おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

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「福家警部補の挨拶」 大倉崇裕

2008年12月30日 | あ行の作家
「福家警部補の挨拶」 大倉崇裕著 創元推理文庫 (08/12/30読了)

 福家警部補、ブラボ~! 超カワイイ!! 久々の新規開拓で大当たりでした。

いつものように有隣堂をプラプラしていて、ふと、目に付いたのは「NHKドラマ化 出演 永作博美」の赤い帯。永作ちゃんファンとしては、「いいモノ見っけ!ドラマ放映前にストーリーを読めちゃう!」というつまみ食い根性でしたが、期待以上に楽しめました。主役の福家警部補がめちゃめちゃいいのです。ちっちゃくて、可愛いくって、カバンに入れたはずの警察バッチが見つからずいつもゴソゴソ(やや、だらしない?)。あまりの可愛らしさに誰からも一課の刑事とは認識されず、「交通課の婦警さん?」「就職活動中の学生さん?」などと誤解される。でも、見た目の可愛らしさに騙されてはいけない。福家警部補はとってもキレモノ、そして、恐いもの知らず。(恐らくは)密かな福家ファンである鑑識の二岡クンとの名コンビで、小気味よく事件を解決していく。トリックは若干、甘いものもありますが、でも、エンタメ小説としては十分すぎるぐらいに楽しいです。
 
それにしても、この小説って、永作博美のために書いたんじゃないの? と思うぐらい、永作博美はまり役です。セリフの一つ一つを読むたびに、永作ちゃんの笑顔が思い浮かんでしまいました。でも、二岡=小泉孝太郎はいただけませんな。ちなみに、さっき、NHKで予告していましたが、ドラマの放映は1月2日。収録されている4つの短編のうちの2番目が取り上げられるようです。

さて、放送後の反響として想定されるものは…恐らく「女版・古畑任三郎!」です。ストーリーの組み立てが、犯人が主役となる犯行場面から始まる。つまり、読者は誰が犯人か知っており、犯人探しではなく、福家のロジックの組み立てを楽しむのです。いつも、徹夜明けで登場する福家警部補は、小さなアリバイのほつれ目を、グイグイと引き裂いていく。助っ人としてタイムリーに登場するのは鑑識・二岡。それって…まるで、古畑と今泉クンじゃ??? 斜め読みした解説によれば、作者は大の刑事コロンボファンで(そもそも、古畑任三郎も刑事コロンボ型)、意図して、こういう組み立てのストーリーを書かれているようです。

2日に放映されるドラマがいかにも古畑チックで既視観のあるものになってしまうのか、永作ちゃんのキャラクターで新鮮に見えるのかが、シリーズ化の分かれ道かもしれません。

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「三四郎はそれから門を出た」 三浦しをん

2008年12月29日 | ま行の作家
「三四郎はそれから門を出た」 三浦しをん著 ポプラ社 (08/12/29読了)
 
 静岡から久々に横浜にやってきた叔母が10,000円分も図書カードをくれた!人様からお小遣いを頂戴するような時代は遥か昔に終わっているのですが、有り難く「子ども扱い」に甘んじる。で、ちょっと太っ腹な気分になって、意味もなくエッセイに大枚(といっても、たかだか1600円)をはたいてみました。

 前書きに「本に関するエッセイをまとめた」とありましたが、本に関しないエッセイも半分ぐらい混ざっていたような…。ちなみに、タイトルは夏目漱石の名作をつないだものだそうですが、夏目漱石の書籍に関するエッセイは一遍もありませんでした(もしかしたら、私の記憶に残っていないだけ?)。

 以前から三浦しをんさんの新聞書評を読むたびに、三浦さんの読書生活を垣間見てみたいと思っていました。三浦さんが、他の人が決して注目しないようなちょっとヘンな感じの本を取り上げ、しかも、やや不思議な視点で、その魅力を力説しているところに心惹かれるのです。その期待を裏切らない、楽しい書評集というか…おススメ本エッセイでした。特に、楽しかったのは、かつて朝日新聞で連載していたという「中高生のためのブックサーフィン」を収録した項目。「中高生のため」と言っても、三浦さんのことゆえ、世界の名作っぽいものや、中学生日記的な教訓モノなどを薦めることはなく、取り上げられた本とそのおススメポイントからは「世の中は不条理なのだ」「普通じゃなくたっていいじゃん、別に」というメッセージがにじみ出ている。高校時代に、こういう国語の先生や図書館司書のお姉さんがいたら、さぞかし楽しかっただろうに-と思います。もちろん、中高生ではなくて、大人が読んでも十分に楽しげな本が色々。早速、何冊か購入予定リストに入れました。

 本に関しないエッセイでは「アンアン」連載モノが笑えました。日銀小樽支店の「金融資料館」が楽しかったとか、お父様が愛してやまない阪神タイガースのしょうもないグッズの紹介とか…どう考えても「アンアン」読者の98%ぐらいは関心を持たなさそうなテーマで綴られていることで、「アンアン」の懐の深さを感じました。

 三浦さんの書く小説は、あまり好きじゃないタイプのもの(「むかしのはなし」など)もあるのですが、エッセイはどれも楽しく、脱力できます。そして、なぜか、脱力したあとに元気が出てくるところがとっても良いのです。
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「ナイチンゲールの沈黙」 海堂尊

2008年12月27日 | か行の作家
「ナイチンゲールの沈黙」(上)(下) 海堂尊著 宝島文庫 (08/12/27読了)

 突っ込みどころ満載すぎて…困ってしまうような作品でした。まだ上巻までは「小説っていうよりも、劇画なんだよなぁ。二流半ぐらいの漫画雑誌の人気連載って感じ?」と思いつつも、ギリギリ許容範囲。でも、下巻に突入すると「これって設定がメチャメチャ過ぎるよ!」と、イライラとユウウツが交錯する展開に。もしかして、「チームバチスタ」がヒットしてしまったのが、この作者にとっての不幸の始まり? いくらエンタメ小説とは言え、こんなの書いていたら、医師としての品格を問われるのではないか-と、つい、お節介な心配をしてしまいました。

 不定愁訴外来の田口先生に異色の厚生官僚の白鳥-名コンビは、前作のチームバチスタを踏襲しており、二人のかみ合わない会話っぷりがバチスタファンには楽しいかもしれません。二人のキャラは、非現実的なところもあるけれど、架空の人物として、まあ、楽しめる。しかし、猫田師長、小児科の内田医師、看護婦の小夜、患者の瑞人くん-いくら“お話”であるにしても、あまりにあんまりな設定です。いちいち上げ足を取り始めると3ページぐらい使ってしまいそう…。でも、何よりも、違和感を覚えたのは、犯人探しを理由に医療関係者が捜査への協力と称して、患者をいたぶる場面がストーリーの大部分を占めているということです。もちろん、ミステリーなのだから、犯人探しがストーリーの幹となるのは当然なのでしょうが、でも、ちょっと常軌を逸している。しかも容疑者と目されている患者のみならず、関係ない患者の子どもたちまでに精神的・肉体的な苦痛を与えているのです。さらに、救いがないのは、「殺された奴は殺されて当然なんだから」という空気が底流にあって、関係者の誰一人にも後悔も反省もない。そしてなぜか、医療に携わるものが、患者に精神的に救ってもらうことが「救いある結末」であるかのように描かれている。全く、救いありません。

 もちろん、これはエンタメ小説。現実で起こっていることとは、全く違うのでしょう。非現実の世界でハメを外して、現実世界でちゃんと生きていけばいいんですよね。とは思いつつも、海堂先生、お医者さんとして大丈夫なの??? と、やっぱり、心配になります。 医師が書く物語としては久坂部羊作品の方がハタンがなく、問題提起のあり方としても数段上です。
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「警官の紋章」 佐々木譲

2008年12月22日 | さ行の作家
「警官の紋章」 佐々木譲著 角川春樹事務所 (08/12/21読了)

 面白かった~! 冷静に読むと、突っ込みどころ多数ありって気もしますが、「笑う警官」「警察庁から来た男」に続く、大大大好きな「道警シリーズ」なので、ちょっと採点甘めになってしまいます。基本的に、シリーズの前の2冊を読んでいることが前提となっているストーリーです。佐伯に小島百合、津久井、新宮など「懐かしいメンバー」が勢ぞろい。みんなが同じ部署にいて力合わせて頑張って事件解決というありがちな警察モノではなく、それぞれが別々の部署で孤軍奮闘、ややスタンドプレー。でも、最後は、一点に集結していくという感じです。

 佐々木譲スゴイ!! と思ったのは、シリーズ1冊目の「笑う警官」のエピソードが伏線になっているということ。彼は、その時点から、この3冊目を想定していたのだろうか?その一方で、今年あった洞爺湖サミットが今回のストーリーのメインの舞台となっているのです。どう考えても小池百合子先生がモデルとしか思えない、いい年してミニスカートの女性サミット担当相が登場したり…結構、楽しめます。そして、あくまでも、小説の設定上ですが、北海道警、相変わらず、病んでいます。こんなに、散々に書いていて、クレーム来ないのかな??と心配になってしまうほど。それは、そうと、シリーズはこのへんでオシマイにした方が良いような気がしました。やっぱり、「笑う警官」のあまりのおもしろさで受けた衝撃は、徐々に薄れてきています。

 本の中に「笑う警官」映画化のお知らせが入っていました。佐伯が大森南朋で、小島百合が松雪泰子-。松雪泰子は、私のイメージの小島さんより美人で強い人すぎる印象ですが…佐伯はイメージピッタリ。芯が太くて、ちゃらちゃらしていなくて、いわゆる美男ではないけれど、いい顔してますよねぇ。カッコイイっす。ちょっと、見に行きたくなってしまう誘惑にかられます。

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「責任に時効なし」 嶋田賢三郎

2008年12月20日 | さ行の作家
「責任に時効なし」 嶋田賢三郎著 アートデイズ (08/12/19読了)

 小説の中では、「トウボウ(東京紡績)」「住倉五井銀行」とかなっていますが…そのものズバリ、カネボウの粉飾事件です。著者はカネボウの常務を務めた方で、思いっきりインサイダー。1カ月くらい前の日経の水曜夕刊の本コーナーで紹介されていて、確か、最高の5つ★だったような…。その他、サラリーマン系週刊誌等で絶賛されている模様。

 「会社ぐるみの粉飾」とは、いったいなぜ起こるのか、善意の人がいてもそれを食い止めることができないのか-著者はそれを問いたかったのだと思います。主人公の番匠(恐らく、著者本人がモデル)は、トウボウの粉飾事件で逮捕された経営陣の一人。でも、実際には、番匠は粉飾にはずっと反対し続けていたし、そもそも、粉飾は歴代の経営者が先送りにし続けた結果、雪だるま式に膨れ上がったもので、原因を作ったり、問題を大きくした過去の経営者の責任が問われず、たまたま、外部に発覚した時にボードにいた役員ばかりが責任を問われなければならないのはなぜなのか-著者にはそうした義憤があったのでしょう。

 粉飾事件の背景や、その後の、カネボウ崩壊の過程がかなり詳細に掛かれていて、大変、興味深い資料でした。「暴露本」としては、かなり面白いと思います。でも、純粋に、「小説」として読むと、あまり、楽しめないかなぁ。というのも、あまりに最近のデキゴトなので、生々しすぎるのです。読み手を楽しませるというよりも…過去の経営者たちに向かって「お前ら、ただで済むと思うなよ」とすごむようなマイナスのオーラを感じるのです。

 話の筋とは関係ありませんが、番匠はイケてるオヤジとして描かれていて、ハンサムでファッションセンスもナイスで、しかも、飛行機で隣り合わせた年若い美人の芸術家と恋に落ちるのです。で、恐らくモデルであるご本人さまもお写真を拝見すると、本当に、イケてるオヤジって感じなのですが… そのナルシストな感じが、ちょっと恐いと思ってしまいました。
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「ブスのくせに!最終決定版」 姫野カオルコ

2008年12月17日 | は行の作家
「ブスのくせに!最終決定版」 姫野カオルコ著 集英社文庫 (08/12/16読了)

 著者は、ややアブノーマルな感性の持ち主。本人もそれを自覚されていて、「だから、私が書くものは売れない」と認識されているようで…。平凡な感性しか持ち合わせない私には、「ちょっとついていけない」「このノリ、理解不能」という気分で、前段を読んでいたのですが、途中からは、ハマってしまいました。
  
 著者の語る、美人・美男論、なかなか面白いです。私が常々主張している、「“ハゲ=イケてない”という世の中の思い込みは間違えである」ということに、著者も熱弁をふるっていて、嬉しくなってしまいました。個別銘柄で言えば、松田聖子分析、藤原紀香分析などは、実に、適格。ついでにいうと、芸能人の整形推理も笑えます。「美人」より「カワイイ」が世に受け入れられる理由も、「そうそう!」って感じでした。電車でのちょっとした移動の時などに、ピッタリかも。
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「人のセックスを笑うな」 山崎ナオコーラ

2008年12月15日 | や行の作家
「人のセックスを笑うな」 山崎ナオコーラ著 河出文庫 (08/12/15読了)

 商品のヒットの仕方の一つに「ネーミング勝ち」というのがあると思う。例えば…ペットボトルのお茶なんて、ビックリするほど味が違うとは思わないけれど、私は、常に、「伊右衛門」を買ってしまう。小林製薬の「のどぬ~る」とか「熱さまシート」とかも、安直とか思いつつも、記憶に残る。で、この作品も「ネーミング勝ち」商品の一例ではないかという印象です。誰も笑っていないのに「笑うな」というキツイ言葉を使っているのも、ある意味、巧妙。ストーリーの中身は、現代の御伽噺系。でも、絶対無いと思うけど-というような話。別に、読んでいて不快というわけでもないし、1時間ぐらいでササッと読めるし、ブックオフで250円で買ったから「損した」とも思うことも無かったけれど…。でも、でも、こんなのが芥川賞の候補だったのかぁ。ますます、芥川賞の位置づけが分からなくなります。

 39歳の美術学校講師。だいぶ年上の夫あり。だらしない。とりたてて美人でもない。しわあり。さほどお洒落でもない。20歳も年の離れた生徒と恋に落ちる(もしかして、落ちてないのかも)…。ダンナは寛容だ(もしかしたら、鈍感なだけなのかも)。ま、そりゃ、楽しいでしょうな。絶対無いと思うけれど。あえていえば、オバサンとの恋愛(のつもりなだけかも)に心惑う19歳の側から物語りを語っているところが面白いのかもしれません。映画版では永作博美が美術学校講師役でした。まあ、あんなカワイイ人だったら、いたいけな少年も恋したい気持ちになるかもしれません。でも、現実は、違うのですよ。

「解説」は大絶賛モードで、文藝賞の審査の時にも複数の審査員が大絶賛だっらしいので、私の感性が著しく鈍いだけかもしれませんが…250円の対価に相応しいぐらいには楽しみました。一緒に収録されている「虫歯と優しさ」も、私的には、イマイチ、ピンと来ないなぁ。ブレーク中の椿あやなちゃんみたいな人が主人公で、虫歯になって、恋が終わる話です。ま、この作品がいけないんじゃなくて、恋愛小説全般が琴線に響かないだけなのかもしれません。
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「まず石を投げよ」 久坂部羊

2008年12月14日 | か行の作家
「まず石を投げよ」 久坂部羊著 朝日新聞出版 (08/12/14読了)

 作者にとって、「まず、石を投げてみよう」という作品なのだろうか? 意欲作だと思うし、作品に引きずり込まれて、結構、ハイスピードで読めてしまったので、決して、つまらなかったわけではないのですが、なんとなく、今一つ、腑に落ちないというか…ちょっと“ひっかかり”の残る作品でした。

 「医療ミスはなぜ起こるのか」「それを防ぐためには何をすべきなのか」。主人公である若手(しかも、超美人らしい。オヤジ作家の作品としては、まあ、ありがちな設定である)の医療ライターの問題意識を共有しつつ、読者も、色々と考えさせられます。医師でもある作者が、物語を通じて、問題提起したいことは、すごくよくわかります。さらに、医療ミスを取り上げるマスコミのあり方についても、物申したいこともよくわかった。

問題提起の幹の部分はヨシとして、枝葉の部分で、ちょっと設定に違和感がありました。まず、ライターである綾乃が取材相手の情報をいとも簡単に第三者にしゃべりまくり、挙句の果てには取材相手のメールアドレスを人に教えてしまうところ。その後、美人が幸いしてテレビの企画にも関わるようになるのだけれど、番組の作りに疑問を感じながらも、なんとなく流されていくような感じで、「この人、これで、ちゃんとライターとしてやっていけるのだろうか?」と余計な心配をしてしまいました。また、ネタ元を教えてくれない新聞記者を「あの記者は融通が利かない」みたいに批判する場面があったけれど…その批判もいかがなものかと…。
ミステリーとして、イマイチと思ったのは、取材で知り合った女に襲われて殺されかけた時に、安っぽいテレビドラマの9時43分的に、思わぬ助け人に救われるっていうのが、いかにも安っぽいなぁというところなどなど。で、残り20ページぐらいになって「あまりにも救いのない終わり方だなぁ」と思っていたら、最後で、無理やり、救いを作っていました。個人的には、救いのあるストーリーの方が圧倒的に好きなのですが、だからといって、残り数行で無理やり帳尻あわせというのは、いかがなものかと…。

と、批判ばかりダラダラ書いたようですが、でも、やっぱり、意欲作だと思います。傑作になる芽があった作品かも。編集者がもうちょっと根性入れて、時間かけて作品作っていたら、何倍も何倍も考えさせられる本になったような気がします。私的には、久坂部作品としては、「破裂」の方が上です。

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「オリンピックの身代金」 奥田英朗

2008年12月09日 | あ行の作家
「オリンピックの身代金」 奥田英朗著 角川書店 (08/12/09読了)

 いやぁ、面白かった。今までの作品では、圧倒的に短編の方が面白かったので、私の中では「奥田英朗=天才的な短編作家」と定義していましたが、それは大きな間違いでした。長編も天才的です。しかも、短編とは全く質の違う面白さを提供してくれるという点で、改めて、奥田英朗という作家の奥深さを実感したのでした。

 超脱力系アテネオリンピック観戦記「泳いで帰れ」(光文社文庫)には思い切り笑わせてもらったので、勝手に「スポーツファン・オリンピック好きの奥田英朗による楽しく明るいスポーツミステリー」を想像していましたが、実際には、結構、重めの小説です。東京オリンピック開幕前夜の東京を舞台に、国の威信をかける警察と、五輪効果で民衆にくすぶる不満を誤魔化そうとする国家に一人反旗を翻すことを思い立った東大生・島崎国男の戦いです。巧妙だなと感心してしまったのは、かなり冒頭の方から東大生が犯人であることはわかっているのですが、それでもなお、ミステリーとしてのスリルを味わえること。そして、もう一点は、章ごとに警察側と東大生・国男と語り手が入れ替わるのに合わせて、読み手が警察側にもテロリスト側にも肩入れしながら読めるように書かれているということです。

 そしてミステリーの本筋には関わらないことですが、改めて、昭和という時代について考えさせられる小説でした。日本が、こんなに豊な国になったのって、本当に、まだ、最近なんだなぁと。今年の北京五輪の開催前の中国の様子について「まるで、五輪開催直前の日本のような光景」という趣旨の報道がありましたが、その意味が、いま一つ、実感として理解できなかったのです。でも、この小説を読むと、五輪前の日本は、まだ「戦後」を引きずった貧しい国で、インフラも整わず、労働者の権利という概念すら行き渡っておらず、集団就職、出稼ぎが当たり前だったのですね。私は、その時代を知っている親に育てられた世代で、豊かであることに感謝しなけれぱならないということを家庭でも、学校でも教えられてきました。しかし、本当の貧しさを実体験していない私たちの世代が、今や親世代となり、豊であることが当たり前になってしまった日本がどこに行こうとしているのか-問いかけられているような重さがありました。最近、ワーキングプアという言葉や、東京と地方の格差問題が取りざたされていますが、実は、それって、戦後ずっーと日本が抱え続けていて、解決できずに(というよりも、少しずつ大きくしながら)持ち越してきた問題なのかもしれません。

 ハードカバーで買う価値、十二分にあり。
 でも、そろそろ、奥田さんの脱力エッセイやちょっと痛いところを突かれるような短編も読みたいものです。 
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勘十郎さまカッコよすぎです@鑑賞教室

2008年12月08日 | 文楽のこと。
勘十郎さまカッコよすぎです@文楽鑑賞教室  (08/12/07)

 文楽鑑賞教室&12月公演のダブルヘッダー。ああ、楽しかった。充実の一日です。
 
 文楽鑑賞教室はダブルキャストですが…もちろん、勘十郎さま出演の方のチケットをゲット。二人三番叟は、若干、大夫の声も三味線もバラバラと揃いがイマイチだったような気もしますが、なんとか無事終了。その後の「解説・文楽の魅力」は大夫、三味線、人形の若手さんが見所・聴き所を解説。特に、三味線さんが同じ旋律で町娘と姫の登場を弾き分けて下さったのは「おおっーこんなに違うのか」と納得。さすが、皆さん、エンターテイナー。初めて文楽を観るという人も多い会場でしたが、観客の心を上手くつかんで、笑いをとりながらの和やか解説でした。
 そして、メインの「菅原伝授手習鑑」。「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」と並ぶ時代物の三大名作だそうです。期待通り、勘十郎さまの松王丸、カッコよすぎです。菅原道真を大宰府左遷においやった藤原時平に仕えた松王。道真方とは対立関係にあり、道真の息子である菅秀才の首を確認する役を担っているのに…かつて父親が仕えていた道真に報いたいとの一心で、殺されることが分かっている菅秀才の身代わりとなることを承知で自分の息子を寺子屋に送り込むという悲愴な役どころ。威風堂々とした外見とは裏腹に悲しみをたたえた表情、憂いある仕種が泣かせます。身代わりとなって死んだ息子を「なんと健気な息子。まだ、8つ、9つという幼さで、親に代わって道真公に恩返しをしてくれた」と称えつつも、悲しみが抑えきれない泣き笑いの場面は、圧巻でした。これを語っているのが住大夫師匠だったら…確実に、泣いちゃいます。
 勘十郎さまのカッコよすぎは織り込み済みでしたが、紋豊さんの女房千代も大熱演で、すごーくよかったです。紋豊さんの老女形って、人生の重さというか、不条理の運命に逆らえない悲しみが出ていていいなぁと思うのですが、今回は、特に、勘十郎松王との相乗効果で素晴らしかった。

 12月本公演は「源平布引滝」。勘十郎さまが出演されたのは「義賢館の段」のみと、ほんのちょびっとだったのが悲しい。もちろん、この段では主役なのですが…なんとなく、鑑賞教室の松王に比べると地味というか、覇気がないというか。先日の池上実相寺のワークショップで勘十郎さまは「松王は本当に大好きな役の一つ」とおっしゃっていましたが、役の覇気には「大好き」度合いもちょっとは反映されてしまうのでしょうか。
 タイトルの通り「源氏」と「平家」のバトルがベース。源氏再興の象徴である白旗の争奪戦の形で物語は展開。観客側は源氏方に肩入れしたくなるような作りになっているのですが…「こいつは敵方=平家」と思って登場人物を見ていると「平家に仕えるが、実は、心根は源氏」みたいな人が何人も出てきて、後半は「えっ~、この二人って、そういう関係だったの??」的などんでん返しにつぐ、どんでん返しです。
 中盤は義賢から白旗を託された小まんの活躍が見所。女だてらに、腕に覚えのある小まんが侍たちを次々と投げ飛ばすシーンがカワイイ。女三四郎という感じの背負い投げがバシッと決まっています。思わず、小さく拍手してしまいました。和生さん大熱演!
 後半は、歌舞伎の「実盛物語」に当たるもので、「心は源氏」の斉藤実盛がフィーチャーされていて、馬に跨るシーンなんかとってもカッコイイのですが、私は瀬尾十郎の演技の方が心に残りました。孫に手柄を取らせるために、あえて、刺されて死ぬという、現代の感覚では理解不能な設定なのに、舞台を見ていると、自然にスッーと心に入ってきました。
 
 12月は人間国宝が一人も出ていない。「つまんないなぁ」と思っていましたが、でも、実際に舞台を見てみると、意外にも、物足りない感はなく、十分に楽しめました。今回は、若い太夫さんが一人で語る場面が結構あって、この人ってこういう声だったのかと発見がいっぱい。若手の太夫さんでは、前々から密かに注目していた芳穂大夫さんの声が一番好きと確信しました。ただ声量があるだけの人とか、声を出そうと絶叫調になってしまう人も少なくないなか、芳穂さんは、肩に力が入らずに伸び伸びとしたお声で、こらちも、緊張せずに気持ちよく聞けます。早くお爺ちゃんになって、さらにさらにいいお声で語って下さいませ。
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