「手紙」 東野圭吾著 文春文庫 (08/07/25読了)![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/clover.gif)
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正直、もろ手を挙げて絶賛モードにはなれないのですが…でも、ぐいぐいと読者をストーリーに引きずり込む力のある作品だと思います。頭の中では色々と理屈でケチを付けつつ、でも、ページをめくる手は止められません。なるほど、映画にしたくなる気持ちは、よくわかります。
「手紙」は、強盗殺人事件を起こし刑務所に収監されている兄から、弟に宛てたもの。時の流れがとまったような刑務所の中にいる兄の手紙は、ひたすら、弟に詫び、弟を思いやり、手紙を通じて弟とつながっていることを望み、弟からの返信を切望している。ところが、現実の社会で生きている弟の心はうつろっていく。最初は、不器用だけど、弟思いで、優しかった兄が人を殺したことなど信じられない-という気持ち。平仮名ばかりの拙い文章だったのが、徐々に漢字が増え、こなれた文章になっていくことを喜んだり。ところが、自分が罪を犯したわけではないのに、「殺人者の弟」ということで、様々な差別に遭遇する。望む仕事を得られず、夢をあきらめ、友人や恋人との絆も解かれ…何もかもが思うにまかせず、だんだんと、兄の存在が疎ましくなっていく。
私としては、兄が、殺人の舞台となるお金持ちの家に窃盗に入った時点からなんとも言えない違和感を覚えました。ストーリーの下地として「兄は計画的に人殺しをしたわけではない、弟思いのあまりに盗みに入ってしまっただけなんだ、追い詰められてしまっただけなんだ」という同情を誘うトーンがあるのですが、いくら弟思いだから、いくら追い詰められていたからといって、盗みをしていいとはどうしても思えないのです。ましてや、人を死に至らしめるなんて…。「もろ手を挙げて絶賛モードになれない」のは、その部分が最大の理由。でも、兄と弟、二人の気持ちが対照的に描かれている物語の中盤は、どちらの気持ちも切なくて、知らぬ間に感情移入してしまっているのでした。
物語のバックグラウンドミュージックとして、ずっと、ジョン・レノンの「イマジン」が静かにながれています。「差別なく、みんなが楽しく、幸せに暮らせるなんて-絶対に無理だよ」-弟は、そのように思い至って、悲しい重大な決断をする。確かに、「イマジン」の世界は、現実ではないのですが、でも、最後に、「イマジン」が兄と弟にとって「救い」となることに、読者である私自身も救われました。エリカ様が演じた女の子がいい味出しています。暗い物語に、彼女が光を差し入れてくれたように思います。
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正直、もろ手を挙げて絶賛モードにはなれないのですが…でも、ぐいぐいと読者をストーリーに引きずり込む力のある作品だと思います。頭の中では色々と理屈でケチを付けつつ、でも、ページをめくる手は止められません。なるほど、映画にしたくなる気持ちは、よくわかります。
「手紙」は、強盗殺人事件を起こし刑務所に収監されている兄から、弟に宛てたもの。時の流れがとまったような刑務所の中にいる兄の手紙は、ひたすら、弟に詫び、弟を思いやり、手紙を通じて弟とつながっていることを望み、弟からの返信を切望している。ところが、現実の社会で生きている弟の心はうつろっていく。最初は、不器用だけど、弟思いで、優しかった兄が人を殺したことなど信じられない-という気持ち。平仮名ばかりの拙い文章だったのが、徐々に漢字が増え、こなれた文章になっていくことを喜んだり。ところが、自分が罪を犯したわけではないのに、「殺人者の弟」ということで、様々な差別に遭遇する。望む仕事を得られず、夢をあきらめ、友人や恋人との絆も解かれ…何もかもが思うにまかせず、だんだんと、兄の存在が疎ましくなっていく。
私としては、兄が、殺人の舞台となるお金持ちの家に窃盗に入った時点からなんとも言えない違和感を覚えました。ストーリーの下地として「兄は計画的に人殺しをしたわけではない、弟思いのあまりに盗みに入ってしまっただけなんだ、追い詰められてしまっただけなんだ」という同情を誘うトーンがあるのですが、いくら弟思いだから、いくら追い詰められていたからといって、盗みをしていいとはどうしても思えないのです。ましてや、人を死に至らしめるなんて…。「もろ手を挙げて絶賛モードになれない」のは、その部分が最大の理由。でも、兄と弟、二人の気持ちが対照的に描かれている物語の中盤は、どちらの気持ちも切なくて、知らぬ間に感情移入してしまっているのでした。
物語のバックグラウンドミュージックとして、ずっと、ジョン・レノンの「イマジン」が静かにながれています。「差別なく、みんなが楽しく、幸せに暮らせるなんて-絶対に無理だよ」-弟は、そのように思い至って、悲しい重大な決断をする。確かに、「イマジン」の世界は、現実ではないのですが、でも、最後に、「イマジン」が兄と弟にとって「救い」となることに、読者である私自身も救われました。エリカ様が演じた女の子がいい味出しています。暗い物語に、彼女が光を差し入れてくれたように思います。