずい珈琲、無愛想、私語禁止
という名曲喫茶の五大特典は昔も今も変わらない。
ルネッサンスでの初聴きはシューマンのピアノ協奏曲。
リリシズムの極致とも云うべき高音域のきらめきは、
おそらくはラドゥ・ルプーのピアノ。
続いてブルッフのヴァイオリン協奏曲。
端正なリズムのキープしながら超美音で際どく歌うヴァイオリンは、
こちらは確実にアルテュール・グリューミオ。
コテコテの名曲名盤は逆に新鮮。

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程よい音響でのんびり小一時間聴いてたら、
空っぽのよれよれ古電池がフル充電された感じ。
懐かしいだけではない古典エネルギー補給館。
車で帰ろうと思ってたが、桃園緑道30分の家路を歩く。
勢い余って途中の緑道脇のパセオ編集部でメールチェックと原稿整理。
5時半には帰って、きかんしゃトーマス&笑点の定番コース。
晩めしはジェーの熱いリクエストで早朝から仕込んだスペアリブおでん。
わ~い、ほんとはおれもおでん喰いてーんだよ。

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2018年9月18日(火)その3345◆土方憲人ソロライヴ

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土方憲人、二度目のパセオライヴ。
ライヴ初登場の折には、新人公演奨励賞を受賞したころとは
まるで別人のような成長ぶりに目を見張ったものだ。
すでに私の中では日本人三大バイラオールの一人であり、
その軌跡をどこまでも追い続けたくなる魅力にあふれている。

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2018年9月16日(日)その3344◆郷愁

高円寺エスペランサからわずか一分足らずの距離にあった。

名曲喫茶『ネルケン』
出迎えてくれたのはラフマニノフの第三番。
天衣無縫なド迫力は、アルゲリッチのピアノに違いない。
 
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ずいぶん前にその在り家を教わったのだが、
仕事が一区切りつくまでお預け状態だった。
美術品にあふれる歴史遺産のようなネルケンの佇まいが
タイムスリップ感を引き起こす。

17歳の私は珈琲を注文し、煙草に火をつけ、彼女を待つ。
いつの間にやら、音楽はエリック・サティに変わっている。
そして彼女は来ない。

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2018年9月13日(木)その3343◆その99回目

パセオライヴも最近は現場スタッフが充実してきたので、
開演ぎりぎりでエスペランサに駆けつける。
今日もこれから重たいメールを三本ばかり返信して車に飛び乗り五分で到着。

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パセオフラメンコライヴその第99回目は、
三澤勝弘フラメンコギターソロライヴ!
当初開催目標100回まで、今宵とあともう一回。
今宵は音響抜群の二階席一番前で、
四十年追っかけ続けた渾身の音色に全霊を傾ける。

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2018年9月13日(木)その3342◆どこ行くの?

かなりバテ気味だったが、
この猛暑をどーやら乗り切ったようだ。
食欲も回復しつつあるが、近ごろは
主食に載せるトッピングのおかずにうるさい。
大のお気に入りは、おでんに煮込む豚の骨付き肉。
今日はこれを喰わしてやるからと、
買ってきたスペアリブの徳用パックを見せると俄然はりきり始め、
ジャガイモや里芋やごぼうの皮むきの段階から貼り付き状態で、
私とともに調理に参加している(つもり)。
はなの上のナゾの白物体はごはん粒で、
お弁当つけてどこ行くの?状態。

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2018年9月12日(水)その3341◆鬼火

鬼のようなシギリージャ。
その一撃にやられた。

その立ち居振る舞いもサムライの如き凄腕フラメンコギタリスト。
ほぼ四十年のお付き合いとなる。
当時の私は24歳の駆け出しプロモーターで、八つ年長の三澤さんは32歳。
ライヴや旅公演などの仕事もたくさんしたが、
合間にバッティングセンター、ポーカー、呑み会なども欠かさなかった。
三澤さんを通じて多くのフラメンコたちと知り合い、
それも28でパセオを創刊する大きな原動力となった。
そしてあれから四十年、今回大病から復活する三澤勝弘。
決して裏切らないシギリージャ。

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2018年9月13日(木)20時
パセオフラメンコライヴVol.099
三澤勝弘フラメンコギターソロライヴ
http://www.paseo-flamenco.com/daily/2018/09/2018913.php#006046

「世界のどこかで、今この瞬間にも、戦争や飢えで人が死んでいるんだ。失われてゆくひとりひとりの命のことを考えながらそれを音に込める。どうやったら伝わるのか......!」

 ある夜のライヴの後、こみ上げる想いが溢れ、吐き出すように語る、三澤勝弘さんのかすれた声が忘れられない。 三澤さんにとってフラメンコとはまさに"心の叫び"だった。なぜギターを弾き続けるのか? 現世における、アーティストとしての自らの存在意義は何なのか? 常に自分に問い掛けることを課す厳しさに、鋭く胸を突かれた。
 中学生の頃から独学でフラメンコギターを始め、学生時代より公演活動を開始、1967年、第一回全日本フラメンコギターコンクール入賞を果たした後に、中学時代から尊敬する名匠ニーニョ・リカルドに師事するため渡西、レジェンドの音と美学を継承する。信念を貫き、ブレることなくまっすぐに行動してきた、その一方で『万葉集』を愛読する一面も持つ。人々の想いが詠まれた日本最古の和歌集。そこに通底するのは、プリミティブで不変のものに潜む真理を掴み取る感性。それは激しいほどの情深さだった。
 なぜ私たちはこんなにもフラメンコに惹かれるのか。かつて「みんなが解らない淵のところに、鬼が棲んでいる。狂気が無いと本質は視えて来ない」と語った三澤勝弘さんは、現在、癌と闘いながらライヴ活動を続けている。彼に棲む"鬼"を目撃した時、その答えは明らかになるだろう。

 (月刊パセオフラメンコ2018年9月号/井口由美子)

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2018年9月11日(火)その3340◆喰い溜め

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きのうのカニサレス激励会。
プリメラのチコさんとスポンサーSIE林社長にお喋りを担当してもらい、
マエストロと真理子夫人の笑顔をみながら、
主に美味しいしゃぶしゃぶとすき焼きに
一心不乱に専念した私はとてもとても幸せですた。
いよいよ9/16カニサレス全国ツアースタート!
http://plankton.co.jp/canizares/

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2018年9月10日(月)その3339◆祝カニサレス来日

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世界中を駆け巡る、現代フラメンコギターの最高峰。
日曜からいよいよ全国ツアーをスタートするカニサレス。
今宵はその激励会で、関係各位しゃぶしゃぶ屋に集合。
積もる話は山ほどあれど、食の細いマエストロに
旨い肉を喰わせることがとりあえず先決。

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2018年9月7日(金)その3338◆ブレリアを歌おう!

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あさって日曜は、タカミツ先生のカンテ講座、
ニューアルその第一回目である
http://www.paseo-flamenco.com/daily/2018/09/post_100.php#005916
ブレリアを歌いたいド素人の皆さまはパセオに大集合!

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2018年9月5日(水)その3337◆刷り込み

時代性というのは強烈である。
誰にとってもそれは同様だろう。      
思春期・青春期の刷り込みのあまりの大きさに、
普遍を探ってきたこの半世紀の学習が砕け散ることも多い。

昨日にひき続き神奈川テレビ22時『俺たちの朝』再放送、
湯上りのビール・枝豆で貼りつく。
全部ではないにせよ、あの頃の追体験を
いまだリピートしている世渡りにふと気づき、
我が身がゴム動力で反復運動するおもちゃのように想えてきたとです。
どーりで成長しねえわけだわ・・まあでも一期は夢ぞ、
そりゃそれでいーかもと、妙に悔いの残らぬ1970、80年代。

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2018年9月4日(火)その3336◆俺たちシリーズ

『俺たちの朝』。   
おとなりジルで臨時呑み会、帰ってテレビをつけるとやっていた。
鎌倉を舞台に、おっす・チューちゃん・かー子が織り成す青春ドラマ。
およそ四十年前のあの懐かしい「俺たちシリーズ」の傑作である。
就職できない、金がない、常に女にフラれるという主人公の黄金三原則を、
なぜか真摯に守り続けた私の青春がそこにあった(ちょちょ切れ涙

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2018年9月2日(日)その3335◆ポリフォニー

日曜朝のグールド。    
好きなタイプのピアニストではないのに、
好みや善悪を超えてサイコー!というファンが多い。
フラメンコで云うなら来月来日するイスラエル・ガルバンだろう。

http://saf.or.jp/arthall/stages/detail/5430

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鬼才グレン・グールドは新旧のゴルトベルク録音が有名だが、
わたし的には青春時代にハマった『フランス組曲』
(1971~73年録音)の衝撃からいまだ抜けきれない。
とは云え、すでに半世紀近く絶え間なく聴き続ける理由は、
年齢とともに解明されつつある。
楽しい会話や仕事やセックスなど人の協働の基本と理想が、
そのシンプルなポリフォニーに映されているからだと想う。

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2018年9月1日(土)その3334◆美しすぎて

「美しすぎて、これはバッハじゃない」

その演奏スタイルは、当時からすると確かに流行外れではあったが、
時代を超えて生きる普遍的な風格がある。
発表された頃(1987年)には冒頭のような酷評を受けることも多かった
パールマンのバッハ無伴奏ヴァイオリン。
31年の時を経ていま聴けば、そりゃねえだろと苦笑がもれてくる。
パセオに書いた自分の記事なども、
たくさんの苦笑を提供していることが自ずと知れてくる(苦笑)

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土曜の昼下がり、どうした心境か数年ぶりでその全曲を聴く。
無伴奏なので、複数のメロディを同時に弾くことも多くそこも醍醐味となる。
ヴァイオリンソロで独立する各声部同士をバランスよく歌わせることは至難の技だが、
パールマンのそれは濁りなくしなやかに歌う。
縦横のハーモニーの美しさは数ある名盤の中でもベストだろう。
足元のジェーも気持ちよさそうにまどろんでいる。