あれはあれでよかったんだよ
散歩の時にパコ・デ・ルシアを聴くのは珍しいことだ。
しかもスーパーギタートリオの、
あの伝説のサンフランシスコ・ライブと来たもんだ。
頭からラストまで、こうしてみっちり聴くのは何年ぶりのことだろう。
1981年の録音だから、このアルバムに熱中したのは25、6歳の頃だ。
いま聴いても、やはり奇跡のライブであることには変わりがない。
ギターを弾く人間ならば、誰もがこのトリオの超人性に驚愕することだろう。
これぐらい弾けたらなあ、みたいな願望を軽々超越するレベルなので、
ライバル心が芽生える余地もなく、
純粋な聴き手として、どっぷりのめり込むことが出来るのだ。
当時リアルタイムでこのレコードにやられたオールドファン層は、
そのこと自体がひとつのエポックとなったろうし、
また、それぞれの人生は何らかの影響を与えられたものと思われる。
現に私も、その三年後にパセオを創刊する。
1曲目の『地中海の舞踏』は、
私の青春のテーマソングみたいなものだから、
それを聴けば否応なく、若かりし日々のさまざまな光景が脳裏を爆走する。
「何やってんだオレ……」
ほとんどが、そんなホロ苦い想い出ばかりだが、
今の私がそこにタイムスリップ出来た場合、
同じ失敗を繰り返すことはないだろうが、別の失敗をやらかす自信がある。
それはハンパでない大失敗だろうから、今度こそ命はないだろう。
「あれはあれでよかったんだよ……」
そう、胸を撫でおろすのである。