おりおん日記

電車に揺られて、会社への往き帰りの読書日記 & ミーハー文楽鑑賞記

「ころころろ」 畠中恵

2009年08月26日 | は行の作家
「ころころろ」 畠中恵著 新潮社 (09/08/26読了)

 ご存じ「しゃばけ」シリーズ。江戸の薬種問屋兼廻船問屋の長崎屋の若旦那・一太郎と、一太郎を支える妖(あやかし)たちの物語。今回は、一太郎が失明してしまうところから物語はスタート。

 「しゃばけ」を初めて読んだ時は、めちゃめちゃ新鮮でした。「まさに、日本オリジナルのファンタジーストーリー!」と目からウロコの落ちる思いでした。

が、シリーズ本を出し過ぎて、正直、ちょっと飽きてきたなぁ…という感じ。無茶を重て、ツマラナくなりすぎないうちに撤退すべきような気がします。

「鶴屋南北の恋」 領家高子

2009年08月22日 | ら行の作家
「鶴屋南北の恋」 領家高子著 光文社  (09/08/22読了)

 1文字たりとも無駄のない清らかな文章。にもかかわらず、これから始まる無限の物語を予感させる豊かさも併せもつ書き出し。最初の10行で、私は、この物語に惚れました。

 四代目・鶴屋南北。奇想天外な設定、毒のある笑いを含んだ生世話物、怪談物を得意とし、大道具と組んで独創的な舞台装置の考案でも功績を残した狂言作者。現代風に言えば、ゴールデンタイムのお笑い番組を担当する人気放送作家といったところだろうか。

 この南北、もともとは江戸の紺屋の息子として生まれた。芝居好きが高じ、道化役の名門の家の娘を嫁にもらい、後に岳父の南北の名を襲名した-と伝えられている。

 当時としては長命の75歳まで生き、晩年まで作品を書き続ける力の源となったのが、タイトルにある「鶴屋南北の恋」だ。南北が晩年に愛した辰巳芸者・鶴次との穏やかで、温かい日々を美しい文章で描き出している-かのように見せかけて、この物語にはとんでもない仕掛けが施されている。

 四代目鶴屋南北が「ほとんど文字が書けなかった」「立作者になっても、弟子に仕事を手伝わせることがなかった」などの逸話を基に、「四代目鶴屋南北という人物はフィクションであり、実在したのはオフィス・鶴屋南北である」という大胆な推論がベースにはあるのではないだろうか。
 
 作者の推論がどこまで史実に基づき、どこまでが妄想なのかはよくわからないが、そんなことは、どうでもいいぐらいに美しい文章に酔い、物語の世界に完全に引き込まれてしまった。

 実は、「領家高子」という作家を、これまで知りませんでした。寡作で、かつ、タイトルホルダーでもないため、ネットでもほとんど情報がなく、いったいどんな方なのかわかりませんが、「美しい日本語を読ませていただき有難うございました」と感謝したい気分。

初めて松井今朝子を読んだ時の「こんなすごい人がいたんだ。今まで、知らずに、ごめんなさい!」という感動に似ています。そういえば、「写楽とは何者か」をテーマにした松井今朝子の「東洲しゃらくさし」にも相通じるところかがあるかも。

というわけで、文句なく、今年のナンバーワンです。

「赤朽葉家の伝説」 桜庭一樹

2009年08月20日 | さ行の作家
「赤朽葉家の伝説」 桜庭一樹著  東京創元社 (09/08/20読了)

 山陰の名家・赤朽葉家の大奥様タツ、嫁の万葉、その子供・毛毬の生き様を、万葉の孫娘である瞳子(とうこ)が語る。女四代の昭和大河小説。

 この本を貸してくれた友人や、ブログお友達など、「桜庭一樹の中で一番いい!」と絶賛の一冊でしたが、私は、いまいち、苦手でした。

 私は、登場人物の一人である毛毬とほぼ同世代で、毛毬の人生をリビューするあたりは、「そうそう、そんなこともあった」「ああ、あの頃は、確かに、そういう空気が流れていた」とうなづくところも多かったのですが、ただ4人の人生を詰め込むというのは、どうしても、早足にならざるをえず、印象としては「昭和史全記録」とかいう百科事典を熟読するでもなくパラパラとめくっているような印象でした。

 時々、テレビの昭和を振り返る番組などで、バブル期のファッションとか化粧とかみると、絶句するというか… 「こんな、ダサダサなものを、みんながステキと信じていたんだなぁ」と気恥かしいような気分になります。毛毬の人生を振り返りながら、私の中で若干、美化して記憶に定着させていたことが、実は、そんなにカッコイイもんじゃなかったということを突き付けられるのも片腹痛いかなぁと…。

 でも、究極的に言うと、文章が美しくない。ライトノベルなら、ま、いいんじゃないのと思えるかもしれないけれども、大河小説なら、もっと、キリッとして、密度の高い文章であってほしい~と思うのは、読者の身勝手でしょうか。それに、妙にオカルトチックなことや、万葉の子どもの名前が「毛毬」「泪」「鞄」など、ありえなく不自然なことも気になりました。もちろん、それが、ある種のメタファーであることは理解できなくはないのですが…。

「植物図鑑」 有川浩

2009年08月16日 | あ行の作家
「植物図鑑」 有川浩著 角川書店 (09/08/16読了)

 ヘクソカズラ=屁糞蔓。あまりにも強烈な植物の名前から物語はスタートします。ヘクソカズラ、誰でも一度は見たことがあるはずの、どこにでも生えている雑草。可憐な白い花を付けることから「サオトメカズラ」という可愛らしい異名もあるそうですが、茎や弦から放つ異臭から、ヘクソカズラの名前の方が定着しているそうです。

 主人公は、どこにでもいそうな普通のOL河野さやか。もちろん、マンションの敷地に生えている雑草、通勤に使う駅までの道の街路樹になど興味はなく、当然、ヘクソカズラなどという植物の名前など知らずに過ごしていた。

ところが、突然、彼女の前に現れ、同居人となった樹(イツキ)くんは、マニアックなまでの雑草博士。イツキと暮らしているうちに、いままで、名もない雑草だった草花に名前が与えられていき、2人の恋の進展とともに、さやかの心の中の植物図鑑が厚みを増していく。

「いまどき、そんなお伽噺みたいな恋愛があるか!」と突っ込みたくならないわけではないけれど、この物語、ただの恋愛ストーリーではありません。雑草の名前など考えたこともない乾いた日々の生活を送っている読者にも、道端の草花にふと目を止めてみたくなる仕掛け満載なのです。

フキの混ぜご飯、ツクシのお浸し。ユキノシタの天ぷら、ノビルのパスタ、ノイチゴのジャム。章ごとに、イツキが河原や土手で見つけてくる野草を使って作る料理が、とてもおいしそうで、読んでいるだけでウキウキしてきてしまいます。

コンビニがあちこちにできて、数百円で簡単に食欲は満たせるようになったけれど、その分、現代人は「食べることの幸せ」を失っていっているのかもしれないなぁと思う。イツキの作る雑草料理は、お金は掛っていないけれど、この上なく贅沢で、読んでいると、幸せの証しをお裾分けしてもらったような気分になれます。

私の中では、有川浩は「図書館戦争」に始まり、「図書館戦争」で終わっていました。それ以外の作品も「まぁ、なかなか、いいんじゃない」というのはありましたが… 「有川浩ってすげ~」というところまでには至らず。でも、この作品は、有川浩のストーリーテラーとしての才能に、再び、感銘を受けました。有川浩、今後も、要注目。

「本朝金瓶梅」 林真理子

2009年08月14日 | は行の作家
「本朝金瓶梅」 林真理子著  文春文庫 (09/08/14読了)

 先月、本屋をブラブラしている時に、「今月の新刊」として平積みになっているのを発見。なんの予備知識もなく「林真理子、久しく読んでないなぁ…」と思ってなんとなく購入したものです。読み始めてビックリ! 「時代小説」というジャンルで括るには無理があるほどの、エロ小説でした。まあ、あえて言えば、「時代エロ小説」でしょうか。

 これでもか、これでもかと好きもの話が続き、かなり辟易。3行飛ばしぐらいで高速斜め読みをしながら「いったい、林真理子はどこに行こうとしているのだろうか…」と怪訝な思いになっていました。

 が、巻末の「解説」を読んで、ようやく納得。解説によれば、金瓶梅は、中国四大奇書の一つで、その枠組みを借りて「本朝=日本」に置き換えた、翻案小説だったのです。日本の小説として、まったく違和感がないのですが、名前から主人公の置かれた立場まで、原作をちゃ~んと活かしているのです。たとえば、原作の富豪・西慶門は、この小説の中では札差の西門屋慶左衛門になっていて、妾の藩金蓮=おきん といった具合。ちゃんと古典の知識があって、勉強していないとここまでは書けないだろうなぁという力作ではありました。そして、エロ小説ではありますが、やっぱり、林真理子って、文章が上手なぁということには感心してしまいます。

 とはいえ。私は、やっぱり、小説家としては初期の作品である「本を読む女」(新潮文庫)が圧倒的に好きだなぁ。あの頃は、硬派な小説が多かったけれど…文春に連載した「不機嫌な果実」(文春文庫)あたりから道をそれていってしまったのだろうか…? 


「八朔の雪」  高田郁 

2009年08月12日 | た行の作家
「八朔の雪 みおつくし料理貼」高田郁著 ハルキ文庫(09/08/11読了)

 レディスコミックの原作者から転身、2007年に作家としてデビューしたばかりだそうです。ハルキ文庫の奥深さを感じました。人気作家にヒット作の二番煎じモノを依頼するのではなく、新しい作家を発掘してきて、こういうクオリティの高い作品を書かせるって(しかも書き下ろし!)スゴイなぁ。ハードカバーを経ずに、いきなり文庫で出して下さるのも、とても読者のニーズに合ってます。素晴らしい!

 お江戸・神田を舞台に、事情があって上方から流れてきた女料理人・澪を主人公にした人情物語の連作集。薄味好み、出汁は昆布の関西と、濃い口醤油、出汁は鰹の関東。食文化の違いに苦しみながらも、周囲の温かな人たちに助けられ、江戸の人にも受け入れられる澪の味を作りだしていく。脇役として登場する人々も、それぞれに味わい深く、素敵な人たちばかりで、読んでいて心が温かくなるような作品です。というか、朝の通勤電車で、いきなり、鼻の奥がツーンとなって、涙をこらえるのが大変でした。

 「料理を作っている間は、どんなつらいことも忘れられる」「おいしい-と感じることができるうちは、頑張れる」-澪の言葉として書かれていますが、おそらくは、作者の思いなのではないでしょうか。「手間をかけて調理すること」「それを味わって食べること」を大切に大切にしている気持ちこそが、この作品の質を高めているようです。

 連作の1つ1つには、澪が考えだした料理の名前がサブタイトルとして付され、さらに、巻末にレシピまで紹介されているのが心憎い。続編、熱烈、期待!!! ストーリーも素敵ですが、澪が作るおいしそうな料理をもっともっと知りたい気持ちになります。

 で、こんなにいい話、絶対に、NHKが目を付けそうな気がします。「木曜時代劇・みおつくし料理貼」が遠からず実現するんじゃないか~などと想像しております。主人公の澪は… 私のイメージでは鈴木杏です。

「神去なあなあ日常」 三浦しをん

2009年08月09日 | ま行の作家
「神去なあなあ日常」 三浦しをん著 徳間書店 (09/08/09読了)

 フリーターでもしてちんたら暮らすかぁ-と何も考えていなかった若者が、親の陰謀(?)で、高校卒業と同時に1年間の林業研修生として名古屋からローカル線に揺られた山奥の奥で暮らすハメになる。

 私の愛する「仏果を得ず」(三浦しをん著 双葉社)にも相通ずる、「若者お仕事小説」です。想像もしたこともないような未知の世界に踏み入れ、とまどいながらも、新しいことをどんどんと吸収し、柔軟に成長していく姿が清々しい。

 そして、私にとっても、未知の世界である「林業」を覗きみることができたのも楽しかったです。ややストーリー甘めで、小説としての完成度はイマイチかなぁという気もしましたが、筆者がたくさん取材して書いていること、そして、林業やそれに関わる人たちへの愛情を持って書いていることが伝わってくる、温かい文章がよかったです。




「官僚たちの夏」 城山三郎

2009年08月09日 | さ行の作家
「官僚たちの夏」 城山三郎著 新潮文庫  (09/08/08読了)

 TBSドラマで放映中。連続ドラマを見る気は無い(いいところで終わってしまって一週間待たされるのがイヤ!)ものの、たまたま見かけた番宣は格好良く、気になっていました。

 しかし、読んでみて、なんで、こんなものがテレビドラマになったのだろう-??? と素朴な疑問。 政策の話が皆無とは言わないけれど、基本的に人事と省益と通産省のメンツのための戦いがメインテーマ。

 「霞が関っていうところは、昭和40年代から一向に変わっていないじゃないか」「政治よりも、官僚が上にあると思っているのも昔からの伝統なわけね」-というツッコミモードで読めば、別の意味でエンターテインメント性はあるのですが…ま、ストーリーとしては、陳腐というか、人事の話ばかりでちょっとうんざりという気分でした。
 
TBSのドラマは、原作そのままではなくて、大幅に脚色しているということでしょうか。コップの中の人事抗争で10回連続ドラマって、相当、キツいような気がします。
 

「星間商事社史編纂室」 三浦しをん

2009年08月08日 | ま行の作家
「星間商事社史編纂室」 三浦しをん 筑摩書房 (09/07/31読了)

 ちょっとイマイチな作品でした。三浦しをん先生に敬意を表して頑張って最後まで読みましたが、実は、途中で何度も棄権したい誘惑にかられました。

 まさにタイトル通り、星間商事で社史を編纂するという話。そして、想像に違わず、社史編纂室に会社のエースが集められているハズもありません。社内のパワーバランスの外側にはじき出された微妙な人々の寄り合い所帯で、やる気なく、ユル~ク社史編纂作業を進めている。

 しかし、地味な作業を進めていくうちに、星間商事の過去の汚点にぶち当たってしまう。会社側の妨害にあいながらも、社史編纂室メンバーは、妙な責任感から「どうせ作るなら、正確な社史を作ろう」と、「別冊」という形で知られざる歴史を暴いていく…という、ライトミステリーなのか、これは???

 ライトミステリーにしては、その、「知られざる歴史」の部分が、あまりにもお粗末な物語で、かなりげんなりしました。設定に無理ありすぎだし、あり得無さすぎだし。

 web連載さてれいたものを一冊にまとめたとのこと。web上で流し読みする分には、まあ、いいかもしれませんが、ハードカバーのちゃんとした活字本にするのは苦しい。筑摩書房、もっと、きっちりとした本を作っている出版社-という印象だったので、ここでも、ちとガッカリ。