フラメンコ超緩色系

月刊パセオフラメンコの社長ブログ

しゃちょ日記バックナンバー/2012年9月①

2012年09月01日 | しゃちょ日記

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2012年9月2日(日)/その1155◇唯一無二

 家のパソコンが不調で、買い換えることに。
 よって、それまでは土日も会社で作業と相成る。
 今日もパセオでカマロン聴きながら原稿書きだよ。

 有って普通だと思っているものが、
 突然無くなって不便することはたまにある。

 それが物ならば、また買えばいい。
 それが金ならば、また働けばいい。
 それが人ならば・・・こりゃ、どーにもならん。
 人ってのは、凄いもんだねえ。

 
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2012年9月4日(火)/その1156◇元手

 良くなったり悪くなったり、
 悪くなったり良くなったり、
 日々の局面はコロコロ変わる。

 悪くなればドヨンとよどみ、
 良くなれば浮かれておごる。
 自分がそんな典型であることに気付いたのは若い頃だが、
 今の自分がその頃とほとんど変わってないことに気付いたのはつい最近だ。
 年々ドヨンとよどむ時間は短くなるが、浮かれる時間は長引く一途。
 「バカは死ななきゃ治らない」という説はかなり有力である。

 ピンの勝負師のトップクラスを永らく観察していると、
 良かろうが悪かろうが、その心の振れ幅は極めてタイトであることがわかる。
 それが勝率を高める理由であり、そのブレない安定感には凄味さえある。
 勝って驕らず、負けて腐らず。
 泣きたい時も、浮かれたい時も、それらをなだめる制御力が滅法強い。

 こりゃあちょっと、オレには無理だと改めて思う。
 振れ幅そのものを楽しんでるところがあるから、まるで見込みがないのだ。
 かくなる上は、勝率や安定感をあきらめる代わりに、
 希望を抱ける心とメゲない行動力だけは、
 いかなる時も枯渇させない必要があるだろう。


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 2012年9月5日(水)/その1157◇目標は高く、早く

 アントニオ・ナハーロ(スペイン国立バレエ芸術監督)のインタビューと、
 新人公演「わたし的奨励賞」の原稿を仕上げ、
 これから(22時到着予定)、業界仲良し連と高円寺エスペランサで木曜会。

 明日も早いし、午後はしゃちょ対談だし、
 目標は26時帰宅である。

          
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2012年9月7日(金)/その1158◇がっぷり四つ
 
 そこには、ステージで踊ったシギリージャと瓜二つの、
 鋭い感性・知性があった。


 そういう"しゃちょ対談(12月号)"の収録を先ほど終えた。
 この夏の新人公演出演者の中から、迷わず選んだ意中の一名、
 バイラオーラ・石川慶子。
 まさかのマイミク(けいこ)さんである。
 
 時間にして二時間半くらい。
 あまりに濃厚な内容の会話に、私の方はグッタリ状態だが、
 彼女はこれから馬場のスタジオで自主練して、
 そのあと新宿エルフラに行くという。

 それが歳の差(23歳差)などではなく、
 志の差であることは容易にわかるが、
 きっといい記事が書けそうだ。


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2012年9月8日(土)/その1159◇等身大

 今日は早くからパセオ出社。
 きのう久々の全休をとった編集部・小倉青年も先ほど来社。
 住まいも会社のそばに移し、気合満々である。
 彼の夏休みは、早ければ正月あたりに実現するかもしれない。

 さて本日は、注目のバイラオーラ石川慶子との
 昨日の対談テープ起こしに取り掛かるつもりだったが、
 来年新年号からの連載原稿が幾つか届いていたので、
 その編集整理を先に片付ける。

 あのアランフェス名演で国際的に認知された大ギタリスト、
 カニサレスの自伝連載が三本。
 ヨランダの新マンガ連載が六本。
 どちらも新年号からの目玉連載なので、
 勢い気合いが入って、そのチェックに今まで掛かってしまった。

 対談まとめは、一息入れてから始めるつもり。
 夜は銀座で、バイラオーラ手下倭里亜の十年ぶりのリサイタル。
 忘備録は私が担当する段取り。

 終演後は久々に銀座で呑むか!
 と思いつくが、行きつけがあるじゃないし、
 結局は、オアシが三分の一で済む、
 なぜかモノ哀しい代々木上原銀座だろーな。

           
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2012年9月13日(木)/その1160◇緊張の糸

 本業の多忙とパソコンの故障にかまけて、
 日記を書かない日々が続く。

 サボることが当たり前になってしまうと、
 毎日せっせと書いてた自分がまるで別人のように思えてくる。

 仕事が一区切りついたので、久々にパセオでこれを書いてるが、
 毎日まるで不自由しなかったネタが、ひとつも出てこないことに驚く。
 無意識ながらも、それなりにアンテナを張っていたのだな、と気づく。

 自宅に新しいパソコンが入ったら日記を再開しようと決めているが、
 そうなると今度は、毎日せっせと日記をサボッてた自分が
 まるで別人のように思えてくるような気がする。


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2012年9月15日(土)/その1161◇倭里亜の本懐

手下倭里亜フラメンコリサイタル/Espacio(はざま)

9月9日/東京(銀座)銀座ブロッサムホール
【バイレ】手下倭里亜 【カンテ】石塚隆充/阿部真
【ギター】高橋紀博/鈴木尚/ニーニョ・マヌエル・ロペス
【ウード】常味裕司 【パーカッション/カヌーン】海沼正利
【舞台監督】白土規之 【照明】佐々木孝尚 【音響】浦崎貴

                 
 その余韻を独り楽しむべく一直線に地元行つけをめざす公演の帰路、
 つい先ほどまで一心に観入ったライヴをあれこれ想う。
 これほどまでにしっとり好ましい余韻のリサイタルって珍しいんじゃないか?
 空虚さを感じる瞬間はまるで皆無であり、
 何だかもの凄くいいものを御馳走になったような感触。

 本来〝御馳走〟とは、自らの足で走り回っていい食材を集め、
 腕にヨリを掛けて心から相手をもてなす料理だと、
 その昔『美味しんぼ』で読んだ記憶があるが、
 十年ぶりだというバイラオーラ手下倭里亜(てが・いりあ)のリサイタルには
 そんな風を思い起こさせる暖色系の感動があった。

 シンプルで贅肉のないバイレは、常に誠実な美学と芯のある愛情に充ちており、
 時とともにじわじわっと観客席の心を潤してゆく。
 現代的なパワーやシャープさは削ぎ落とされているから
 例えば新人公演のような一発勝負には適さないが、
 じっくり精緻に創り上げるこうした劇場リサイタルにこそ
 彼女のアルテは本領を発揮する。

 ゆっくり穏やかに一適ずつコップに滴る水が、やがてコップを満杯にし、
 静かにあふれる水はコップから滴り落ち始める。
 多くの観客はそうした心の化学反応をしみじみ楽しんだのではなかろうか。
 着実に積み上げられた人とアルテの年輪の唯一無二の深い味わい、
 大人による大人のためのリサイタルの醍醐味がそこにあった。

 第一部は「七つのシーン、アラブとスペインの間に」は
 アラブのカリッと乾いたロマンティシズムが薫るような、
 約40分の上質な音楽舞踊絵巻。
 踊る手下は、わたくしを捨て大切な何かを伝えるメディアに徹しようとする
 清楚で芯の強い巫女のようだ。
 ウード(常味裕司)とカヌーン(海沼正利)は、
 九世紀の宮廷音楽家シルヤブを彷彿とさせる神秘に充ちている。
 部分部分に派手な押し出しはないのだが、
 じっくりと積み上げられるエピソード群は巧みに構成され、
 作品全体は実に見通しよく設計されている。
 緩急を織り混ぜながら次第にクレッシェンドする舞台は、
 遥かなる歴史を夢見るように回想する。
 喧騒の現代にひとときの解放をもたらす古(いにしえ)の浪漫の潤い。

 第二部「アンダルシアと日本の間に」で、
 手下はソレアとアレグリアスの二大ヌメロを踊ったが、
 ここでも彼女は表面的な効果に重きを置かず、
 フラメンコの内包する巨大な普遍性そのものをしっとりと描き出す。
 部分ではなくトータルで物語る表現はここでも一貫されている。
 そこにはユニセックスからは程遠い日本人女性ならではの
 奥ゆかしい女性性が滲み出ていて、第二部のタイトルのニュアンスが腑に落ちる。
 自分には厳しく周囲には優しい彼女の人間性があらゆる細部に反映されている。
 繊細に練り込まれた丁寧で心優しいあらゆる周囲への想い。
 その愛は一見淡々としているが、それゆえに煩わしさがない。
 押し付けがましさとは無縁に、しっとりと大らかな愛情が
 会場全体をすっぽり包み込むソレアは当夜の白眉だった。

 たっぷりと弾くギターソロは三場面あり、
 深いコクと腰のあるインパクトが同居する高橋紀博、
 男性的な潔い発音でフラメンコの美しい生命力を謳う鈴木尚、
 本場ならではの粋なタンゴで華を添えたニーニョ・マヌエル・ロペスと、
 それぞれに好感度を残す聴き応え。

 終始抜群の安定度で歌ったのは石塚隆充と阿部真であり、
 スペイン人カンテがゼロ名だったことにふと気づいたのは終演後だった。
 アコースティックな音質を活かした心地よい音響(浦崎貴)と、
 観る者を疲れさせることなく集中力を高める自然な暖かみに充ちた
 照明(佐々木孝尚)も、このリサイタルを成功に導く大きな要因となっていた。

 「リサイタルには舞台人のすべてが出る」。
 そういう奥行きある余韻に心地よく浸れる
 リサイタルらしいリサイタルを観た。

                
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2012年9月16日(日)/その1162◇心と技をつなぐ酒

 NHK将棋トーナメント観戦をあきらめ、
 朝からパセオでインタビュー起こし。

 2時間半のインタビューに加え、
 続く4時間の呑み会の断片も録音したので、
 けっこう手間取り、今終わったところ。

 対談相手は、日本が誇るルンベーラ、
 あのチャチャ手塚である。
 チョー別嬪にして、チョー酒豪である。

 終盤、私のロレツがかなり怪しいのに対し、
 冷やで一升近く呑ってるはずのチャチャは、
 まるでシラフのように朗々と喋ってる。
 しかも、その辺の話にも相当な迫力がある。

 おそるべき、ふったつ上のお姐さん。
 読むだけで絶対に上達できる内容に仕上がるはずだ。
 『心と技をつなぐもの』(2013年4月号)、乞うご期待!


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2012年9月17日(月)/その1163◇はかどる休日

 来年新年号の表紙とCon Flamenco(カラー8頁)、
 カリスマ・バイラオーラ大沼由紀の写真到着。
 すべて写真家ダヴィ・タランコの撮りおろし。

 カニサレス自伝の4~7回目の原稿ならびに、
 各回の掲載写真も到着。
 連載タイトルを、しゃちょ対談からのひらめきで
 『探しものは私の内に』に暫定。
 真理子夫人のスペイン語訳は『Mi búsqueda interior』。
 
 どれも素晴らしいクオリティでド派手に感激。
 9時から編集整理を始めたが、
 選択肢のうれしすぎる多彩さに現在収拾困難中。

 これを終えたらテープ起こし。
 夜は呑み会、目標25時帰宅。


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2012年9月22日(土)/その1164◇徳永兄弟

 あの徳永兄弟によるフラメンコギターライブ。

 新宿エルフラから戻り、
 先ほど編集部・小倉と、その12月号記事の対談を終えたところ。

 まあ、予想してたとは云え、
 ビックリするようなクオリティのライブ。
 小倉は手放しで絶賛中の絶賛。
 私も絶賛しながら、ちょっと辛口を喋った。 
 
 友情出演のドイツ人バイラオーラもかなりの高感度。
 バッハやワーグナーを産んだ国の有望な若手バイラオーラ。
 スペインのカザルスが、ドイツのバッハを発掘した事実を連想。
 
 フラメンコの未来は明るいと、にんまり笑う。