フラメンコ超緩色系

月刊パセオフラメンコの社長ブログ

しゃちょ日記バックナンバー/2014年05月②

2014年05月01日 | しゃちょ日記

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2014年5月31日(土)その1665◇菖蒲は時の運

「貴方を信じる」

なるほど、そんな花言葉が彼らにはふさわしい。

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あとわずかで花菖蒲の季節。
堀切の菖蒲園、小石川の後楽園、
ご近所明治神宮、そして向島の百花園。
今年はいくつ行けるだろう。

タフな仕事が待ち受ける道中、どう時を工面するか。
「これが最後だ」。そう思い込むのがコツだ。
まあ、自分とのショーブだな。

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2014年5月30日(金)その1664◇

由緒正しき江戸っ子とゆーのは、おおむね内弁慶の引キコモリだ。

タカ・イ・ジン撮影の「笑わせ係」を引き受け、
きのうは久々に東京から飛び出した。
彼ら日本フラメンコの頂点たちの住む湘南・逗子で取材を終え、
湘南新宿ライナーでパセオ直行が望ましいはずの帰路、
すべてを好漢・小倉編集長におっかぶせ、私は鎌倉で途中下車。
不意にあふれる旅情に身を委ね、
かの鶴岡八幡宮を参拝ののち勇躍江ノ電に乗り込む。

十数年ぶりの七里ケ浜は美しかった。
ふと頼朝の壮大な夢が虹のようにスパークする。
車から眺めるその光景に比べ、
江ノ電から眺める七里ケ浜は何故かくも美しいのだろう。
たぶん気のせいだろう。

やがて江ノ電は終点藤沢に到着し、
甘くほろ苦い別離の郷愁に充ち満ちた懐かしいこの街をしばし彷徨い歩く。
あの頃二人で聴いたガブリエル・フォーレを耳に、
小洒落たオープンカフェでカフェラテをガブリと呑む。
久々の旅を記憶に留めるべく小田急ロマンスカーで帰ろうと思ったが、
新宿行の出発は二時間後だと云われ、快速特急でわが街代々木上原へと向かう。

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呑むには早い時刻なので、
十年通う上原駅前のカリスマ美容師のサロンに三ヶ月ぶりで出向く。

「悪いけど、竹野内豊にしてくれ」

率直な要望をそう伝えると、同い歳の地元呑み友、
不可能を可能にする沖縄出身カリスマ女史は可憐な笑顔のまんま毅然と即答した。

「無理です」

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2014年5月29日(木)その1663◇重要任務

「小山さん、どうです、コレ?!」

タカ(石塚隆充)・イ・ジン(沖仁)の対談取材を無事終え、
逗子のカフェでゆるゆるの珈琲ブレイク。
ちょっと失礼と、近ごろカメラに凝るこのスーパーフラメンコギタリストが
現場スタッフたちを熱心に撮り始める。

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ほどなくして、彼の美人マネージャーを懸命に口説く
モロ情熱的な私を捕えたモニター画面を自慢げに提示する沖仁。
鋭い反射神経で、千分の三の確率でいい表情をする私をジャストミートしている。
その奇跡のトムクルーズ的ショットは後日公開するが、
私の葬儀写真(撮影/沖仁)はこの瞬間決まった。

「おゐおゐ仁ちゃん、プロじゃねーかよ!」と私。
「いやあ、めっちゃ素材がいいですから」とすかさず沖仁。
沖仁という現代フラメンコの英雄が、
ウソのつけない人であることが明らかになった瞬間だった。

・・・いろいろと異論も多いと思うが、
本件については大人らしくサラッと読み流してほしい。

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2014年5月29日(木)その1662◇重要任務

「え~と・・・オレ何すりゃいーんだっけ?」
「え~と・・・何でしたっけ?」

今日はタカ(石塚隆充)・イ・ジン(沖仁)の対談取材。
なのでこれからお二人の住む逗子に出掛けるわけだが、
冒頭は昨晩のパセオ小倉編集長とのやりとり。

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文章・構成・撮影は彼が担当するので、同行する私の役割を確認したわけ。
それが何だかウッカリ忘れちまったが、
自称パセオ社長である私を連れ出すからにゃあ、
何かきっと重要な任務があるに違いない。

「あっ、アレですアレっ! 笑顔のカットを撮りたいので、
いつものくだらねえギャグでお二人を笑かしてください」

・・・私の唯一の重要任務は「笑かせ係」だった。( ̄▽ ̄)

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2014年5月28日(水)その1662◇使者の使命

『アラーの使者』。

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宗教ドラマではなく、変身ヒーロー冒険活劇。
『新・七色仮面』の後を受けて1960年に東映制作で放映された。
写真の勇姿は若き日の千葉真一さんである。
原作は『月光仮面』や森進一『おくふろさん』で知られる正義の巨匠・川内康範。

中近東を舞台に王国の秘宝を巡る勧善懲悪ドラマなのだが、
白ターバンに白覆面の正義の味方「アラーの使者」
(実は何故か日本人の私立探偵)が現れて悪人どもを蹴散らす。
そんな面倒くせえストーリーに面食らったものだが、
当時の私(五歳)は正義の味方であり、
白ターバンと白覆面の素材を母親にせがんだことを覚えている。

登場する外国人が全員(みんな日本人だが)、たどたどしい日本語を喋ることには、
幼心に何か申し訳ないような心地がした。
また、後に知るイスラム教に何となく好意を抱いたのは、
このアラーの使者の影響であることは確かである。

その後、『イエスの使者』とか『ブッダの使者』みたいな
変身ヒーロー冒険活劇が制作されなかった不公平が残念である。
正義の味方であるべき各々の使者同士が、いま現在も
現実世界で互いに争う状況がもっと残念である。

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2014年5月28日(水)その1661◇待機するゴン

「そりゃあゴンですよ」

わが家の寝床から徒歩30秒の行きつけ呑み屋、
若女将トモコが間髪入れず応える。
ご近所お仲間どもとキプロス戦のサッカー観戦。
プレーの合間は皆してぎゃあぎゃあ騒ぐ。

「トモちゃんはカズとゴン、どっち派?」

ゴンはカッコつけない、熱だけでやってる。
馬鹿とか利口とかじゃなくて、
人生って、その熱が生きてるってことじゃない?
みっともなくても本気でぶつかるって、賢いよねっ。
お店でいろんな人観てきたけど、
上手いとか下手とかじゃないもん。
生きるって、結局そこじゃないっ?
だってみんな平等に死ぬんだから、ゼッタイ賢いよっ、
生きたもん勝ちだよっ(笑)!

ズバリ同感の想いを隠し、私はこうボケる。

「ゴンはワールドカップ出るんだっけ?」
「出るよ、待機してるわよ」
「どこでっ?」
「タンスでっ!」

はあ・・・引退したかと思っていたが・・・タンスにゴン!・・・つーことね。

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2014年5月28日(水)その1660◇1893年

それはあたかも、添い遂げられなかった恋人たちの心のレクイエム。
ハ短調ポコ・アレグレット(第三楽章)の哀愁旋律。
あらゆる交響曲を楽章別で選ぶなら、ブラ3のこれを迷わず選ぶ。

ブラームスの交響曲第三番ヘ長調。
我らが英雄アントニオ・ガデスは第四番をこよなく愛したが、
人気なら第一番(ベートーヴェンの第十とも呼ばれる)だろう。
そして「添い遂げられぬ」経験の豊富な者がこの第三番を愛す。

第三番の初演者ハンス・リヒターは、ベートーヴェン(交響曲第三番/英雄)
に例えて「ブラームスの英雄」と評した。
確かに両端楽章は英雄的だが、作曲当時恋をしていた
50歳独身ブラームスのロマンティックな「恋歌」のようにも聞こえる。

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(若き日のブラームス)

高校生の私はフルトヴェングラー盤をもっぱら愛聴したが、
カラヤン、バレンボイム、インバル、ハーディングなどを経て、
近ごろはカニサレスのアランフェスでタクトを振った
サイモン・ラトル盤(ベルリン・フィル)を好んで聴く。

さて、ブラームスの交響曲第三番が作曲された1883年の日本は明治16年。
岩倉具視は他界し、陸軍大学校が開設され、外交舞台・鹿鳴館が完成する。
外交をしくじれば他のアジア同様、世界の列強にコテンパやられる。
後世からは悪名高き鹿鳴館だが、当時の日本高官は必死だったのである。

三島由紀夫の四幕戯曲『鹿鳴館』の舞踏会シーンには、
何故かこのブラ3がよく似合う。
そんな幻想の中、第四楽章アレグロがまるで
日清・日露戦争の宿命の予兆のようにも聴こえてくる。

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2014年5月27日(火)その1659◇悲愴

ドゥケンデの歌う例のシギリージャ(カニサレス伴奏)を聴くたびに、
なぜかこの曲を連想し、おおむね深夜聴くハメに陥る。
世界中で愛される超人気名曲だが凄絶に暗い。
名演奏ほど冥(くら)い。

交響曲第6番ロ短調 『悲愴』。
初演は1893年、サンクトペテルブルク。
作曲者チャイコフスキーは、その初演から9日後に急逝する。

若い頃から30種ほど買い漁ったが、近ごろ聴くのはジャケ写の三点。
フリッチャイ盤が最も暗く、おそらくマニアの世界ランキングでは
相変わらずダントツトップではなかろうか。
三十代後半、このフリッチャイの凄演をまぢ聴きし、
数時間ウツ状態を喰らったことを鮮明に憶えている(汗)。

ハシャギ過ぎの状態時に聴くと、
精神とお行儀などを程よく中和できる効果があるが、
過去の実証データによれば、そのあとドンチャン騒ぎをやらかすと
折角の鎮静効果も台無しとなる。

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2014年5月26日(月)その1658◇宣誓ショナル

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私の故郷、江戸川区小松川にある都電の終点・西荒川。
日比谷公園を往復する都電25番線の勇姿。
昭和42年ころの撮影だが、先ごろ旅立った同郷の俳優・蟹江敬三さんも、
この路線をひんぱんに利用されたことだろう。

写真奥の方に少し歩けば荒川の土手がある。
右脚の永い故障からやっとのことで復活し、
「逃げ足一番」という称号を取り戻すべく、
あの頃は毎朝荒川の土手上を走っていた。
遠く船堀の水門を往復してから、
土手にしゃがんで都電の発着を眺めるのが好きだった。

全校児童会議長として最後の運動会の宣誓をやることになり、
半月くらい毎朝この土手で練習した。
「暗記だぞ議長、大声でやれ!」という担任・野中先生のリクエストに応え猛特訓した。
運動会は雨で一日順延となったが、翌日の本番で
つっかえることなく無事宣誓をやり終えた。と思った。

神妙な面持ちで自分のポジションに駆け戻る私を迎える同級のマドンナ悦子。
聡明な彼女のやや引きつった笑顔によって私は気づいてしまった。
宣誓のラストはその日の日付と自分の名で締めるのだが、
完璧に暗記した宣誓文通り、
その前日の日付を力の限り私は叫んでいたのであった。( ̄◇ ̄;)

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2014年5月25日(日)その1657◇パンチとバランスと哀愁

今月号もかなりイケてるぞっ!

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○ファルキートの波乱万丈物語!
○今井翼 VS 石井智子/翔ぶために生まれた
○河野睦/美しい立ち姿の謎
○今枝友加/祈りを歌に込めて

○カルメン・リナーレスとマイテ・マルティン
○萩原淳子のFlamenco X Furamenco
○本間静香~華麗なる遠回り
○長峰晴香/大森有起のフラメンコたち
○志風恭子のスペイン・フラメンコ最前線
○フラメンコライヴ情報(5/20~12/13)

○パコ・デ・ルシア追悼(邦人アーティスト29名による)
○石塚隆充~日生劇場の夢のロルカ・ライヴ!
○屋良有子&早稲田大学フラメンコ集団VAMOS
○佐藤浩希の人間賛歌~FLAMENCO曽根崎心中の夢
○エンリケ坂井の私の修行時代
○男の肖像/ギタリスト吉川二郎~真剣に生きていきたい

○ロシオ・モリーナの霊言(東敬子)
○公演忘備録(後藤めぐみ/エバ・ジェルバブエナ/
 小松原舞踊団/手下倭里亜/石塚隆充)
○徳永健太郎のケンタロー・ワールド
○教室訪問/安田光江フラメンコ塾
○竜之介の漫画フラメンコ劇場(自己陶酔の巻)

○カニサレスを弾こう!(ギター楽譜)~真珠の首飾り
○石塚隆充の音源付カンテ講座~ティエント
○読んで上達!徳永兄弟のフラメンコなんでも相談室
○必読!フラメンコ用語/矢野吉峰の出るdeぱせお
○発表会レポート〝凛〟(曽我辺靖子教室ほか全四本)
○発表会大作戦/本番までの長いようで短い道のり

そしてトドメは久々登場『しゃちょ日記』、
絶賛未読中!の呼び声も高い (๑≧౪≦)!

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2014年5月24日(土)その1656◇新世界へ

中野駅から編集部に向かう途中。
セブンイレブンで弁当その他を買う。

店を出て、ドボ9新世界・最終楽章の続きを大音量で聴き始めたのだが、
歩き出すや後ろからガシッと左腕をつかまれる。
うっ、理由はわからんが、とうとう俺は捕まっちまうのか?と、
観念しながら片側のイヤホンを抜く。

「お客さん、クジ引いて!」

クジを引いてもらうの忘れちゃったの、ごめんなさい。
レジのおばちゃんだった。
ああ、ありがとう、すまんな、わざわざ。

実は私はクジ運がやたら強い。
熱海一泊旅行二名様や荒巻シャケなんかを当てたこともある。
特にセコいクジほど実力を発揮する傾向にあるのだ。
仕事運、女運、友だち運などがやたらめったら悪いのはその反動かもしれない。

よおし、一等賞でも当ててやるか!
「頑張って、お客さん!」
一等賞が何だか知らんが、エイッとばかりクジを引く。
・・・大はずれだった。
すまなそうな顔をするレジのおばちゃん。

気にすんなオバちゃん。
わざわざ追っかけて来てくれてありがとよ。

再び店を出て新世界の続きを聴きながら、これでセコいクジ運が去ったと思うことにした。
これで今日から仕事運、女運、友だち運などが多少は改善されるかもしれないと思った。

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2014年5月23日(金)その1655◇愛と狂気のヴァイオリニスト

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彼のシャコンヌには、胸打つ清冽さがあった。

その年齢だけに許される、いかなる巨匠にも再現不能な、
春の陽射しのようなピュアな感性がきらきら煌めくバッハだった。
デイヴィッド・ギャレットは当時13歳。
二十年前のそのデビューCDは、世界中の我らヴァイオリンファンを狂喜させた。

その彼が映画で鬼才パガニーニを演るという。
当然吹き替えなしだろうから、演奏シーンはもの凄いことになるだろう。
監督は『不滅の恋/ベートーヴェン』のバーナード・ローズ。
さすがにこりゃスクリーンで観ねえといけねえ。
忘れぬようメモっとく。

『パガニーニ/愛と狂気のヴァイオリニスト』
この夏7/11から、東急文化村ル・シネマ。

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2014年5月22日(木)その1654◇反面教師な破綻者

「ずいぶんと守備範囲が広いじゃないか」

つい今しがた、共通の恩師の追悼呑み会の件で連絡してきた
後輩の高部が意外なことを云う。
それはウェブや本誌における私の落書きに対する奴なりのヨイショなのだが、
実際の私がそこそこ詳しいのは、将棋・バッハ・落語の三点に過ぎない。
私の人生とフラメンコは常にそれら三点の掛け算・引き算を基点としている。
「守備範囲が広い」という高部の錯覚は、その複合的(サバイバルと真実と
笑いの三視点からの)応用力を駆使する私のズルさから生じている。

「複数のジャンルに踏み込め。比較相対させる俯瞰技術を習慣化しろ」

そう云ったのは私たちの共通の師匠・花村さんだ。
バランス感覚を欠き、単一な思い込みに爆走する私の未来を彼は心配したのだろう。
それを真に受けたわけではないが、いつしか私はそんな習慣で暮らす人となっていた。
興味あるジャンル同士の相違点や類似点を広角的に検証・整理する習慣は、
たしかに日々直面する問題のスピーディな解決に役立った。
六月の追悼呑み会の主人公となる花村さんは、ほとんど反面教師な破綻者だったが、
それが故に常軌を逸脱する私たち不良にとっては最強最良の教師だったかもしれない。

「重要なことは三秒で決めろ」

ライバル同士なけなしの銭をむしり合う三秒将棋も彼の考案によるものだ。
身銭を切ってそれがクズかダイヤか瞬時に見抜く力をつけろ!
幸運の女神に後ろ髪はない、迷わず前髪をつかむ決断よりないのだ、と。
良くも悪くも花村さんのこの口癖は、青春以降の私の行動パターンそのものとなった。

柔軟なセンスや正確な判断力を鍛える日々の蓄積のみが、正しい直観を磨く。
そうした精進の結果、これまでの私の人生戦歴は3勝997敗。
どーやら私の直観は大器晩成型らしーが、失敗に次ぐ失敗を重ねゆく私の人生の
分厚い蓄積だけは、棚卸が不可能なまでに現在絶賛在庫中!である。

全開の窓から吹き寄せる涼しい夜風とともに、勝負と花菖蒲を愛した
荷風・花村さんのペーソスたっぷりの苦笑冷笑が聞こえてくる。

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2014年5月21日(水)その1653◇叫び

 弱肉強食よりは焼肉定食を選びたい。
 汚職事件よりは御食事券を選びたい。

           (by 代々木上原の浅野忠信)


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               ムンクあっか!?


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2014年5月20日(火)その1652◇日本の抒情歌マイベスト

「わが恋の如く悲しさやさくら貝 片ひらのみの寂しくありて」

十八歳で夭逝した初恋の女性の面影を抱いて鎌倉に住み、
のちに作曲家・山田耕筰の弟子となる八洲秀章(やしま ひであき/1915~1985年)は、
美しい浜辺の光景に託してこの歌を詠んだ。
これを逗子に住む友人の土屋花情に示して作詞を依頼、八洲自らが作曲した。


 『さくら貝の歌』 作詞/土屋花情 作曲/八洲秀章

 美(うるわ)しき 桜貝ひとつ
 去り行ける 君に捧げん
 この貝は こぞ(去年)の浜辺に
 われ一人 拾いし貝よ

 ほのぼのと うす紅染むるは
 わが燃ゆる さみし血潮よ
 はろばろと かよう香りは
 君恋うる 胸のさざなみ

 ああなれど 我が想いは儚(はかな)く
 うつし世の 渚に果てぬ


倍賞千恵子さんの歌う『さくら貝の歌』は、世界中に聴いてほしい抒情歌。
わたし的ニッポンの歌ベストワン。

http://video.search.yahoo.co.jp/search?p=%E3%81%95%E3%81%8F%E3%82%89%E8%B2%9D%E3%81%AE%E6%AD%8C&tid=7d06342b5f91fed8151e8e11614da9ad&ei=UTF-8&rkf=2                 

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2014年5月19日(月)その1651◇うわさのグリーシャ

意外なほどに謙虚で誠実な好青年。
うわさの〝グリーシャ〟は期待通りのスーパーギタリストだった。
あのパコ・デ・ルシアを楽々と弾くロシア人。
共演の先輩スター沖仁も、同じ外国人としてそのことがうれしくて仕方ない様子だった。
(5/18草月ホール、カディスの赤い星コンサート)

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最初に弾いたアルベニス(グラナダ)と二部冒頭のサビカス(ファルーカ)によって、
これも意外なことに、彼がロシア・ピアニズム(ピアノ演奏技術)の
影響下にある演奏家であることが分かった。
つまり彼は、強靭な技術を前提に壮大なロマンティシズムを謳う。

いわゆるフラメンコなコンパス観は希薄であり、
その代わりクラシック演奏に不可欠な教養はすでに血肉化されている。
何を弾いてもその演奏は流麗にして音楽的であり、かつ妥協がない。
パコ・デ・ルシアも三曲弾いたが、
客席からは歓声とため息のもれる圧倒的な演奏だった。
私自身も現実的ではない不思議な夢を見ているよう高度な快感を味わった。
技巧的にはパーフェクトであり、いわゆる「西洋音楽的な価値観」からすると、
ご本家パコ・デ・ルシア以上に「音楽的な演奏」だった。

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その魅惑的なパコ演奏を心から歓迎しながら、
私には別の歓びがこみ上げて来て涙がこぼれそうになった。
それは当たり前のことなのだが、
つまりパコ・デ・ルシアというのは「西洋古典音楽」でなく、
「パコ・デ・ルシアのフラメンコギター」として
超然とそびえる領域であることを再確認できたからだ。

どれだけグリーシャがパコを上手く弾こうと、
それが西洋古典音楽の理念に根ざした演奏である限り、
パコ・デ・ルシアの本質とも云える「壮大峻厳なカオス」を表現することは出来ない。
フラメンコの世界でさえ誰もが及ばなかったパコの宇宙に食い込むことは出来ない。
アストル・ピアソラはタンゴの世界でパコ同様それを実現したが、
突き抜けた独創性というのは精妙な模倣の弱点を逆に露わにしてしまうことも思い知った。

そうであってもグリーシャは素晴らしかった。
彼が来日してくれる限り毎回私は聴きに行くだろう。
正直そう思えるギタリストはカニサレス以外私には居ない。
グリーシャは古典としてのサビカスやパコ・デ・ルシアを
最高級の演奏で楽しませてくれる一流プレーヤーだ。

そして私はこうも期待する。
そう遠くない未来、きっと彼は自己創造を志向する。
オリジナル曲で勝負する時がきっと来る。
ロシア人フラメンコギタリストとして、永きに渡る冒険の末、
パコとは異なる己だけの道をきっと発見することだろう。

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2014年5月18日(日)その1650◇習性

東京・葛飾、老いた愛棋家が経営する小じゃれた呑み屋の奥座敷。
持ち時間は双方一時間、使い果たせば互いに一手30秒の秒読み将棋の終盤、
どーだ!とばかり「4四角」と駒音高く打ちつける。
十数手前からの狙いの攻防手で、これで勝ちだと確信した。

相手は全国的に知られるベテラン・アマ強豪で格が違う。
浪速の王将・阪田三吉のようなボディブロウ中心のねちっこい棋風で
日本中の裏街道を回っていたが、
闘うのは初めてで実は私は興奮と緊張でテンパっている。
だが、格は違えど16歳の私には若い勢いがある。
闇の真剣師は負けない将棋を指すが、青い私は勝つ将棋を目指す。

勝てば相手から五万入り、馬である私と馬主の中川さんの折半となる。
負ければ馬主は五万むしられ、私は競争馬としての信用を失ない、
稼ぎと修業の場も失なう。
時給230円の時代だから私は血眼になっている。

むろん非合法だが、43年前の将棋人口は3000万人超であり、
この手の「シンケン」はそこそこ盛んだったし、
プロ棋士とは異なるウラの真剣師たちもそこそこ生息していた。
東京東部の高校生にあってほとんど私は無敵だったから、
若いツッパリを面白がる酔狂な馬主も何人かいた。

秒読みに汗みどろ(切れたら即負け)の土壇場でひねり出した自慢の勝負手に、
一瞬相手は顔を真っ赤にしたが、
残り2秒で指した老強豪の執念は私のそれを上回っていた。
王手のカウンターで捨てる鬼手「5五桂」で勝負は決し、
本来の格の違いそのままに私は惨敗した。

勝てば秋のプロテストへの弾みとなるし、事情あって私には金が必要だった。
二兎を追う者だけが二兎を得る、そう祈ってどこが悪い?!
高校帰りに小石川の印刷所でバイト、
そこから直行してのシンケンだったのでアンパンひとつしか食ってない。

終局は零時を回っていて終電もない。
裏口で靴を履く私に、中川さんは無言で千円札を三枚差し出した。
車で帰れという好意でもあったが、
もうお前は使えんという餞別の意味でもあった。
なんてお安い退職金。

厚顔無恥にそれを受け取り、駅前のシケた焼肉屋で、
コーラとカルビとクッパを詰襟姿の私は前金で頼んだ。
弱い自分に猛烈にハラを立てていた。
小松川の実家までの10キロ弱の暗い夜道をトボトボ歩いた。
仕事でドジを踏むと、家まで歩いて帰りたくなる習性はその時以来続いている。

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2014年5月17日(土)その1649◇真犯人

松田優作『探偵物語』のヒントとなった小説。

ハードボイルド小説のマニアだった福沢にそう教わり、
レイモンド・チャンドラーの原作を読んだのは二十代半ばの頃だったと思う。

『The Long Goodbye/ロング・グッドバイ』。

浅野忠信主演のNHKドラマ全五回の最終回を先ほど見終えた。
惜しくも前回を見逃したが、なかなか観応えのあるシリーズだった。
脚本・キャスト・演出・照明・音声・衣裳・美術などすべてに好ましい映像で、
観るたびに新しい発見のある創りになっているような気がする。

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大河も相棒もいまひとつで、どうしても観たい番組が
私的にはNHK将棋の真剣勝負だけになってしまった昨今だから、
こういう本格志向の制作姿勢が何ともありがたい。

それにしても最終回の終盤近く、主人公と記者のやりとりはグサリ痛烈だったな。
政治家批判にとどまらない大衆批判。
げっ、犯人はオレかい!といきなり虚を衝かれる、愚かなる大衆の一員。

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2014年5月16日(金)その1648◇いいとしのエリー

今宵は高校同期による四季の呑み会。

母校小松川高校のあるJR平井駅近くの馴染みのちゃんこ屋へと、
このあとノコノコ繰り出す。
まあ、だいたいは野郎五~六匹で呑むが、
その昔のチョー美女たちを招いたりもする。

高校三年のわずか一年間の青春の共有が、
そののち四十余年も続く交流の不思議。
まあ、周囲がほとんど国立や早慶に進む中、
俺たちだけは皆性懲りない劣等生だったわけで、
そのトホホなコンプレックスの絆がこんにちの分厚い友情の
起源となってることだけは間違いなかろう。

なお当時の全校的マドンナ〝愛しのエリー〟
(※現在はいい歳のエリー/写真は昨年撮影)より、
所用のため本日欠席との急報があり、
現在俺たちのモチベーションは九割がた下降している。

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2014年5月16日(金)その1646◇対話

「楽しい対話をヴィジョンする」
ご近所呑み友カマちゃんは、27歳にしてそういう術を獲得している。
相手の言葉をしっかり受け止め、絶妙なツボで返球する
キャッチボールの巧さに舌を巻くことは多い。
エロも政治も哲学も、同じレベルで噛み砕く資質も頼もしい。

きっと本人は無意識だろうが、瞬時にかつ的確に空気をつかみ、
ただ相づちを打つのでもなく勝手放題我田引水にしゃべるのでもなく、
その場にしか生まれ得ない一期一会な空気と発見とを、
相手方とのアンサンブルの中で自ら創り出す。

言葉の選択・リズム・音色・表情・ウイットなどが一貫性をもって、
いかにも彼らしいテンポでメロディが表現される。
存分に相手の歌を引き出しながら、そのコンパスの流れの中で己の心を解き放ち、
「異なる個性同士の対話から新たな価値を産み出す」。

まずは相手の心をしっかり聴く。その心に同時進行で有機的(!)に反応する。
そんなキャッチボールが切り拓く未知なる世界観・・・
おおっ、こりゃまるで上質のフラメンコじゃないか!
つまりは日々の暮らしそのものがフラメンコ修行であることにも思い当たる。

風味は異なるが、『FLAMENCO曽根崎心中』のあの佐藤浩希さんがやはりこのタイプだ。
こうした対話ヴィジョンを持ち得ず、フラメンコの深淵を目前にしながらも、
その優れたポテンシャルを開花させることなく彷徨い続ける人々の現実を、
この三十年いやというほど目撃して来た。
寄る年波でついつい一方通行の説教話に陥ることの多い私にしても、
カマや浩希らが体現する会話の原点を、
いまひとたび激しく思い知る必要がある。(59歳/自称出版社社長)

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しゃちょ日記バックナンバー/2014年05月①

2014年05月01日 | しゃちょ日記

                                
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2014年5月15日(木)その1644◇新旧対談

きわめて優れたバッハ弾きがいる。

アンドラーシュ・シフ。
1953年ハンガリー出身のピアニストで、なきグレン・グールド同様、
バッハのキーボード曲のほとんどを録音している。

シフが2009年に再録音した『パルティータ(組曲)』は、
彼の最高傑作ではないかと私は想う。
いまから26年前、シフ30歳のハツラツとした最初の録音(1983年/デッカ)も
驚異的な出来映えだったが、ECMからリリースされた再録音には執念にも似た凄みがある。

六つある組曲のうち、第二番(ハ短調)と第三番(イ短調)が
この四十年ばかりのお気に入りだが、
近ごろはシフの新旧両盤の聴き比べがわくわくと楽しい。
30歳旧盤の全体像を淡い水彩画とするなら、
56歳新盤のそれは濃厚な油絵である。

両盤ともに、技巧を技巧と感じさせない超絶技巧は、
彼の音楽性と完璧にシンクロしている。
その意味ではエバ・ジェルバブエナが近い。
一方、多数舞曲を含む各楽曲のテンポや音色や装飾音については、
旧盤・新盤はまるで別人が弾いてるかのようだ。デビュー間もない頃の
アントニオ・ガデスと晩年のガデス以上の違いがある。

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旧盤は楽譜に忠実だが、新盤は彼の信念に忠実だ。
表現と共感度の深さなら、圧倒的に新盤を採りたい。
だが近ごろの私は好んで、
旧盤における青春期の彼の心情を懐かしく聴くのである。

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2014年5月15日(木)その1643◇夢判断

青い空、白い雲、美しい海岸線・・・そしてイカそーめん。

港のベンチに腰掛け、なぜか私はイカそーめんを喰っている。
足元ではジェーが、浅いお椀の中の生シラスをむしゃむしゃ喰っている。
私も生シラスを喰いたいと思う。

すると沖の方からこちらめがけて小舟がやって来る。
GパンTシャツの連れ合いが笑いながらやって来る。
彼女の肩にはなぜか真っ赤な酢ダコが乗っている。

尻尾をプルプルさせながらジェーは、
小舟から降りる連れ合いに駆け寄る。
すかさず私は、彼の喰いかけの生シラスを指でつまんで口に放り込む。
シャリッと妖しい食感!・・・と、そこで目が覚める。

ついさっき見た夢をこうしてPCに写しながら、
フロイト的あるいはユング的にはどう夢分析できるかを考えるのだが、
おれ的には単に好物の生シラスが喰いてえだけなんじゃねーかって薄々気づいてる。 

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2014年5月14日(水)その1642◇ごみんな星人

ソソソミ♭ーファファファレー♪

ベートーヴェン交響曲第五番ハ短調(運命)。
買ったばかりのアイポッドにカルロス・クライバーによるあの凄演を入れ、
ここ数日パセオの往き還りに聴いてる。
フラメンコで云うなら、アントニオ・ガデス『血の婚礼』の精度に近い。
つまり鬼のような快演なのである。

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初演当時は現代ハードロックのように聞こえたであろうこの名曲を、
『運命』というタイトルで呼ぶのは日本だけだという。
そのネーミングによってレコードは売れまくり、ベートーヴェンおよびこの『運命』は、
日本におけるクラシック音楽の代名詞となった。
ネーミングした担当者は、当時こう絶賛されたことだろう。

「うんめえ!」

              あっ、ごみんなせえ(汗)
                     

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2014年5月13日(火)その1641◇肝心要

相手がルールを守らないのに、こちらがルールを守り続けることを
「猿を相手に紳士のゲームを続ける」と云う。
紳士は猿にならない。
猿が紳士になるの待つのだ。
「じゃあ、猿が噛みついてきたらどーする?」
そりゃあ君、ハンティングというゲームに変わるだけのことだよ。

イギリスの英雄、首相チャーチルの有名語録。
鼻持ちならないプライドがぷんぷん匂う。
だが、彼の語録の中でもうひとつ、いやいやながら認めざるを得ない現実がある。

勇気がなければ、他のすべての資質は意味をなさない

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2014年5月12日(月)その1640◇男女の友情

「男女の間にも友情は湧く。
湧かないと思っている人は友情をきれいなものだと思い過ぎている。
親密感とやきもちとエロと依存心をミキサーにかけて作るものだ。
ドロリとしていて当然だ」

『人のセックスを笑うな』で2004年に文藝賞を受賞した
山崎ナオコーラ(1978年~ )さんの名言。
若いころなら「?」だったかもしれないが、
水気が抜けてくると感覚的にわかったりする。
まあ、気性のいいおっさんみたいな女性群に包囲されてるせいもあるだろう。
そりゃさておき、儒教的な締めつけ感を嗤う、
ナオコーラさんの着想の広がり感は参考になるな。
         
「やらせろや」「十年早いわ」。
こんな会話を三十年も続けていると、
たしかに友情らしきものが芽生えることもある。

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2014年5月12日(月)その1639◇ラジオ生出演

エフエム世田谷の生放送「パコ・デ・ルシア追悼特集」で、
十分ちょっと喋くり終えたところ。
パコを二曲流してくれるというので『二筋の川』と『アルモライマ』をリクエストした。
後者は特にパセオ創刊を後押ししてくれたナンバーだから想い入れが深い。

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さて。本日月曜はパセオ7月号のスリリングな追い込み。
夜はプリメラのチコさん、エスアイイーの林さんと呑み会。
年に三回、順番で勘定を持つ仲良しおやぢトリオの例会なんだが、
一回おごると二回おごってもらえるので嬉しい錯覚を味わえる。

前回は林さんのホストでカニサレス夫妻を招き、
新大久保の焼肉屋でドンチャカ騒いだが、
今晩は私が勘定当番なので、高田馬場の赤提灯で
質素にしてつつましい呑み会をささやかに設営したいと思う。
                        
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2014年5月11日(日)その1638◇精神分析

ご近所呑み友アキラにもらったアイポッドがぶっ壊れた。

仕方ねえので新品購入、この機に曲目を大幅に入れ替えた。
寄る年波で根気が失せ、しばらく長い曲を聴いてなかったので、
気分一新シンフォニーや協奏曲や室内楽、
それとパコのアルバムと古典落語を多めに入れた。
時間は食うが、選曲するプロセスで昨今の精神状況を分析できるメリットは大きい。

 ☆あなたは前向きですが、ムラがあり過ぎます。
 ☆あなたは暗い人ですが、その暗さを持続できません。
 ☆あなたは真実を愛する人間のクズです。

・・・自己分析は気が滅入るので、しばらくお休みしようと思った。

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2014年5月11日(日)その1637◇爆笑王

この日の師匠は、最初から最後まで客席の空気を108%つかんでいた(税込)。
落ち着き払った彼のおとぼけ言動のひとつひとつが客席に波乱と爆笑の渦を巻き起こした。
おかしな例えだが、本場のフラメンコにヒケを取らない大沼由紀や森田志保のステージとの
共通項が顕著であり、場の空気をつかみ動かすというのはこういうことだと改めて知った。

きのう土曜は三宅坂の国立演芸場。
笑ろた。徹底的に笑ろたわ(大笑い)。

このおっちゃんが近くで呑んでるだけで周囲はほんのりした安堵に包まれるという人生の達人、
チャーリーカンパニーのリーダー、ご近所呑み友の〝師匠〟が第一部のトリで出演。
正月の新宿末広亭でこの師匠の芸の真髄を思い知ったが、
今回はいわゆる「ドッカーン!」が連続するネタで前回の十倍くらい笑った。

若き日の師匠は浅草の爆笑王デンスケの愛弟子であり、
あの爆笑手法を現代に蘇らせる抜群のセンスは、
カンテフラメンコのミゲル・ポヴェーダの懐かしい芸風を連想させる。
お通夜の一コマを描くその日の爆笑コントは、
若手お笑いアンジャッシュの得意とするねじれ手法であり、
「デンスケ~師匠」の伝統がアンジャッシュに継承されている事実もまた痛快だった。

ところで・・この日の興行は師匠の所属するボーイズバラエティ協会の創立五十周年公演。
落語界の大御所、四代目三遊亭金馬の笑える祝辞もイカした。
その口上コーナーで、チャーリー師匠がボーイズバラエティ協会の理事長に就任することを知る。
しばらく理事長職が空席だったのは、理事長になると
その一年後に他界するというケースがあまりに多かったためらしい。
おしまいの祝辞はこう締めくくられた。

「チャーリー師匠の一年後が楽しみでもあります」・・・(汗)

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2014年5月10日(土)その1636◇成長の証明

「人生が解ってきた」

四十代でそう思った。
その錯覚に気づくのに三年かかった。

五十代で今度こそ本当に解った。
そして、その錯覚に三日で気づいた。

つまり私はモーレツに成長を続けている。

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2014年5月9日(金)その1635◇国際的ダンサー

フラメンコ公演忘備録番外編 「超弩級のフラメンコ魂」(井口由美子)
今井翼出演/バーン・ザ・フロア Dance with You 日本公演
5月3日(土)/東京公演(渋谷)東急シアターオーブ


彼の守護心・美輪子にチケットを取ってもらって
バーンに出掛けたのが一年半前。
銭の獲れるダンサーを目の当たりにし、
その日本代表ダンサーがフラメンコにハマったことに震えた。

それから間もなくスペイン国立バレエ公演で彼とバッタリ出会い、
直接パセオフラメンコ連載を決めた。
超多忙な彼の対談連載は一年続き一段落するが、
ラスト取材の折に「次回」を約した。

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2014年5月9日(金)その1634◇おそるべき科学性

ずっと前に読んだ時には正直ウザい説教だと感じた。
いま読めば、その正確極まりないマザーテレサの科学性に
手遅れながらもひれ伏す。

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思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。

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2014年5月8日(木)その1633◇母の屈託

活気はあるがどこか殺伐とした雑踏。
得体の知れぬ恐怖とむず痒い好奇心。
ふんと笑って無関心を装いたい街の夕暮れ。

おそらくここは池袋あたり。
私の手を引くのは母だ。
どうやらバスに乗り遅れたらしい。

西陽に向けて、ふたりはトボトボ歩いてる。
ぼくたちは何処に行くんだろう。
めずらしく母は何も喋らない。

池袋に親戚はいない。
どうして駒込や尾久に行かないのだろう。
めずらしく私も喋らない。

ただそれだけの夢だが、記憶が妙に鮮烈だ。
見渡す情景はおそらく昭和三十年代半ば。
私はたぶん五歳くらい。

いつ見た夢かも思い出せない。
あるいは現実だったのかもしれない。
いつも明るい母の意外な屈託。

いまの私なら話相手になってやれた。
だが幼い私はメンコや駄菓子に夢中だった。
遅ればせながら、古びた写真に問ふてみる。

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2014年5月8日(木)その1632◇失楽園

彼もまた不死身の人だと思い込んでいたので、
そのたび旅立ちには驚いた。

ずっと気になる巨匠だったが、その著作の半分ほども読んでない。
思想哲学には共感するが、どこかしっくりこないところがある。
マスコミ訃報の中に中国では爆発的人気作家とあり、
なるほどそのザラッとした大陸的な感覚が違和感の原因だったことに思い当たる。

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儒教倫理に縛られ小ぢんまり硬直する日本の若者たちを彼は叱った。
もっと自由奔放で在れと。
それを「もっとフラメンコで在れ」と云い替えることも可能だろう。
小説の発行部数からしても、その大陸性パラノイアは多くの日本人の憧れだった。

島国根性の幾つかの特性を肯定したい私にとっても、
渡辺淳一さんの著作はこの先のスリリングな楽しみとなるに違いない。合掌。

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2014年5月7日(水)その1631◇十年一剣

「くだらねえ日記を、まあよくも毎日書くもんだよなあ」

連休も何のそので今日もパセオに出てくると、こんな私信が届いてる。
ほとんどの友人は性格が悪くてこういう率直な暴言を平気で吐くから、
私の耳にはタコができている。
まあ、当然おれの方にも云い分はあって、
実を隠そう「日記は毎日の素振り」なのである。

パセオにもいい描き手が多数育って来たので、
近ごろは本来の社長業や営業にシフトしつつあるが、
それでもドタキャン等の変事に備えいつでも即座に書ける状態はキープしたい。
つまり、毎日の素振りは欠かせないのだ。

ミスタージャイアンツ、かの長嶋茂雄師匠は観客席を沸かせるため、
熱心に「華麗なる空振り」の練習をしたという・・・ん、ありゃ、
「十年一剣」を主張したかったのに、ちょっと話の趣旨が違くなってるし (?_?)

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2014年5月6日(火)その1630◇男と女

愛する映画や小説、音楽や絵画、ヒーローや友人・・・。
惚れた理由をあれこれ考えることは、意外と楽しいことだと知った。
そこで整理した物語は、残り少ない未来を
いっそう充実させる手掛かりとなるかもしれない。
帰納法&演繹法による合わせ技一本狙い。

ならば、かつて惚れた女性についてもあれこれ考えてみようと思ったが、
あることに気づきそれを断念した。
すなわち、猛烈にアタックをかけ、カスることなく即座に撃沈を喰らう
そのあまりに定番的な早期結末の数々が、
物語の成立を不可能にしている事実に気づいたからである ( ̄▽ ̄)

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2014年5月6日(火)その1629◇みじかくも美しく燃え

『Elvira Madigan』。
邦題は『みじかくも美しく燃え』。

「妻子ある伯爵の陸軍中尉とサーカスの美しい綱渡り芸人は愛し合い、
やがて二人は駆け落ちする・・・」
1889年(明治22年)北欧での実話をもとに、
その78年後に制作された1967年スウェーデン映画。

萌える青春期にそのテレビ放映を観た。
甘く切ないありふれたストーリーだが、
日本で云えば明治時代の実話と知って印象深く記憶した。
ラストシーンは後にあの世界の北野もパクった。
『曽根崎心中』的来世観の救済がない代わりに、
作品自体は音楽に救われている。
主人公たちの心象風景をテーマ曲に重ね合わせることが出来れば、
哀しいばかりの物語ではない。

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メインテーマはモーツァルトのピアノ協奏曲(21番ハ長調のアンダンテ)という意表の選曲。
世界中のモーツァルティアンを味方につけ、
同時にこの曲はあのレクイエムやト短調交響曲に並ぶ人気ナンバーとなった。
グルダやルプーやバレンボイムなど歴史的名盤が多々あるが、
昭和42年公開のこの映画ではハンガリーのゲザ・アンダが手堅く弾いている。

何年か前、好ましいセンス・教養にあふれるウェブ上の愛人から
この名作DVDをプレゼントされた。
まだお会いしたこともない彼女はコードネームを「春海」という
おそらくは三十そこそこの貴婦人(たぶんスペインとフランスのハーフ)で、
さらにおそらくはジャケ写の女性とほぼ同一人物かと推定している。

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2014年5月5日(月)その1628◇ネバーギブアップ

ティム・ロビンスとモーガン・フリーマン。
1994年公開だから、もう二十年も経つ。
当初の興行収入は赤字だったというが、
今でも世界中の人気映画ランキング上位の常連だ。

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「あきらめない物語」そして「極限状態における友情」は
やはり軽々と国境を超えるようで、そのこと自体が頼もしいよねえ。
        
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2014年5月4日(日)その1627◇誰にも似てない

「感じるか、感じないか」

その意味ではフラメンコによく似ている。
だが、この音楽のノリはフラメンコとはほぼ対極にある。
どちらも、生理的もしくは精神的に合わない人なら、それ以上接する意味はない。

「その音楽は誰にも似てない」

フレドリック・ディーリアス。
ドイツ人である彼(1862~1934年)はイギリス北東部に生まれ、
北欧や北米を放浪した末、パリ郊外の美しい村で作曲に没頭する。
彼の音楽は穏やかでモラトリアムで、
そのとりとめのない美しさはほとんど天国的ですらある。

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アイポッドのシャッフルからディーリアスの田園音楽が鳴り出すと、
突然路上で立ち止まり途方に暮れることもままある。
その作品は音楽史上「イギリス近代」に分類される。
昨晩触れたフランス生まれの英国人サマセット・モームがそうであったように、
彼もまた世界中を楽しませるコスモポリタンだった。

島国イギリスはヨーロッパにあってヨーロッパ的ではない独自性がある。
島国日本にもアジアであってアジア的ではない独自性がある。
イギリスはそこにプライドを持っている。
日本はまだまだ自己嫌悪が強いが、そういう優れた内省能力を含め、
新たなヴィジョン・プライドを持つ時代が来ていると想う。

私が選んだのはフラメンコだが、
そのように流れるための大河の一滴となるイメージは、
歳とともに明快さを増している。
ミミズだってアメンボだって、オイラだって。
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2014年5月4日(日)その1626◇猛毒注意

「愛の反対語は憎悪ではなく〝無関心〟である」

私たちの世代はマザーテレサではなく、
サマセット・モームの人気短編『レッド』からそれを学んだ。
サルトルと並んでモームは当時の流行だったから、
ミーハーな私も大学一年の春から夏にかけてその翻訳を三十冊ほど読んだ。

ウィリアム・サマセット・モーム(1874~1965)は、
パリ生まれのイギリス人小説家・劇作家。
第一次大戦では軍医として、のちに秘密諜報部員として活躍して、
007ジェームズ・ボンドのモデルにもなった。
皮肉で狷介な性格も有名で、
若い私もそういうウィリーの猛毒をよくよく吸収してしまったらしい。

最近はあまり読まれないが、1970年代にモームは世界中で愛読された。
とにかく読み出したら面白くて止まらない作家で、
日本で云うなら鬼平の池波正太郎師に似ている。
面白さの他には何も残さない近年のスタイリッシュな小説とは異なり、
自分なりの価値観を形成する上でかなり有力なテキストと成り得る質があって、
そうした普遍性は現在でも変わらないと想う。

昨秋あたりから藤沢周平、乙川優三郎、関川夏央などを
繰り返し深読みするマイブームが続いているが、バランス的にも
久々に国際基準で愛される文学にシフトするタイミングなのかもしれない。
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2014年5月4日(日)その1625◇逆転の技術

日曜午前のNHKテレビ将棋を久々に満喫。

戦型は地味だが、若手強豪同士のスリリングな攻防は、
まさしく金の穫れる将棋だった。
フラメンコに例えるなら、静かにしかし熱くうねるタラントの深淵。

澤田真吾五段の腰のすわった冷静な反撃には、彼の生き様そのものが視えた。
劣勢の中、一手30秒に追い込まれながら繰り出すシャープな技の連続は、
彼の日常のトレーニングをそのまま反映しているかのようだ。

時間も足りない、持ち駒も足りない、
何もかもタラントよ。
・・・私の嘆きは愚痴に過ぎない。

締切と資金繰りに追われながらも、決してあきらめることなく最善手を選び続ける。
澤田五段の指し手はそういう毅然とした勇気と行動をガッツリ具現化していた。

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2014年5月4日(日)その1624◇やったね!

やったねトンチュー!

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ナイス・タイムリー!

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2014年5月3日(土)その1623◇しょうぶの世界

「花村さんが死んだよ」

てっきり呑みの誘いかと思いきや、いきなり秋田はそう告げた。
たしか八つばかり私たちより上だった。
花村さんと最後にお会いしてから、すでに四十年の歳月が経過する。
いい想い出ばかり、とは云えない。
あの時もケンカ別れだった。
いま想えば、非は私にあった。

「運は自分で創れ」。
チンチロリンからブリッジまで、彼は私たちのギャンブルの師匠だった。
確かに名伯楽だったと思うが、唯一私はおメガネ違いの駄馬だった。
秋田は早々に足を洗ったが、逃げ遅れた私は一時それでシノいだ時期もある。
そうした放蕩の決算こそがパセオフラメンコの創刊だった。

「葬儀はどうなる?」
「いや、逝ったのは去年だ、高部から聞いた」
「墓は?」
「実家のそばらしい、調べておく」
「・・・呑まなきゃな」
「ああ、世話になった」
「・・・お花茶屋か?」

それがいい、と秋田は応えた。
京成線「お花茶屋」にある花村さんの古びた屋敷の離れが
私たち高校生が寝泊りする合宿所であり、酒も煙草もそこで覚えた。

ふいに堀切の花しょうぶを想い出した。
野郎五人ばかりで、やはり京成沿線お隣りの堀切菖蒲園に出掛けたことがある。
〝勝負〟に掛けた花村さんのゲン担ぎだった。

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2014年5月2日(金)その1622◇厚顔無恥

落語の名人・柳家小三治師匠が受勲した。
CDは全て持ってるし、一時は独演会の追っかけをやってたくらいの熱烈ファンなんだが、
このマエストロの芸風には底知れぬ英知と希望が満載だ。
無理やりフラメンコで例えるならカンテの名人チャノ・ロバートか。

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ところで今回、合計4104人の受勲のうち民間人は1757人で、全体の43%だと知った。
つまり官の受勲が半数以上を占める。
税で食わせてもらう官が国に貢献した民間人に与えるのは当たりめえのスジであり、
その本末転倒の実状に思いきりドン引いた。
                                    
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2014年5月2日(金)その1621◇つまずき

「つまずきは落下を防ぐかもしれない」

自分のことを決してつまずかないタイプの人だと自負する私は、
この優れたイギリスの警句を知ったとき、
ストンストン毎日のように激しく落下する自分の人生の構造を、
ようやく理解するに至った。( ̄▽ ̄)

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2014年5月1日(木)その1620◇イワシと俺たち

獲れたてのイワシを生きたまま地方から中央の料理屋に運ぼうとすると、
そのほとんどが途中で死んでしまうらしい。
水温や酸素なんかの環境を万全に整えつつ運んでもアウトだという。

なんでか?
輸送中の「揺れる環境」に耐えられない、というのがその理由。
では、生きたイワシを遠隔地まで運ぶ方法はないのか?
あるんだそうだ、これがっ!

たくさんのイワシが泳ぐ水槽の中に、
例えばハマチみたいな彼らの天敵を一匹入れる。
するとイワシは、いつ喰われてしまうのかという危機感に戦々恐々としながらも、
通常ではあり得ないポテンシャルを発揮し、
つまりモーレツな生存本能にめざめ、目的地まで元気に生きのびるというのだ!

危機感に煽られることで逆に助かっちゃうという、
実は私たちだって大いに心当たりのある話。
偉いぞイワシ、頑張ったな!
そのあと私に喰われちまうのでなければ、心からの拍手喝采を送りたいところだ。

だけどさ、実はおれたち人間だってあんたらイワシと同じような境遇なんだよな。
この先何かの拍子で立場が入れ替わるなんてこともあるだろうから、
そん時にゃあ覚悟を決めて食われてやるからな。
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